今日も俺は凪いでいる〜【予言】によって集められた王国選抜PTに選出されたスキル【凪】のめんどくさがり屋な俺、やっと追放されたが雑用係のボクっ子がついて来た〜
第8話 「だ、だから……キ、キス……だけだよ?」
第8話 「だ、だから……キ、キス……だけだよ?」
◇◇◇
――122階層「森林樹海」
「くっ……!! どうなっている!!」
アドクリーク帝国、選抜パーティー“アドクリーク”。“帝国の剣姫”こと、キューリエンヌは声をあげる。
122階層「森林樹海」。
木の根は生き物のように蠢き、攻略者たちの足場を奪う。
「カッカッカッ! 情け無い! それでもワシの弟子か!」
足を取られたキューリエンヌを笑うのは、剣聖“ジェイド”。齢77の老人は自身の足に伸びてくる木の根を全て斬り伏せながら、高笑いを続ける。
「“キュー”! 今、助けっ……う、うわぁああ!!」
すぐさま助けに向かおうとした重騎士“バロン”だが、2歩目にして木の根に足を取られ縛り上げられ、「た、助けてくれぇえ!」と半泣き状態。
「キューさん! バロンさん! よ、よし! ここは“レイアたち”の出番だ……、よぉおおお!!」
まだ幼さの残る少女は帝国の最終兵器、“精霊術師”のレイアだが、すぐにバロンと同じ結末を迎える。
「ちょ、……やめっ! くっ……!!」
キューリエンヌは足を取られ、木の根に絡みつかれ……、
「んっ……ぁっ、やめっ……!! だ、だめ……だ! や、やめっ、んっ……。くっ……!! い、いやぁああ!」
“変なところ”をまさぐられ、ジワリと顔を染めて絶叫する。バロンは首に木の根を縛られ意識を失い、1番幼いレイアは……、
「らめらめぇえ! いぃやぁああ!! んっ……ぁっう! み、“みんなぁ”……早くっ……!! た、ぁっ、すけてぇええ!!」
必死に悶えながら精霊たちに助けを乞うていた。
「……魔物ではない! この階層そのものの特性じゃ!」
帝国1……いや、世界で3本の指に入ると言われている魔術師“マーリン”は即座に現状を把握し、
「《風刃乱牙》!!」
グザッグザッグザッグザッ!!
キューリエンヌたちを縛っていた木の根を乱れ狂う風の刃で切り裂き、ポツリと一言……。
「なんでジジイには行って、ババアには来ないんじゃ!!」
剣聖ジェイドには木の根が向かい、自分には木の根一本すら向かってこないことに腹を立てる。
グザッグザッグザッグザッ……
「カッカッカッ。枯れてる女子(おなご)には木の根も興味がないんじゃろうの」
「やかましい! お主も枯れとるじゃろ!」
「バカか。健在じゃわい!」
「若い頃でも短剣じゃったくせに生意気な!」
「こ、このババア! 首と胴を切り離したるわ!!」
「ジェイド様! マーリン様! 今はそれどころじゃないですぅ! バロンさんが息してません!」
痴話喧嘩するジジイとババアに、解放されたレイアがボロボロの服装で止めに入るが……、
「「ほおっておけ!」」
2人は声を合わせてレイアを怒鳴る。
「ふぇえ……」
レイアは半泣きになりながら意識のないバロンの肩を揺すっているが……。
「ゆ、許すまじ……」
解放されたキューリエンヌはクルリと身体を翻し地面に着地すると……、
「ゆ、許さんぞ。わ、私の身体をもてあそびよって! ぜ、絶対に許さんぞぉお!!」
ポヤポヤと顔を赤くしたままチャキンッと剣を抜いた。
「落ち着け、バカ弟子!! “嫌な感じ”じゃ!」
「バ、バカ者! 階層の仕業じゃと言うた!! 魔物ではないんじゃぞ!? 必要以上に傷つけてはならん!」
ジェイドとマーリンはピタリと喧嘩をやめ、焦ったように声をかけるが、キューリエンヌの耳には届かない。
「《神速神威(シンソクカムイ)》……“3撃”!」
グザンッ、グザンッ、グザンッ!!
キューリエンヌは目にも止まらぬスピードで、木の根を伸ばした3本の大木を両断した。
ドスゥーンッ……!!
