第21話 で? 上への道はどっち?
◇◇◇
――122階層「森林樹海」
「んっ……はぁ、ぁっ……んっ……はぁ、はぁ」
……溶けていく。
ほろ苦く、とても甘く、独特な香りの中。
「ルー、カス、君っ……んっ、はぁ……はぁ、ぁっ」
溶けていく。
2人の唾液がゆっくりとチョコレートを……。
「はぁあっ、んっ……んぅっ、ふぅぁっ……ぁっ、んっ」
溶けていく。
柔らかい舌の感触と快感が俺の中に。
「ぁっ……んんっ、んっ……」
ギューーッ……
俺の服は強く握りしめられ、さらに奥まで舌を差し込み絡めとる。
「んんっ、ぁっあっ……はぁあっ」
苦しそうに離れた唇。
ねっとりとした唾液は糸を引き、唇に帰った。
「はぁ……、はぁ……はぁ……」
トロンとした紺碧の瞳。紅潮した頬。
暗がりでもわかる濡れている唇……。
「ごめん……なさい……。残ったの……ボクが食べちゃった……はぁ……はぁ……」
ゾクゾクッ……
た、堪らん……!!
2人で溶かして小さくなった“チョコ”を食べて謝るリリアがエロすぎる……ッ!!
2人、俺の寝床に寝そべって貪るように舌を絡め合い、高級と呼ばれるだけはある……というより、すっかり俺の大好物になってしまったチョコとリリアを堪能する夜の日課……。
「リリアッ……!!」
俺は堪えきれずリリアの“上”に行くが……、
「み、みんなもいるからダメ……だよぉ……」
全然ダメじゃない表情のリリアに静止させられる。
「「…………」」
我慢も限界の俺はいろんなところを固くして、それに気づいたリリアは恥ずかしそうに頬を染めて視線を逸らす。
「はぁ、はぁ……。あつ……い……」
リリアは鬼だ。
こんなリリアを見せられて我慢できるはずも……、
ピクッ……
「もう我慢できない!」と叫び出しそうな俺は察知してしまう気配に殺意が湧く。
「おい、キュー。どうすんだよ、ヤッてたら」
「はぁ〜……、バロン。ここはダンジョン。性交渉などするはずがないよ。ルーカス様とリリア様は獣じゃないんだから」
「いやいや、万が一を考えろよ。“リリアさん”の裸を見ようもんなら、俺、絶対に殺されるぞ」
「心配しすぎ。ルーカス様たちの戦力は絶対に必要なんでしょ? じゃあ、何度もお願いするしかないよ」
「まぁ、ルーカス殿が頷くとは思えんがのぉ」
「師匠。ずっとこの階層に留まっていても仕方ありませんよ?」
「それはわかっとんじゃが……」
コソコソと話してても俺には丸聞こえ。
コイツらがこの階層に居座って4日目。
――あと5日間はこの階層で準備をしなさいって巫女様が《予言》をくれたよ!
あのクソ女(キキョウ)しかり、帝国連中しかり……。
一体、どこまで俺の邪魔をすれば気が済むんだ……?
「はぁ〜……」
「……ル、ルーカス君? ボクもルーカス君とならって思ってるよ……?」
俺の下で小首を傾げるリリアの瞳は潤んでいて、どこか不安気だ。急にバカ共の方を向いたし深くため息を吐いたから、俺が不貞腐れているように見えたのかもしれない。
「ふっ……。ありがとな、リリア……」
リリアはちゃんと言葉にしてくれるようになった。
それは本当に喜ばしいことだし、表情から感情を察することが苦手な俺にとってありがたいことなのだが……、
「えっと……、初めてだし、うまくできるか不安だし……ルーカス君の……が、ほ、本当にボクの中に入るって考えたら少し怖いけど……でも……、ボクの全部をルーカス君にあげたいし……ボクも……、その……、ほ、欲しぃ……から……」
結果として、俺の生殺し状態を悪化させ続ける。
……あーもぉー!!
ちゅっ……
俺は軽いキスをリリアに落とし、スッとリリアから離れた。
「……ルーカス君?」
「リリア、人が来てる……。帝国のヤツらだ……」
「……ぅ、うん」
リリアはハッとしたように起き上がり赤い顔をパタパタと仰ぎながら、平静さを取り戻そうとしている。
……うん。はちゃめちゃ可愛い……。
今すぐにでも帝国連中を屠り去り、2人きりになりたい。あのクソ女(キキョウ)に心酔しているリリアの目を覚ましてやりたい。
だが……、“また”殺してリリアに嫌われたら?
あのクソ女(キキョウ)をバカな俺が貶めようと口を開いて逆に嫌われたら……?
