第23話 王国に向かって出港!
――イレーネ島西海岸 海軍基地建設地
建設現場では、工兵たちがせっせと働いている。
既に桟橋が1本完成しているようだ。
空軍基地のときも思ったが、現実離れした建設速度だな。
建設場所は以前から決めていた広大な湾である。
俺はこの湾をイレーネ湾と名付けた。
この湾は調査の結果、広大な入江となっており、さらに元から水深が十分深いことが判明した天然の良港である。
まだ建設中の本港であるが、今日はここに用があるのだ。
「司令、こんなところでどうした?」
工兵部隊のリーダーがやってきた。
彼らには夜通し働いてもらっているので、いずれ何かお礼がしたいものだ。
彼は疲れを見せる様子は全く無い。何ならイキイキしているような……
「実はこれから王国に向かうのでね、せっかくだからこの港から出港しようかと思って」
「成程、しかし今あるはやぶさ型ではちと厳しいんじゃないですかい?」
彼の言うとおりだ。
『はやぶさ』は元々近海での運用を想定して設計されており、外洋航行には向かない。
だから新しい艦を召喚しようと思っているのだ。
今回は3日間分のMPを貯めているので巨大なものをね。
以前王国の人間が乗ってきた帆船があったが、あれは標的船として沈めてしまった。
「その通りだね。だから俺は新しい艦を召喚しようと思っている」
「新しい艦ですか。駆逐艦ですかい? それとも巡洋艦? 空母?」
残念ながらどれでもない。
そう、今回召喚しようとしているのは……
「違う、そのどれでもない。正解は戦艦だよ」
戦艦、それは現代において空母に主役の座を奪われたかつての海の王者。
しかし航空機などの脅威がないこの世界にとって、戦艦はまた輝けるだろう。
戦艦による、ある意味砲艦外交的な効果も狙っていた。
王国側の乗ってきた帆船を確認したが、鋼鉄で出来た近現代艦には到底太刀打ち不可能だと判断した。
宰相たちもこれが王国の最新鋭艦だと言うので、戦艦という海の城の威容は嫌でも王国人に響くだろう。
「戦艦ですかい、もう時代遅れの代物だと思っていやしたが、確かにこの世界なら活躍できるやもしてませんね」
その言葉にうなずきながら、俺はスキルを発動させる。
「スキル【統帥】発動、戦艦比叡を召喚!」
体内のMPを8割程使用して戦艦を召喚する。
今までよりも一際大きな光が現れ、光の中からその巨体があらわになる。
召喚した戦艦は、大日本帝国海軍の保有していた金剛型戦艦の2番艦、比叡。
イギリスのヴィッカース社からの資材の供与を受けながら日本国内で建造された超ド級戦艦である。
今回呼び出されたのは比叡の最終改装時の姿であり、艦橋が姉妹艦と大きく異なっているのが特徴的だ。
35.6cm連装砲を4基8門搭載した姿は、まさに戦艦という言葉をを体現している。
この艦を見た王国の連中の第一声はおそらく「ヒエー」であろう。
「おぉ、これが戦艦。やっぱり威厳があるなぁ」
大和型の試験として搭載された比叡の塔型艦橋がこちらを見下ろしている。
戦艦特有の重厚な艦容に、見ている俺の体が震えてくる。
これからこの艦に乗るのかと思うと、興奮が収まらない。
比叡から数名の海兵が降りてきて俺に敬礼をした。
俺も彼らに対し敬礼で応える。
「始めまして提督殿。比叡乗組員1222名、只今着任致しました!」
「ご苦労様。これから王国への往復、よろしく頼むよ」
「はっ! お任せ下さい」
彼らは俺を艦へと案内しようとする。
しかしロバートを連れて行こうと思っていたため、先にロバートを探しに――
行く必要はなかった。
「おーい司令官! なんかでっかいものを召喚したなぁ」
彼は自分からこちらにきてくれた。
こちらとしては探す手間が省けてありがたい。
ちなみに捕虜の2人は今回連れて行かない。
「ロバート。俺はこれから王国に向かうから、護衛として付いてきてくれない?」
「俺は別に構わないが、そりゃぁまた急な話だな。一体何があったんだ?」
