第22話 〜ティエリアの憂鬱〜
◆◆◆【side:ティエリア】
「素晴らしい樹海ですね。ティエリア様」
「ねぇ、姫様。異物がいるって“風”が騒がしいけど?」
「あはっー! いい森だねぇー!!」
……ま、まあ、いいでしょう。
無表情で付き人気質のミリス、自分至上主義で楽観的なフェルマリエン。真逆とも言える性格の姉弟。
それに加えて自由人で好奇心旺盛、戦闘狂のユアンリーゼ。
エルフの姫とはいえ、この者たちをまとめ上げるなんて無理な話……。だからこそ、体制が整ってから呼びたかったのですが……、
「ティエリアぁあ……早く褒美をッ!!」
「……」
「い、1番はワシじゃあ!!」
「ティエリア様!! ウチは魔物を倒してきます!!」
ラストさんたちでは話にならない。
ラストさんは“サポート”すればまだ使える。ドイルさんはこのパーティーで盾役としては優秀。
問題は“下2人”。
ヒルデさんの回避能力は買いますが、攻撃力不足。至近距離に近づく必要がありますし、いつ死ぬかわかったものじゃない。
マーティスさんは論外。
いくら4属性の魔法が使えても威力が弱すぎる。わたくしがサポートすれば、それなりに有効打を与えられるかもしれませんが、消費する魔力量を考えればリターンが少なすぎる。
「それで……ティエリア様。皆殺しでいいんですか?」
「いいえ、ミリス。計画は駒を増やすことにありますし、あなたたちの力はあまりさらさないように……。まずはこの駒たちで敵戦力を計ります」
「えぇ〜……。僕が動けばすぐなのに!」
「いけませんよ、フェルマリエン。あなたは“奥の手”。万が一でも基本戦闘はミリスとユアンリーゼで、」
「ねぇねぇ、“ティア”。ユアンより強いヤツがいるよ? 行って来ていい?」
「……ふっ、あなたより強い?」
まったく……。なにを言い出すのかと思えば、馬鹿なことを……。
誇り高きエルフ族の最高戦力。限りなく生態系の頂点に近いユアンリーゼより強者など、“人間(ヒューマン)”に存在するはずがない。
「戦ってみたいなぁ〜……。“魔王”とどっちが強いかな?」
「まったく……。冗談でしょう? あの化け物共と同等な人間(ヒューマン)なんて、」
「ごめん、ティア! ユアン、行ってくるね!」
タンッ!!
「ま、待ちなさい!! ユアンリーゼ!!」
わたくしの声は届かない。
一瞬でコメツブ(米粒)のようになっているのだから届くはずがない……!!
「はぁー……。あ、あの戦闘狂……!!」
「大丈夫さ、姫様。確かに人間(ヒューマン)らしくないけど、所詮は人間(ヒューマン)。ユアンが遅れをとることはないよ」
「そんな心配をしてるわけじゃないです。わたくしにも考えがあります。好き勝手に動かれれば練り直しになるでしょう?」
「僕と姉さんの“合技(ゴウギ)”で“残り”を殲滅しちゃえばいいじゃん」
「わたくしたちが人間(ヒューマン)の前に出ることは相手の死が確定してからでないといけません! 念には念を入れて、」
「はぁ〜……姫様は考えすぎなのさ。そもそもあんなに準備しなくたって、僕たちがいれば一瞬さ」
「アナタ……計画の内容は覚えているの? ……それに、人間(ヒューマン)は狡猾なのですよ? その油断が命取りになることだって考えられるのです」
「姫様はさ……、僕たちが信用できない?」
フェルマリエンは心の奥底を覗くかのように小首を傾げるが、里にこもってばかりだった3人にはわからないのだ。
――コレがあれば我らが世界の覇権を……!!
