第14話 “めんどくさい”は伝播するんだぞ?






  ◇◇◇◇◇



 ――帝国“アドクリーク”vsニトロトレント




 グザッグザンッ!!

 ドゴォーンッ、バゴォーーーーーンッ!!



 俺とリリアは少し離れたところから帝国のヤツらの戦闘を眺めている。



「木の根がうざってぇな、クソッ!!」


 イケメン重騎士が盾役と最前衛。


「バロンはヘイト管理と回避に専念して!」


 乳丸出しのいい女剣士が前衛。


「カッカッカ!! ほれ! 当ててみぃ!!」


 ジジイは単騎でサポートと撹乱。



「みなさん、《治癒精霊》の加護をッ!!」

「――魔を祓え”《浄化聖域(ホーリーエリア)》!!」


 メスガキは中距離で回復や精霊攻撃?などをこなし、後衛で結界や支援魔法で強化(バフ)と弱体化(デバフ)を操るババア……。



 思った以上に、“ちゃんとしてる”。


 まぁ元メンバーたちがクソすぎるのもあるが、コイツらはバランスが取れたパーティーだ。欲を言えば気配遮断に長けた器用貧乏が欲しいが、おそらく、どこかで死んだのだろう……。



 ……ってか、早く終わらせろよ。

 クソみたいに無駄な動きしやがって……。



 俺がこの場にいるのかは単純な話だ。



 ――ルーカス君、素材系ドロップは要らないんだったらお菓子と交換できるように交渉してみようか……?



 ドロップ品を集め、“静寂”から戻った俺はリリアの発言に衝撃を受けた。


 周りの人間などリリア以外どうでもいい俺には無い発想だ。確かに帝国側にはかなりの利。


 俺としても、不必要の素材ドロップがクッキーや“ちょこれーと”に化けようとしているのだから「めんどくさい」など言ってられない。


 帝国には無機物を転送させるというイカれ魔道具があるらしく、“地上”に恋焦がれる俺は血涙しそうだった。



 ――“ちょこれーと”は食べたことがあるのかの?


 ジジイはニヤリと笑っていた。「恩を返したいんじゃ!」などとほざいていたが、俺を手駒にする気満々なのはわかった。


 重騎士の馬鹿げた発言と同様、それはあり得ないが未確認高級菓子“ちょこれーと”……。


 それはなんとしても食べないとダメだ。

 俺の肌感が伝えてくるんだ……。


 “わたし、美味しいよ?”


 見たこともない“ちょこれーと”が声をかけてくるんだ。黒くて甘くて小さいらしい高級菓子……。


 王国には出回っていない未知のお菓子……。



 トゥンクッ……


 心の底から出会いたい。


 うん。無機物はいいよなぁ……。


 あの乳丸出し女のように「気持ち悪い」なんて感情を表に出さない。メスガキ幼女のように、「関わっちゃいけない人だ」なんて泣きそうにもならない。


 だからと言って心が乱れているわけじゃないぞ?


 リリアがいてくれるだけで……キスしてくれる女が……いや、セックスしてくれそうな美女が1人いるだけで、こうも心持ちが変わるんだ……。



 ドゴ、ドゴォーンッ!! 

 グザッグザンッ! グザッグザン!



 顔がある黒い大木は、木の根や枝を無数に伸ばして暴れ狂う。爆発する赤い葉っぱを飛ばしては地面をボコボコと抉り取り、視界を塞ぐ。



 メスガキとババアの風属性魔法で散らしてはいるが……、



「くっ!! マーリン様! 私に“合わせて”下さい!」

「視界が塞がれてピンポイントで《付与》ができん」


 

 多分、再生不可や阻害の《付与》?は難しいのだろう。


 ジジババは明らかに情報収集しているが、乳丸出し女と重騎士は対処に追われ、消耗戦を嫌っている印象……。


 あのメスガキは……ちょっと「変」だな……。

 このパーティーの要はあのメスガキか……。


 青と緑のオッドアイは真紅の瞳に変化してるし、精霊を“降ろした”のか、魔眼系なのか……って……そんなこたぁどうでもいい。



 なんとも言えない顔で戦局を見守るリリアの横顔が美しい……。


 なにを考えているのかは分かりかねるが、いつもの中性的な感じで真剣な表情が美しすぎる。



 はぁ〜……俺、こんな美人さんとキスしたのか? しかも濃厚なやつ……。


 俺の嫁、可愛いだけじゃないんだよな。

 美しいが留まることをしらないんだぞ……?


 …………マジかぁあ……。

 ふっ……マジかぁあ!!


 たまんねーな、おい!!



 パチッ……



 普通に見惚れていた俺は急にこちらを向いたリリアと目が合う。


 しかし……、


「……ルーカス君。……前、ラスト君たちと倒したときも、ついこないだルーカス君が1人で倒した時も短期決戦だったよね?」


 その神妙な顔つきに小首を傾げる。


「短期決戦?」


「うん。ラスト君たちの時は5分前後。ルーカス君1人の時は1分もかかってないよね……?」


「……? あぁ。まあ切り倒せば死ぬしな。下手に人数をかけるより、……“リーダー”がさっさと斬ればもっと早く終わったのに、デカブツとジジイがはしゃぐから無駄な時間がかかったんだったか?」 


「は、ははっ……」


「どうかしたか?」


「ううん。……ボク、あの赤い葉が爆発するなんて知らなかったよ」


「ん? ああ……。俺は魔力量は大した事ないから、基本的に先手を打つ。まあ、長々と戦闘を続けるなんてめんどくさいしな」


「ふふっ……そう、だよね……」



 リリアは力無く笑うとまた帝国の戦闘へと視線を向ける。


 えっと……? なんだ?

