第33話 (……エッロっ……!!)




  ※※※※※【side:ユアンリーゼ】




(なにこれ、何コレ、ナニコレッ!!)



 ギュッ……ギシシッ……



「んんんんっ……!! はぁ、はぁ、はぁ……」



 ユアンが動くたびに締まってる……。

 洞窟の中を覗いてたけど、上手く見えないし、聞こえてくるリリア様の甘い声はえっちすぎるし……。



 ――身動き取れないよう、ガチガチにしてやる。



 あの人間(ヒューマン)は本当に容赦がないし……。


 リリア様の声を聞かされ続け、マグマの海を見つめるだけで何時間が経ったのかな……? もうユアンのことなんて完全に忘れてるよね……?



 そんなことより……。


 ギュッ……



「んんっ……!」



 なんで、こんなに締まってるのぉ!?

 最初、縛られた時より……もっと強くなってる……。



「はぁ、はぁ、はぁ……」



 ヤバい。ヤバいよ。

 ティアやフェル君、“ミリスン”にこんな姿を見られたら、ユアン……。



 ゾクゾクゾクッ……



「はぁ、はぁ、はぁ……」



 縄はもう自力じゃどうしようもない。

 動けば動くほどユアンの身体を締め付けて、食い込んで……、



 ギュッギュッ!



「んんっぁっ!」



 ジンジンと鈍い“痛み”が身体中に走る。



「はぁ、はぁ、はぁ……」



 どうしよう、どうしよう、どうしよう!?

 もうこの階層に来てる。


 ナニカと……多分、炎の鮫と戦ってる。

 みんなが来るのは時間の問題!


 ……こんな姿を見られる。

 エルフ族で最高戦力のユアンのこんな惨めでマヌケな姿を見られる……。


 ギチギチの縄に身体中を締め上げられ、身動きも取れなくて、“痛み”に感じちゃってるユアンを見られる。


 ユアン……、呆れられて、嫌悪されて、氷のような目でユアンを心の底から軽蔑した瞳で視姦されるの……?



 ゾクゾクゾクッ……



「はぁああっんっ……!!」



 想像で身震いすれば、更に縄はユアンを締めあげて痛みを与えてくる。2人はユアンのことなんて完璧に忘れて……、いや……、ちょ、ちょっと待って……。



 ――限界が来たら逃げていいぞ……?



 あの人間(ヒューマン)は……、ユアンが“こう”なるってわかってて放置してる……?



 ギュッギシッ……!!



「んんっ。ぁっあぁっ……!! はぁ、はぁ、はぁ……」



 身体の奥がキュンキュンとして仕方がない。

 今すぐにでも触れたいのに、絶対に触れられない。


 ユアンを……。エルフ族の“武”を……。


 全て計算して、こんな家畜のように……。



 ゾクッ……ブシュッ……



「はぁ、はぁあっ、んっんっ……。ご、“ご主人様ぁ”……ぁああっ……!!」



 ガクガクガクッ……



 ユアンは“あの人間(ヒューマン)”の光のない漆黒の瞳と、微かに口角を吊り上げた嘲笑を思い出すと共に、身体を痙攣させた。



 感じたことのない快感が押し寄せる。



「ぁっああっ! あっんんぅっ!!」



 痙攣すれば、更に締め付けられる縄。


 永久機関の完成。


 “他のみんな”が来てるがわかってるくせに放置されている状況。数時間もの間、マグマを見つめながら飲み水すら与えられない環境。もう炎の鮫を屠り去ってしまいそうな戦況。




「ユ、ユアンがバカでしたぁっ!! ユアンが全て悪かったですぅっ!! も、もぉ、絶対にっ、な、なんでも言うことをお聞きします!! ご主人様ぁあ!! な、縄を、も、もぉ、おかしくなっちゃぅうっ!! ぁっああっ!!」




 ユアンは絶叫した。


 エルフの武の象徴として数100年を生きて来たユアンが、こんなにも情けない声で助けを求めてる……。


 ゾクゾクッ……


「ふぅうっうっんっ………!!」



 リリア様の声は止んでいる。

 きっと聞こえてるはず……。早く、早くっ!!



 ポワァアッ……



 目の前の氷の奥に淡い光が灯る。



 やっと解放される……。

 このウズウズから解き放たれる……。


 早く……早く縄を解いて……。

 自分の身体に触れさせてぇっ……!!



 ユアンは心の底から懇願しながら必死に顔を上げたけど……、




 ドサッ……



「…………ふっ、なにしてるんだ、お前」



 目の前に胡座をかき、顎に手を置いてわずかに口角を吊り上げ嘲笑される。




 ゾクゾクゾクゾクッ!!