盛大な倒木の音に頭を抱えるジェイドとマーリン。
「ふぅ、ふぅ、ふぅ……」
ボロボロになった装備で仁王立ちするキューリエンヌと、「な、なんだ、なんだ!?」などと目を覚ましたバロン。
「い、いっぱい来ますぅう!!」
周囲の魔物たちが一斉にこちらに向かっている事を察知したレイアは泣きながら叫んだのだった。
※※※※※
ドスゥーンッ……!!
遠くで木が倒れる音が響く。
「……うっ……うぅ……んっ?」
目の回りを真っ赤にしているリリアは俺から離れ、音のする方へと振り向いた。
あ、あぁ……俺のサラサラ……。
いつのまにか所有物になっていたリリアの銀髪をおしみながら、俺は少し口を尖らせる。
「グスッ……。ルーカス君……。これって……」
リリアは鼻を啜り、小首を傾げるが……。
な、なんだろうか。この感じ……。
まだ濡れた長いまつげ。大きな綺麗な瞳。紅潮した頬。ぷっくりした唇……。
至近距離の圧倒的、美貌……。
「……キスしていいか?」
な、泣き顔って、なんかいい!!
「……ぇ、えっ!? で、でも……」
リリアは音のした方と俺を交互に視線を向けながら、顔を真っ赤にするが……、ど、どこぞのだれかに邪魔されてたまるか!
俺はリリアとキスがしたいんだ!!
「きゃー!」とか「うわぁあ!」とか「何しとんじゃあ!」だとか……やかましいヤツらなんか知ったことじゃない。
涙の痕が堪らないんだ!
「どうすればいいの?」とうるうると潤んでいくアクアブルーの瞳と、じわじわと染まっていく頬が堪らないんだ。
スルッ……
俺はリリアの首元から手を差し込み、サラサラの髪に指を滑らせ、後頭部を支える。
「……ル、ルーカス君……」
リリアはピシッと身体を硬直させ、これでもかと顔を赤くさせつつも、ウルウルの瞳で俺を見つめたが、すぐに恥ずかしそうに視線を伏せる。
ゴクリ……
一切、抵抗がないことに俺は息を呑んでリリアを見つめているが、ここで今までモテない童貞クソ野郎が顔を出す。
ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ……
心拍数がえげつない。
俺の心臓ってこんなに早く動くのか……?
……い、いいんだよな?
もういいだろ? えっ、俺、いいの?
こ、これはもうキスしていいんだろ!?
……き、聞く? もう一回聞くべき?
もう後頭部を引き寄せていいのか?
わ、わからん!!
おい。この体制でどれだけ時間を使ってる!
きょ、拒否らないなら、もういいんだよな!?
嫌なら俺を突き飛ばすくらいするはず……。
「……いいか?」
なぁに、結局聞いてるんだよ、俺!!
このビビリ野郎! 「いやだ」って言われたらどうするつもりなんだ!? もういけ! 答える前にいけ!
「「…………」」
リリアが答える前に行けよぉお!!
俺は自分を鼓舞し続けるが、なんてことだろうか……。ピクリとも身体が動かない。聞いたからには答えて貰わないと身動きがとれ……ない……。
ダメだ……ダメに決まってる。
俺はゴミ虫やろうだ。とんだビビりやろう……、
「……ひ、人がいるみたいだから……」
リリアはポツリと呟きグッと唇を噛み締める。
(……じゃ、じゃあ……もう殺しにいこうかな……)
結局できないんだと絶望した俺は、そんな非人道的な結論に至りながら、後頭部に添えた手の力を緩めるが……、
「だ、だから……キ、キス……だけだよ?」
リリアは俺が支えている手に自分の手を添えて小首を傾げた。
木漏れ日が反射する銀髪。
赤く染まる白い頬。
力無くぎこちない笑顔。
それと同時にホロリと流れる透明な涙。
俺は女神を見ているんだろうか……?