そんなことできるはずがない。
なぜなら、ここ数日……。
俺にはリリアしかいないと実感してばかりだからだ。
――身体を使って……、お背中……お流しします……。
初日、帝国の女剣士は号泣しながら全裸だった。ジジイとババアを救ったお礼と“その後”の粗相に対する謝罪だとかなんとか……。
まあ、普通に「じゃあ、頼む」とお願いしたが、いい女のぽにゅんぽにゅんを堪能する前に、「だ、ダァメェええ!」と飛び込んで来たリリアに止められた。
……ふっ、まぁ正直、プンプンしてて可愛かったリリアの印象しか残っていない程度の出来事だが、そんなに号泣するほど嫌ならなんで来たんだ……と泣きたいのは俺の方だった。
――レ、レイアは美味しくないですぅ……。
帝国のメスガキは俺を化け物認定しているのか、未だに目が合った事すらないし、近くに行くと半泣きになる。
会話を始めようと声をかけたわけでもないのに……と普通に傷ついているが、別にガキに興味はないし、じゃあ俺の生活圏に入ってくんなって感じだ。
――あたしはアンタに興味深々だよ!
そもそも、ババアは論外だ。
ロクな興味の持ち方じゃないのがヒシヒシと伝わってきたのでガン無視している……。ジジイと重騎士も同様だ。
……もう、めんどくさくて仕方がない!!
ここ数日間で感じることは、「帝国には頭のネジがぶっ飛んだヤツしかいない」という事実と、俺が「クソ女(キキョウ)の手のひらの上に乗っている」という実感だけなのだ。
「ルーカス様!! リリア様!! お邪魔致します! まだ起きておられますか!?」
万が一、寝てたらうっかり殺してしまいそうな声量の女剣士に頭を抱える。
「あっ、はい!」
リリアが返事をすると我が物顔で女剣士と重騎士、ジジイが俺たちの愛の巣に侵入してくる。
「ルーカス様、リリア様。私たちと行きましょう!」
「……えっと……、ボクたちは“獣国”のみなさんを助けに上に帰ろうと思ってるんです」
「はい。それはお聞きしました! この際、それも悪くないと思い、私たちも同行させて頂こうかと」
「えっ……」
リリアは驚いたようにポツリと呟き、俺の方に視線を向けるが……、
(コイツら……マジでいい加減にしろよ……)
俺はフルフルと首を振りながら頭を抱えた。
――「予言の巫女」に“獣国の双子を助けろ”と言われたから上に帰るぞ……。
4日前、地上に帰るために、なんとしても下に降りたくない俺は、リリアを納得させるためにクソ女(キキョウ)の言葉を利用した。
獣国のヤツらを助け、仲間に引き入れる。
ふっ……、あとは簡単だ……。
獣国のヤツらを脅しまくって、“地上に帰りたい”と言わせてみせる。俺は仕方がなしにそれを支持しよう!
そうするとどうだ?
『仕方がないから地上に帰ろうの図』の完成だ!などと考えていたのに、ここに帝国連中が追加されてみろ……。
――シャッア! んじゃ、行くか!
――私たちは更に最強になりました!
このバカ重騎士とバカ女剣士は余裕でこのくらいは言ってのけるだろう……。
「はぁ〜……俺たちはお前たちと馴れ合うことはないと何回言ったら理解するんだ? チョコとクッキーと酒を置いてさっさと行ってくれ……」
もう軽く頭すら下げてお願いしてるのに……、
「……ルーカス。お前たちとじゃないと俺たちは動かないぜ?」
話が通じない人間はどこにでもいるもんだ。
コイツは本当に頭のネジが飛んでいるんだろうか……?
俺は比喩でもなんでもなくコイツを殺した。
リリアの助けがなければ確実にコイツは死んでいたんだから見当違いってことはないはず……。
一度は殺された相手に、何度も何度も何度も何度も何度も何度も……。コイツは生粋の変態なのかもしれない。
「カッカッカッ! 確かにルーカス殿の力量を体感して、放置できるはずもないのぉ」
高笑いしているが、ジジイもだ。
“刀”を握る指を落としたんだぞ?
このジジイにとって何よりも大切な、刀を握る指を奪ったんだぞ……?
「ルーカス様! リリア様!! 私たちに力を貸して下さい! 攻略後、帝国が権利を独占しないと誓います! ……バロンが」
「「「「……」」」」
「お望みとあらば、帝国での地位も保証しますよ!? ……バロンが」
「おい、キュー。“バロンが”じゃねぇよ」
「えっ? だってバロンがリーダーだし、一応、“殿下”だし」
「……だ、第15皇子(おうじ)だけどな」
「まあ、ワシとババアも一緒に陛下に報告すりゃ、問題ないじゃろう。なんなら明日にでも、“通信”して陛下に誓約させてもええの」
帝国連中の戯言を聞きながら、(めんどくさいし、もう寝るか……)などと思っていると、
ふわっ……
冷たい風が俺の頬を撫でる。
ザッ!!
即座に立ち上がった俺はリリアが準備していた保存食やら魔道具やらの荷物をまとめ始める。
「「「「……」」」」
静まり返った愛の巣の中、全ての荷物をまとめて、困惑しているリリアをヒョイと抱える。
「えっ、えっ? ルーカス君!?」
「“ナニカ”来たぞ。お前らもババアとメスガキのとこに戻れ。俺たちはさっさと上に帰る……」
俺の言葉に、ジジイが駆け出し、その後を重騎士が追う。ワンテンポ遅れて女剣士が駆け出したのを見送って、俺はリリアに声をかけた。
「で? 上への道はどっち?」
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