第10話 「俺の嫁」
◇◇◇◇◇
――122階層「森林樹海」
「ワシらより先行しておると言うことは、お主らは“オークウェル”の者たちなんかの?」
随分と“細い剣”を持ったジジイは、腰を落としていた構えを解いて、にこやかに声をかけてくる。
まったく……。邪魔をするなと忠告したばかりなのに、このジジイは俺のセカンドキスの邪魔をしようとしているのか……?
「はぁ……」
ただでさえ、俺のファーストキスにケチつけられてるんだ。今頃リリアとあんなことやこんなことをしているはずなのに……。コイツらは俺の“卒業”を阻止しようとしているに決まってる。
スッ……
俺は腰元のダガーに手をかけようとするが……、
「あっ、はい! ……訳あって今は別行動ですが、オークウェル王国の者です!」
リリアが普通に会話し始めたので、再度「はぁ〜」とため息を吐く。
「そ、そうか! いやいや、感謝するぞい。ワシらはたった今、そこの少年に助けられてしもぉたところじゃ」
「……あっ、はい! ルーカス君は優しくてとっても強いですからね!」
「……あ、あぁ。そ、そうじゃの」
ジジイはめちゃくちゃ顔を引き攣らせているが……、まさかリリアの可愛さに悩殺されてんじゃないだろうな……?
リリアは俺のだぞ……?
一度キスしただけで、「俺の嫁」認定した俺は、ジジイの挙動を探ろうと小首を傾げるが……、
「ルーカス君、みなさんを助けに行ってたんだ? それならそうと言ってくれれば……。ボク、急に音がする方に走って行っちゃうから、びっくりしちゃったよ」
俺の顔を見上げながら苦笑するリリアに、ジジババなんてどうでもよくなってしまう。
「……でも、流石ルーカス君だね! 確か“帝国1”の剣士と魔導師さんだよ? “助けられる”ってだけで本当にすごいと思う!」
リリアは少し小声でニコッと笑顔を作る。
……可愛い。
あぁ、可愛いぃなぁ、リリア……。
正直、この辺の魔物がいくら束になってかかって来ようが俺としては何一つとして問題ないのに……。
このジジババが“帝国1”……。
まあ確かに“変な感じ”ではある。
強者が放つ独特の、肌にピリッとくる感じを放っているのは認める。まあ、“ウチのクソジジイ”とは天地ほどの差があるが……。
どちらにせよ、あんなザコ共に遅れを取るように見えない。だからこそ、コイツらは俺の邪魔をしていると判断したんだが……、ま、まあ?
可愛い俺の嫁に免じて許してやろう!
「……俺はリリアとの時間を邪魔されたくなくて、うるさいヤツらを排除しただけだ。別にこのジジババを助けたわけじゃないぞ?」
「えっ、あ、ははっ……。ま、またまたぁ〜! ルーカス君って、素直じゃないよね!」
……み、みるみる顔を染めるリリアがたまらん。
なんだろう……。前々から何度も見てるはずなのに、「キスしてくれた女」と「そうじゃない女」って、こうも見え方が変わるものなのか……?
これが俗に言う「恋」ってヤツなのか?
……せ、性欲から来るものなのか、リリアしか俺を肯定してくれないだとか、なにがどうなのかわからないが、まあ可愛い事には変わりない……。
俺は「んんっ」と咳払いを一つして、気持ちを落ち着かせると、そもそもの話を切り出す。
「……というより、リリアも来たのか? 待っててくれてよかったのに」
「ぅ、うん。ごめんね! でも、戦闘音がしてたしルーカス君、猛スピードで行っちゃうから……」
「1人の時に魔物に遭遇してたらどうするつもりだったんだ? 危ないだろ?」
「えっ……あっ、ははっ……。ルーカス君に何かあったらって、気がついたら後を追いかけ……ッ!! じゃ、なくて!! 1人になりたくなくて! うん! 1人が嫌だったからっ!」
リリアは顔を真っ赤にしてあせあせする。
な、なんなんだよ、俺の嫁。
かわいいんだが……?
ポンッ……
リリアの頭に手を置き「ふっ」と小さく笑う。
「なにかあったら、もうキスもできないぞ?」
「……ッ!! ル、ルーカス君! 今は2人きりじゃないんだよ!? は、恥ずかしいよ!」
「ふっ、まあ即死の致命傷以外なら、リリアの《回復(ヒール)》で死ぬことはないだろうから大丈夫だろうけど……。この辺りの魔物なら、キスもその先も心配ないか」
「…………ル、ルーカス君? な、なんかキスできれば誰でもいいって聞こえるんだけど?」
「……もうリリア以外とはできないだろ」
「……ッ! も、もぉ……!」
「……? ハハッ!」
「……もぉ……顔、アツい……」
リリアは耳まで顔を赤くさせて、自分の手でパタパタと顔の熱を冷まし始めるリリアが堪らないのだが……、正直、なぜそうなったのかはわからない。
(まあ、可愛いし、いっか!)なんてリリアを愛でている俺だが、
「おぉーーい!! ジェイド! マーリン!! どうなったんだ!? 大丈夫なのかぁ!?」
いい尻をした意識のない女を担いだ重装備と男と半裸のメスガキがトコトコと走ってきた。
(またやかましいのが……)
頭を抱えたくなった俺がチラリとジジババに視線を向ければ、なんとも言えない顔で俺たちを凝視している。
「……?」
“お前らのツレじゃないのか……?”と小首を傾げる俺だが……、
「わ、若いのぉ……」
「眩しいわい……」
なにやら俺とリリアを見つめたまま急速にふけ始めやがる。
「……ご、“5人”だ。……1人いない」
ポツリと呟かれる声。
リリアは顔を揃えた“アド”……まあ名前は忘れたが、帝国のやつらが1人欠けている事に気がついたのだろう。
まぁ、俺としては本当にどうでもいいことだ。
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