人間(ヒューマン)の貪欲さや狡猾さを……。
尽きることのない支配への欲求を……。
寿命の短く、魔力量も安定していない劣等種である人間(ヒューマン)が、なぜ生き残り続けているのかを……。
「信用していないわけではありません……。ですが、わたくしは19年、“外”で過ごし、人間(ヒューマン)を見て来ました」
ここで怯んでなんかいられない。
フェルマリエンは数千年ぶりにエルフ族に降り立った精霊王の化身。ユアンリーゼは数万年ぶりに宝剣に選ばれた最重要戦力。
わたくしはエルフ族の歴史上初の“神の子”。
この奇跡が重なり合ったのは偶然ではない。
数億分、数兆分の確率の中、わたくしたちが同じ時代に生まれたことは“ナニカ”の兆候。
――世界樹を取り戻すのは、今じゃ……。
現里長である“お婆様”の言葉を果たす。
「フェルマリエン……。次期、里長として命じます。“わたくしたちの悲願”を達成するまで油断は許しません……」
「…………はぁ〜……はいはい。わかったよ。姫様のおーせのままにっ!」
フェルマリエンは口を尖らせてフイッと視線を外す。
「……フェルマリエン。ティエリア様への態度を改めなさい。いくらあなたとはいえ、ティエリア様への粗相はこのミリスが許しません……」
「うるさいよ、姉さん。王族がそんなに偉いの? 姫様だってわかってるさ。戦えば僕の方が、」
スチャッ……
ミリスは音もなくフェルマリエンの前に移動し、瞳の目の前に弓を構える。
「“トロワーズ家”は王族の矛であり盾……。そんな当たり前のことも忘れたのなら愚弟の目を覚ましてあげる……」
「……はぁ〜……。わかったから、無表情やめてよ。怖いからっ! ね、ねぇ、姫様も早く姉さんを止めてよ! これ喰らうと僕、3日くらい動けないんだよ?」
わたくしはミリスを諌めながら頭を抱える。
これから数ヶ月、これが続くのかと思うと頭が痛くなってしまうのだ。
「……まずは帝国ですか。“剣聖と賢者”。“剣姫に精霊使い”でしたか……」
確かリーダーは帝国の皇子(おうじ)。スキルは【不死確率(アンデッド・プロバビリティー)】……。
確率的な不死……。
はぁ〜……手駒はいくらあっても良いですが、無能が増えすぎても仕方がないです……。
「剣聖と賢者……。年老いた男性と女性以外は要りませんね……。アナタたち……。“それ以外”を殲滅しなさい」
わたくしが声をかけるとおとなしく黙りこくっていたクズ共はパーッと希望に満ちた表情を浮かべる。
(《麻薬雫(ドラッグ・ドリップ)》……)
ツゥー……
わたくしの指先から雫が垂れる。
「欲しい者は死ぬ気で成しなさい……」
わたくしの言葉に、「ぁあああっ!!」と発狂しながら駆け出した4人を見送り、髪を掻き上げる。
「なぜこんな愚弟が生まれたのでしょうね」
「冗談でしょ? 僕はトロワーズ家の最高傑作だから」
「それを自分で言って恥ずかしくないのですか……?」
「いやいや! 僕は“ティターニア”の化身。全ての四大精霊に姿を変えれるんだよ?」
「力に溺れて自分の責務を自覚しないような愚弟は黙ってなさい……」
「……姉さんの弓だって僕の力の一部じゃないか」
「話になりません。全てが自分の力だとでも言いたいのですか?」
「僕が与えられるはずだった力を姉さんが奪ったのさ!」
「……まるで人間(ヒューマン)のようです」
「なっ、なにが言いたいのさぁ!?」
2人の口喧嘩も19年ぶりだと言うのに、時が流れた事を忘れてしまう……。
「同族と会うと時間の感覚が狂うわね……。はぁ〜……それにしても、ユアンリーゼはいつまで遊んでいるつもりかしら……」
スッと目を閉じ、“4人”の特攻を確認する。
帝国側の戦力を品定めしながら、(あんな自由人でもいてくれた方がいいわ……)と、ユアンリーゼがフェルマリエンの増長をマシにしてくれることを期待した。
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