グイッ……
ふにっ……
「んっ……」
リリアとキスをした。
触れた瞬間に聞こえた控えめな声。
触覚が研ぎ澄まされている俺の身体は、リリアの柔らかい唇に触れて昇天してしまいそうだ。
キスって……女の唇って……。
な、なんて柔らかいんだ……。
「んっ……はぁっ……」
リリアは息を止めていたのか、唇が触れたまま酸素を求めた。俺は反射的に後頭部を引き寄せ、半ば無意識に舌を差し込む。
クチャッ……
「んっ……ルっ」
リリアの舌に自分の舌を絡ませる。
「んっ……はぁっ、ぁっ……んっ……んんっ……」
まるで体の内側から聞こえてくるようなリリアの甘い声に、ゾクゾクッと身震いし、更に舌を絡めとる。
クチュッ……クチュッ……
「んっ、ぁっ……はぁ……んんっ……ルーカス……く、んっ……ぁっ、はぁんっ……!! ちょ……んっ」
な、なんだこれ……。気持ちいい……。
す、すごい……。なんだよ、これ……!!
舌と舌が絡み合って、柔らかくてあったかくて……。
「んっん……はぁっ……んっ、んんっ……!!」
トントンッ……
無我夢中でリリアの舌を追いかけていた俺は、力無く胸を叩かれ、ハッと我に帰る。
そこに待っていたのは……、
「はぁ、はぁ、はぁ、苦しいよ……。息……、できないよ」
とてつもない色気を放つリリアだった。
トロンとした瞳に涙を浮かべ、苦しそうに呼吸を乱す。濡れた唇と恍惚とした表情は、いつもの中性的なリリアなど見る影もない。
ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ……
「…………」
「ル、ルーカス君……。ボク、初めてなんだよ? は、激しいよ……。息ができなくて、初めての感覚で……」
「…………」
「ねぇ……キスってこんなに苦しいの……?」
リリアはいまだ呼吸を乱したまま小首を傾げるが、俺はもう言葉を失っていた。
やばい……。リリア、マジで可愛い……。
ど、どうする……?
ど、どうすりゃいい……?
「……ルーカス君? ボ、ボク……、変だったかな?」
何も言わない俺にリリアは不安気に声をあげる。
いやいや……、変じゃないだろ……。
俺も初めてだからわからないが……。
そう思っていても、声が出ない。
俺はジッとリリアを見つめて固まっている。
もちろん、あちらも硬くなっている。
「……ご、ごめんね?」
今にも泣き出しそうなリリアにゴクリと息を呑み、パシッとリリアの手を取る。すぐさま自分の胸にリリアの細く綺麗な手を自分の心臓に押し当てる。
ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ……
「……!!」
リリアは俺の心拍数を実感したのか、少し驚いたように俺を見つめる。
「……お、俺も初めてだ。変かどうかは俺にもわからないが……、初めてがリリアでよかったなって思ってる。とにかく最高だった……」
「……ッッ!!」
リリアはボンッと顔を真っ赤にしてバッと俯いた。
手は俺の心臓に当てたまま、耳まで真っ赤にして「うぅう……」と悶えながらもう片方の手で顔を隠すと……、
「ボ、ボクもルーカス君が初めてでよかったよ……?」
俺の聴覚じゃないと聞き逃してしまうくらい小さな声でつぶやいた。いちいち可愛いリリアの反応を見つめながら、先程のキスを思い返し、ジィーンと余韻に浸る。
じっくり、ゆっくり、みっちり、余韻に浸りたいのだが……、
ドスゥーンッ! ガコンッ!! グザンッ!!
「どれだけいるのだ!! キリがない!!」
「お前のせいじゃぞ、バカ弟子!!」
「キュー!! 俺の後ろに!!」
ドゴーン! バキバキッ! ガキンッ!!
「皆さん、《治癒精霊》の加護をッ!!」
「このままじゃ、終わりが来ん! “特級”で消し飛ばす! 皆、離れておれ!!」
どこの誰かは知らないが……。
さっきから……。うるせぇーんだよ!!
こっちはもう一度キスしたいんだよ!!
リリアは未だに俺の心臓に手を当ててプスプスと悶絶しているが……、
ドスンッ!! ガコンッ!! ドゴーンッ!!
もうやかましくて仕方がない。
「……リリア。帰ったらもう一度しよう……。ちょっと邪魔者を排除してくる……」
「えっ……あっ!! えっ、えぇっ!? ルーカス君!!」
俺は苛立ちのままに駆け出した。
俺のファーストキスにケチをつけたヤツらの罪は、万死に値するのだ……。
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