「も、もぉ、許してください、ご主人様ぁ!! ぁっ!! んんんっ!! ぅゔっ!!」



 解放するために来てくれたと思ったのに、解放してくれないという事実に、ユアンは再度、絶頂を迎えた。




   ※※※※※




(……エッロっ……!!)



 俺は率直にこう思った。


 身体のラインを強調するように締めあげている縄。ヨダレを垂らしながら恍惚とした表情を浮かべている絶世の美少女。


 アヘアヘして物欲しそうに痙攣しているユアンは、数時間前まで、バカ明るくて、心の底からうるさくて、めんどくさく、顔だけのエルフからはかけ離れている。



「はぁぁあっんっ……。も、もぉ、おかしくなるぅ! このままじゃ、ユアン、ヘンになるぅ! 早く解いてぇ…!!」



 ピクピクと身体と声を震わせる懇願。


 まあ、数時間前の俺なら、動けないことをいいことに縄を解くフリをしながら身体をまさぐっていただろう。



 だが……、俺は大人になったのだ。


 満たされに満たされた今の俺は、そんなゲスなことはしない。……だが、素直に言うことを聞いてやるのももったいない気がしているのも確かだ。



 結果……、



「…………ふっ」



 もうしばらく静観することにした。


 ユアンはプルプルと震えながら更に恍惚とした表情を浮かべて、「ぅうゔぅっ……」と悶える。


 なんだか喜んでいるようにも見えるから不思議だ。



「み、みんなが来ちゃうぅっ! 早くしないとこんな姿を見られちゃうよぉ!! んぁっ……!!」


「…………」


「早くぅ! もう、絶対に邪魔しないから! 言うこと聞くから!! “ご主人様”に従うからっ!! 早くっ……んっ、あぁあっ……!!」


「“ご主人様”……?」


「ちゅ、忠誠の証にぃっ、ィッ、んんっ!!」


「…………」


「ル、ルーカス様、主(あるじ)様、人間(ヒューマン)様、旦那様、ご主人様ぁ、ぁあっ!!」



 ユアンは一息に叫び、また身を捩る。

 どうやら縄が食い込むのが気持ちいいらしい。


 …………め、めちゃくちゃ変態だ。


 このエルフ、マジで逝くところまでイッてしまっている。流石の俺も、ちょいとドン引きするが……、まあやはりこの“絶景”に罪はない。



「お願いっ……おねがいしますぅうっ!! 早くユアンを解放……して下さいっ……!!」



 なんか、ちょっと楽しくなって来たのだから俺もなかなかの変態だ。あんなに「人間」という種族を見下していたくせに、必死に懇願する姿はシンプルに気分がいい。


 というより……、“このままずっと放置してたら、ユアンはどうなるんだろう?”という好奇心が抑えられない。



「お前、エルフの中でもかなりのヤツなんだろ?」


「えっ、んっ……は、はい……ぃいっ!」


「エルフという種族は人間(ヒューマン)を見下してるんだろ?」


「ぅっ、……ッッ!!」


「早く答えろよ」


「は、はぃ……!!」


「ふっ……。んじゃ、お前……、エルフの恥だな」


「……ッッ!!!!」



 ユアンはプルプルプルっと身体を震わせ、恍惚とした笑みを浮かべて「はぁあっ!!」と悶える。



「は、ぃ……。ユアンはエルフの恥ですぅ……ぁっ」



 涙を浮かべながらヨダレを垂らすユアン。

 そのあまりの征服感に、なにやら、俺も“ヘンな感じ”のスイッチが入ったのを感じる。



「なんだ? 恥と言われて悦んでるのか?」


「……は、はぃっ!!」


「エルフってのはお前みたいな変態ばかりなのか!?」


「ちっ、ちがっ、ユアンは変態なんかじゃ、」


 

 クイッ……



 俺はユアンの顎を持ち上げる。



「ふっ……。縄で縛られてるくせにヨダレ垂らして喘ぎまくってて、変態以外の何者でもないだろ……?」


「……ひゃ、ひゃい!! ユアンは変態です! 縄に締め付けられて、ヨダレを垂らして悦ぶような、エルフ族の面汚しですぅう!! お、お仕置きしてください! ユアンをめちゃくちゃにして下さいぃっ!!」


「……ハッ、なんでお前の言うことなんて聞かないといけない? 誰がお前にそんなことを許した?」


「んんんっ! ご主人様ぁあっ!!」



 ビクンッ、ビクンッ!!



 目の前で大きく身体を震わせるユアンの瞳の焦点が合っておらず、流石にヤバそうだと俺は我にかえった。

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