 それはどんな笑顔なんだ……?


 苦戦してるコイツらを助けて欲しいのか?


 いや、リリアは「予言の巫女」に心酔していたし、一応は『敵』という認識ではあるんじゃないのか……?


 あのイケメン重騎士みたいに「みんなで力を合わせて、みんなハッピー!」なんて、この代理戦争を楽観視してるわけでも無いだろうし、そんなクソみたいな女でもないと思っていたが……、




「ルーカス君……。ラスト君たちは……もう死んでるのかな……?」




 リリアは戦闘を見つめたまま呟いた。


 “そっち”だったか……。

 いざ、他のパーティーの戦闘を見て、思うところがあったんだろうな……。



「……さぁ? 別に興味がないな……」


 まあ十中八九死んでるだろうが俺は言葉を濁しつつ、リリアの表情をうかがうと、


「そっか……」


 リリアは少し困ったように笑う。


 ま、まさかとは思うが……あのクソザコの中に、リリアの“本当の思い人”がいるのか?と内心は気が気じゃ無い。


 顔だけはいい連中だった……。


 あくまで顔だけだが、世の中の女共はみんなイケメンが大好きなのだ。リリアとて例外ではないのかもしれない。


 強さ以外なんの取り柄もない俺と、完璧なリリア。よくよく考えれば、つり合いが取れるわけがない。



 ゴクッ……



「……ど……どうしたんだ? 急に……」


「ん? いや、今、改めてルーカス君がどれだけボクたちをサポートしてくれてたのかを実感してるんだ……」


「……えっ」


「それなのに……“どうして?”って……。ボクももっとルーカス君のサポートを明確化できてれば、違った未来も、」


「いやいや!! それは違うぞ、リリア」


 俺の言葉にリリアは驚いたように俺に視線を向けるが、ちょっと待って欲しい。


「アイツらが俺を追放するのは当たり前の事だ」


「……ぇっ」




 ドゴォーンッ!!

 ドガッ、ガッ、バゴォーーーーーン!!




 リリアの困惑した声はちゃんと聞こえている。



「リリアが俺のサポートを実感していなかった、」


「ち、違っ、」


「ああ。サポートしてるのはわかっていても、なにをしているのかわからなかったんだろ?」


「……」


「俺は懇切丁寧に自分の働きを伝える努力をしなかった。口を開けば“めんどくさい”、“眠たい”とか、舐めた事を言い続けていただろ?」



 リリアは混乱したように小首を傾げるが……、



「リリア。“めんどくさい”は伝播するんだぞ?」



 俺みたいなクズがいれば他のやつらもやる気を削がれるのも理解していたつもりだ。


 俺自身が追放されるのは当たり前だと思っているし別にリーダーたちを恨んじゃいない。


 ……確かにサポートはしてきた。

 無能だクズだと言われ続け、鬱陶しかったことには変わりないが、俺を追放したことに関しては間違いではないと思っている。


 “そうなるだろうな”と思っていたし、それを待っていたのも事実……。



「えっと……、ごめん。ボクにはちょっとわからないや……」


「……うぅーん。どう言えば伝わるのかな……。パーティーが一丸となっている状況で、ずっとやる気のないヤツがいたらどうだ?」


「……?」


「そりゃ、嫌われる。……これは、当たり前のことだ。チームワークを乱してしかいないからな」


「で、でも……」


「そうだ。俺はちゃんとサポートはしていた。でも……、それを伝えることもしないし、俺のスキルについてわざわざわかりやすいように説明した事もない……。これは“アイツら”の成長の機会を奪い続けていたとも言える……」


「……!!」


「……だからと言って、わざと嫌われるように振る舞い、追放されるように仕向けたわけでもない。いつかはこうなるとは思っていたが……、俺は自分が思ったことを言葉にし、自分を偽ることをしなかっただけだ」


「……」


「……めんどくさいから“過剰サポート”になっていたことも認めるし、好かれる努力も、仕事仲間として上手くやることもしなかったのも認めている」


「……ルーカス君……」


「『俺の追放』は何一つ間違ってない。“アイツら”が間違えたのはその後だ……」


「“その後”?」


「リリア……お前だ。お前を蔑ろにして手放したことがアイツら最大の失態なんだ……」



 リリアはただでさえ大きい紺碧の瞳を更に見開く。



「真っ当な努力と確かな力がリリアにはある……。リリアがあのパーティーに残っていれば、連中が死ぬことはないだろうし、『才能』はあるやつらだ。俺のサポートを実感しながらでも成長できたはず……」


「……ッ!!」


「あっ、いや、違う!! リリアが俺を追って来てくれて本当に嬉しいし、ありがたいし、完璧にアイツらの自業自得だ。リリアが悪いことなんて一つもないぞ?!」


「……えっ、で、でも……」



 俺はリリアのコロコロと変わる表情を眺めながら頬を緩める。

 


「ふっ……、俺はダメだ。あんな連中と仲良くなる努力はできない……というより、めんどくさいんだ……。死んでもごめんなんだよ」



 ポンッ……



 リリアの頭に手を伸ばすと……、



「『皆の者……。“全回路”を把握した。妾(わらわ)から見て右、下から22番目の枝。左、下から48番目……。堕とせば良い。それでしまいじゃ』……」



 随分と様子が変わっているメスガキがポツリと呟いた。


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