第24話 〜さぁ! 交渉の時間だな?〜




   ◇◇◇




「あははっ!! 脳を撃ち抜かれて壊れた人形みたいにみんな死んだよ! 姫様、コレでいいんだよね?」


「……はぁ〜……。なぜアナタは勝手に」


「えぇっ? だって僕らの顔を見られてるし、あの駒共から僕らの情報が“アイツら”に伝わっちゃったら面倒でしょ?」


「わざわざ殺さなくとも活用法はあったのだけど……?」


「ちゃんと帝国のヤツらは殺してないじゃん。周りの魔物のついでにちょちょいとしちゃったのさ!」


「……」


「ま、また補充すればいいんじゃないのさ?」


「……はぁ〜」



 風の大精霊“シルフ”に姿を変えているフェルマリエンは、「よかれと思ったのにさ……」などとボヤキながら本来の姿に戻ったのだが……、



 ズズズッ……


 

 それと同時に、自分の腕を侵食してくる黒い紋様に言いようのない焦燥を抱く。



「……えっ、ね、姉さん!!」


「……フェ、“フェル”!?」


 助けを求められたミリスは慌ててフェルマリエンに駆け寄るが、その黒い紋様に言葉を失う。



「ミリス! 退けなさい……!! 《解呪雫(ディスペル・ドリップ)》!!」




 ポタッ……



 ティエリアが即座に呪法の類と判断し、解呪の雫を垂らせば、グジュウッと肉が焼けるような音がフェルマリエンの腕から鳴る。



「くっぅ……っ!!」


「……《解呪雫(ディスペル・ドリップ)》! 《解呪雫(ディスペル・ドリップ)》!!」



 グジュウ……ズズッ……



 フェルマリエンの右腕を侵食したところで、黒い紋様はなりを顰めるが、ティエリアはゴクリと息を呑む。



(……止めれただけですね……。コレはいまのわたくしでは解呪できない……?)



 この呪法がどんな意味を持つのかわからないティエリアはギリッと歯軋りをするが……、


「ね、姉さん……姫様……。く、来る!!」


 苦痛に顔を滲ませたままのフェルマリエンの言葉にハッと我に帰る。




 スシャッ……




 そして、首元にヒヤリとした物が這う。



「お主らは誰かのぉ……?」



 ジェイドの声は低くしゃがれている。



 本来であれば、近接最強のユアンリーゼがコレを許さない。精霊王の化身たるフェルマリエンが、弓聖のミリスが接近すらを許さない。


 最愛の弟が苦しんでいなければ、ミリスだって牽制の一つでも放っただろう。冷静沈着なティエリアが“呪法”に意識を持っていかなければ、この状況は決して生まれなかっただろう。



 勝手をしたフェルマリエンの暴走。

 敵戦力の把握を第一としたティエリアの慎重さ。



 この二つが要因ではなく、全ての元凶は……、オークウェル王国の“予言の巫女”……。彼女のルーカスへの愛から生まれたもの……。



 キキョウはラストたち全員に同じ魔道具……いや、呪具を埋め込んでいた。ラストたちの命を代償に『×4』。ルーカスの【凪】に無力化されないように重ね合わせた“呪具”。


 

 それがフェルマリエンを蝕んだ。

 小国の聖女。エルフ族の“神の子”ですら、侵食を止めることしか叶わなかった“1つの呪い”。


 詳細は「性器の不能」。

 それに一文が追加される。


 『キキョウ・ツクモの前以外では』


 しかし、くしくも『呪印』は不完全となる。


 残ったのは「精霊王の化身」とされる優秀なエルフが子孫を残せないという、大打撃。コレに気づくのはもう少し先のこととなるのだが……。


 兎も角、それが、エルフ族の精鋭に付け入る隙を生み出したのだ。



「……この“劣等種”が……。誰に刃を向けているのか理解しているのか……?」



 ズワァアッ……!!



 キューリエンヌに首を抑えられているミリスはティエリアの姿に激昂するが……、



「ふふっ……。そうでなくてはなりません」


 

 ティエリアは綺麗な笑顔を浮かべた。



 ツゥー……



 ジェイドのコメカミに冷や汗が伝う。この状況が偶然の産物で生まれたことは重々承知していた。目の前のエルフたちが一つも焦っていないことも理解していた。


 本来であれば今すぐにでも首を斬り飛ばし、排除したい。この機を逃せばもう後がない。


 それを理解しているジェイドは身体の震えを抑えるのに神経を使ったが、今、この場で決定権を持っているのはジェイドではないのだ。



 パチンッ!!



 両手を勢いよく合わせたのはバロンだ。



「さぁ! 交渉の時間だな?」



 ニッコリと笑った大陸最大の領土を誇る帝国「アドクリーク」の第15皇子、“バロン・キュロー・ミカエリエ・アドクリーク”。



 “オークウェル”の者たちを屠った。

 人を殺すことに何の躊躇もない。

 力量差はあちらが“上”。


 それなのに、自分たちに1人の犠牲者がいない。



 “『目的』は一緒なのでは……?”



 バロンには確信にも似た直感があった。

 ここは“外交の場”。



(ルーカス相手よりは、ずいぶんと優しいな)



 聞く耳を持たず、いくら口説いても一切、靡かない相手じゃない。頭を回転させ、自分の“利”を求める相手。



「話を聞かせてくれ。“命と理性”の保証をしてくれればこちらも譲歩できることは多いと思うぞ……?」



 バロンは人懐っこい笑顔を浮かべながら小首を傾げた。


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