第25話 講和会議②

 王国軍艦内に設けられた対談会場に到着する。

王室の人間が乗るということもあってか船内には様々な豪勢な装飾が施されている。

特にこの部屋は王族が普段使う部屋なのか、装飾が一段と豪華だ。


「どうぞ、おかけになってくださいな」


 グレースに促され俺は椅子に座る。

ちなみに付き添いの人間の椅子はなかったので後ろに立ってもらっている。

なんかゴメンね皆んな。


 グレースは俺が座ったことを確認すると口を開いた。


「では会談を始める前に、私から1つ言わせていただきたいことがございます」


 ――ガタッ

グレースはそう言うと椅子をひいてバッと立ち上がった。

いきなり立った彼女に俺もつられて一緒に立ち上がってしまう。


「改めまして、今回の侵攻、誠に申し訳ございませんでした。国の代表として謝罪いたします」


 グレースが深々と頭を下げて謝罪の言葉を口にする。

騎士団の人の方を見ると、彼らも彼女の異例の行動に驚いているようだ。

一国の王というのは、基本的に相手に対して頭を下げたりすることはしない。

王というのは国の頂点に立つ存在。その王が他人に頭を下げるというのは、国全体が相手に服従しますと言っているようなものだ。


「あ、頭を上げてください。流石に一国の王に頭を下げさせるわけにはいかないです」


「そういうわけにもいきません。たとえ父の始めた戦争であろうと、止められなかった私にも責任があります。あなた達も頭を下げなさい」


 グレースの言葉を聞き、後ろにいた騎士団の人が全員俺に頭を下げる。

正直こちらに被害は一切ないので別に構わないんだがな。

逆にこっちが謝らせているみたいでなんだか申し訳ない気分になってくる。


「謝罪の気持ちは受け取らせていただきます。こちらに被害は一切ないからこれ以上の謝罪は必要ないですよ」


 グレースは俺の言葉を聞き、安堵の表情を浮かべた。

よっぽど緊張していたのだろう。よく見ると彼女の手が震えている。


「では、せめてものお詫びに何か好きなものを1つ差し上げましょう。金や土地、国宝級の武具やマジックアイテムなど、本当に何でも構いませんよ」


 せめてなにか御礼の品を受け取ってくれとグレースはせがむ。

何かくれると行っても、特に必要なものは何もないんだがなぁ。

しかしせっかくの好意、受け取るのが礼儀というものか。


 あっ、ではあんなアイテムはあるだろうか。

たとえもし存在したこの世界でトップクラスに有用なアイテムで、流石に渡せないだろう。

ためしに聞いてみるとしよう。


「では、MPの回復量が上がったり回復時間が短くなるようなマジックアイテムはありますか?」


 グレースと騎士団長達が驚いた顔でこちらを見る。

流石に欲張りすぎただろうか。渡せないなら渡せないで良いのだが。


「そんなものでよろしいですの? たしか国庫に珍しいからとおいてあった気がします。しかしあまり役に立つものでは無いと思いますよ」


 役に立たない? 何を言っているのだろう。

MPの回復量や回復時間が上がると軍をそれだけ早く編成できる。

俺のスキルにとって最も相性の良いマジックアイテムだと思う。


「ルフレイ様、学園で習いご存知だと思いますが、一般人のMPは平均20、大魔道士クラスで100程です。放っておいてもすぐに回復するのでそのようなものは不要かと」


 え、この世界の人間のMPそんなに少ないの?

それなら確かにそんなアイテムは不要だな。

……俺にとっては宝だが。


 あと学園って何?

この世界に転生してきたので、この世界の教育は受けていない。

だから勿論そんな常識ももちろん知らない。


「俺はあの島で育ったから学園には通っていないんです。学園なんて物があるのも知らなかったです」


 育ったというのは嘘だが、これでいいだろう。

変異異世界から来ましたなんて言って、変人扱いされたらたまったものじゃないからな。


「あら、そうでしたか。では今からでも入学されますか? 見たところルフレイ様は私と同じぐらいの年齢に見えますが」


 学園に入学か、何だか面白そうだ。

それに俺は15歳の肉体。この年齢なら教育を受けていて当然であろう。

この世界の常識を学べるいい機会でもあるし。


「入学できるのであれば、入学してみたいと思います。この大陸での常識を身に着けないといけませんしね」


「では、私が女王の権限で学園への途中入学を認めましょう。ルフレイ様は私と同じくSクラス、学園最高峰のクラスのクラスへの編入を約束いたしますわ。それに他国の王族の方は試験入りませんのでご安心くださいませ」