俺はロバートにことのあらましを伝える。
彼は話を概ね理解したようだ。
急にあっちから講和を持ちかけた理由も何となく想像が付いているようだ。
「で、その王国へ行くためにわざわざこんな大袈裟なものをねぇ」
ロバートが腕を組んで言う。
「砲艦外交だよ。こちらの技術力を見せつけるいい機会だろう?」
「司令もおっかないことを考えるねぇ」
過去、日本もペリーの黒船による砲艦外交を受けたことがある。
あのときに日本人はひどく驚いたことだろう。
彼らは黒煙をあげながら航海する船なんて知らないのだから。
今回の王国側も似たような状況だろう。
以前『はやぶさ』の姿は目撃されているが、今回はそれよりも大きいのだから。
これでこちらへの認識がさらに変われば良いのだが。
そう考えつつ、俺達は比叡に乗艦した。
「よし、出港だ!」
感に乗り込むと同時に俺は出港の合図を出す。
そしてそのまま出港といこうと思ったが、1つの問題に気づいた。
「しまった。湾外に出るためにはタグボートが必須だ」
俺は慌ててタグボートを4隻召喚する。
召喚されたタグボートたちは比叡をがんばって押しながら、湾外へと向かっていく。
湾外に出て、タグボートが離れると同時に比叡のボイラーが煙を吐き始めた。
いよいよ王国に向けて航海開始だ!
◇
――フォアフェルシュタット沖
王国海軍の主力級艦の100M級の木造船が、島からやってくる船を迎えるために洋上で待機していた。
グレースはこの船の上を対談の会場としたのだ。
昨日ルフレイから会談の日付を示されると、彼女は急いで会場の設営を指示したが、流石に今日の明日では出来るものではなかった。
対談の場所が見つからず、グレースは頭を悩ませる。
そんな中、王族専用船としてフォアフェルシュタットに停泊している船があると連絡が入る。
王族専用船ならば内装のしっかりとした談話室などもあり、対談の場として白羽の矢が立った。
その船は大急ぎで出港準備を済ませ、今に至る。
船のメインマストには、王国国旗と国王旗が掲げられていた。
その船の最上甲板で、グレースは島からの船が来るのを今か今かと待ち続けていた。
アルベルトからの島の報告を聞いていた彼女はおそらくとんでもない船が来ると考えていたが、乗組員の大半は島の船を侮っていた。
「俺達がわざわざ出迎えるほどのものなのか?」
「良いじゃないか。この船を見て腰を抜かすところを見てみたいよ」
先ほど”もうすぐで到着する”という連絡を受けため、ほとんどの乗組員が最上甲板に集まっていた。
しかし今だ船を発見することはできておらず、見張員の報告を待っていた。
そんな時、メインマスト上部の見張員が、比叡を発見する。
「船を視認しました! ヒエ~、何だあれは! 煙を吐いている!」
見張員が叫び、危うく見張り台からおっこちそうになった。
見張員の声に甲板上の乗組員たちが比叡を探すが、彼らははまだ比叡を発見できずにいた。
「どこだ? 何処にいるんだ?」
「おい! あれじゃないか?」
「ヒエ~本当だ、船だ。しかし帆がないぞ」
ついに乗組員たちが比叡を目視した。
彼らは口々に「ヒエ~」と情けない声をあげる。
船員たちが叫んでいる間にも比叡はぐんぐん近づいてくる。
「ヒエ~、あれは船なのか?」
「ヒエ~、もはやあれは動く鋼鉄の城なのでは?」
船員たちの先程までの侮りはなくなり、比叡に対する恐怖が彼らを支配していた。
そんな彼らの横を比叡は通り過ぎ、フォアフェルシュタットを目指す。
乗員たちは国旗と国王旗を掲げた自分の乗る船を素通りしていく比叡に困惑する。
「おい、すぐにあの船を追え! 我々も引き返すぞ」
あわてて比叡を追いかけるように命令が出る。
比叡に続いて、グレースを乗せた船もフォアフェルシュタットへと引き返していった。
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