 ……ん? 俺は王族じゃないぞ。

学園への編入はありがたいが俺だけ特別扱いされるのも変な話だ。


「残念ながら俺は王族でも貴族でもないです。平民は入学できないのであれば入学はなしにしてもらって構わないですよ」


「ルフレイ様は王族の方ではないですの? そんな上等な服を身にまとっておられるのでてっきり王族の方だと思っておりました」


確かにグレースの着ているドレスも、見た目はきらびやかだが素材という面では俺の着ている軍服よりも悪そうだ。

日本ではこれぐらいが普通だったから何とも思っていなかったな。


「王族でなくとも試験を受ければ入学は可能です。少し難しい試験になりますが」


 良かった。試験に合格すれば入学できるようだ。

勉強は昔から得意だ。まかせておけ!

 

 そういえば中世ヨーロッパぐらいという以上、か国は王が統治しているのだろう。

そんな中イレーネ島に国王が存在しないのはおかしな話なのかもしれない。

でも仕方のないことだろう。イレーネ島は俺と俺の召喚した兵士たちだけで構成されているのだから。

兵たちを束ねているという意味では俺はあの島の王かもしれないが。


「俺の住む島には王など存在しません。いるのは俺と俺の兵士たちだけです」


 今考えるとなんとも寂しい島だ。

兵士たち以外に俺が話せる人がいないのだから。

その兵士たちも魔力で生み出したものであり人ではない。


「では兵士を束ねているルフレイ様が王になるのでは? 王がいないと国として成り立ちませんわ」


 別に国に王が絶対に必要だとは思わないが。

王がいない国だとこの世界では不都合でもあるのだろうか。


「王がいないと何か不都合でもあるのですか?」


「そうですわね、まず国王が存在しない地域は無主の地と呼ばれ、基本何処の国が自分の領土と主張しても問題がなくなりますわ。それに島が他国の支配を受けないようにするには、王が必要になりますね」


 王がいないとこの世界では独立した地域と認められないらしい。

島に他国が干渉できないよう、必然的に誰か王をたてないといけないのか。

しかし現在のイレーネ島に王になれる”人間”は俺1人しかいない。


「俺がイレーネ島の王になることは出来るのですか?」


「はい。私の承認があればすぐにでも可能ですわ」


 島の独立を保つにはそれしか手がないのか。

ここは素直に諦めたほうが良いかもしれない。


「仕方がないですね、俺がイレーネ島の王となりましょう。国の名は……イレーネ帝国でどうでしょうか」


 王国ではなく帝国としたのは、ただ響きがかっこいいからである。それ以上でもそれ以下でもない。

これでイレーネ島は国として独立した存在となれる。


「分かりましたわ。イレーネ帝国、及び皇帝ルフレイ=フォン=チェスターを、ルクスタント王国女王グレース=デ=ルクスタントの名において承認しますわ」


  こうして俺はイレーネ帝国の初代皇帝となった。


「帝国承認の正式な書類及び賠償でお譲りする品、学園Sクラスへの編入のご案内は後日用意させていただきますわ。本日はこれでお開きと致しましょう」


 こうして王国女王グレースとの会談は終わった。

少し想定外のことが起こったが交渉は概ね思い通りにまとまったと思う。

会談の成功を感じながら俺は船を下船した。



――ルフレイのステータス――


 ○基本情報 

 ・名前:ルフレイ=フォン=チェスター [神名]

 ・年齢:15歳

 ・性別:男


 ○基本ステータス

 ・MP:11356/∞

 ・装備:SSR 異世界の軍帽

     SSR 異世界の軍服[上]

     SSR 異世界の軍服[下]

     SSR 異世界の肌着

     SSR 異世界のパンツ

     SSR 異世界の靴下

     SSR 異世界の軍靴

     SSR 異世界の短剣


 ○固有スキル 

 ・UR 【統帥】

 ・SSR【世界地図】

 ・SSR【言語適応】

 ・SSR【鑑定】


 ○汎用スキル

  なし


 ○称号

 ・【転生者】

 ・【女神イズンの使徒】

 ・【異世界司令官】

 ・【大元帥】

 ・【イレーネ帝国皇帝】

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