第22話 王国からの講和要請
――イレーネ島 空軍基地
王都への空襲を終えて以来、特にこちらから攻撃をしかけることもなく、かといって相手からの追加の軍が来ることもなく、とても平和な時間が流れていた。
俺は今、空軍基地内の一室でゴロゴロ昼寝をしている。
空軍基地の建設が完全に完了したので、今度は海軍基地の建設を始めている。
早く陸軍基地を建設しろとロバートには文句を言われたが、今後の活動において海軍は非常に重要になってくるだろうから、海軍基地の建設を先行させたかったのだ。
建設中の海軍基地は、多くの艦艇が停泊できる広大なものを予定している。
軍艦を係留するための桟橋や造船、修理のためのドッグを複数持ち、工廠や飛行場なども設置予定の立派な複合型の基地である。
これほどの大きさの基地は、流石に建設に5〜6ヶ月程かかるらしい。
逆になんで5〜6ヶ月で完成するんだよ……少しは休んでくれよ。
それはそうと――
「あー、暇だなぁ。結局あれから攻撃はないし、攻撃を諦めたのだろうか?」
ゴロゴロしながら俺はつぶやく。
そう、何もすることがなくて暇なのだ!
敵からの攻撃もなく、魔物たちに襲われる心配がある基地建設の作業現場に、ロバートやエーベルト達が出払っている中、俺には話し相手がおらずとても寂しい。
俺は手に魔法通信珠を持って言う。
「なんで攻撃を仕掛けてこないんだ? たった一回で諦めるにしても、降伏なり停戦なりの連絡ぐらいよこせって話だ」
そう俺が思っていると、突如として珠が輝き始める。
俺は魔力を込めていないので、こちらからの通信ではない。
となると考えられるのは1つ。王国からの通信だ。
前回俺が通信を行ったときと同じ現象が起こっているのを見て、ついに連絡が来たか! と思う。
国王よ、プレゼントは喜んでもらえたかな?
『あー、あー。聞こえますか? 私はルクスタント王国女王のグレース=デ=ルクスタントと申します』
珠から聞こえたのは前のオジサンの声ではなく、女性の、それもかなり若い人の声だった。
この前はオジサンが国王だと名乗っていたが、今回はこの人が女王を名乗っている。
一体どうなっているのだろうと思いながら、俺は彼女の言葉に耳を傾ける。
『先代国王はわけあって先日退位いたしました。改めまして、今日をもって新女王に即位いたしましたグレース=デ=ルクスタントと申します』
新女王? 政権がこんな短時間で交代したのか。
もしかしたらこの前の爆撃で前国王は死んでしまったのかも。
「ルフレイ=フォン=チェスターです。それで、グレースさんは俺になんの用でしょうか?」
取り敢えず俺はグレース話を聞いてみることにした。
彼女が本当に新女王なのかどうかはまだわからないが、王国の内情が気になったからだ。
『ルフレイ様、まずはルクスタント王国代表として、今回の武力衝突を心より謝罪いたします』
グレースの言葉に俺は耳を疑った。
先日まではあんなに高圧的だったのに、今日は全くの真逆だったからだ。
どうやらこの態度を見る限り、爆撃はかなり心理的な効果があったらしいな。
「謝罪は良いです。別にこっちは誰一人として死んでいないですので」
『左様でございますか。そう言っていただけるとありがたいですわ。で、本題なのですが……』
ホッとしたようにグレースが言う。
俺は別に戦争がしたいわけではないので、あっさりと謝罪を受けることにした。
彼女は謝罪を俺が受けなかったらどうしようなどと考えていたのだろうか、ひどく緊張していたのだろう、声が震えていた。
『私としましては、貴方がたと講和を結びたいと考えております』
グレースが王国との講和、つまり停戦を持ち出してきた。
この前までは絶対に聞くことのできない言葉であっただろう。
これほどまでに態度が違うということは、やはり王国内で何かが起こったようだ。
王国で何があったのかはまだ知らないが、クーデターのようなものが起こったのだろうか。
その末に新女王グレースが誕生し、今のような体制に変わったのかもしれない。
そうであれば、その影響を受け王国内が不安定になった現状、戦争をしている場合ではなくなったから停戦、という結論に至ったのも理解できる。
「講和を結ぶぶんには構いませんが、こちらは一方的に攻撃を仕掛けられた側です。流石にただでというわけにはいかないのですが」
『存じ上げております。こちらがそれ相応の賠償を支払うことをお約束致します』
これでは完全に向こうが負けましたと言っているようなものだ。
そこまでして戦争をやめたいのか。
この講和、乗ってみるのもありかもしれないな。
『しかし、こうして魔法通信珠での対話では真に心を開いて会話をすることはできぬというもの。わたくしが後日そちらの島にお邪魔させて頂いて、改めて対話をいたしませんか?』
直接あっての会話か。
その意見には俺としても賛成だが、こんな何も無い島にグレースが来るのは流石に酷だろう。
ならば王国視察も兼ねて俺があちらに出向くまでだ。
「直接の対話には俺も賛成です。だが貴方がこんな島に来る必要はないでしょう。俺がそちらに出向かせていただきます」
『ですが……』
グレースは言葉に詰まる。
俺が王国に行くことに何か問題でもあるのだろうか?
相手の領土へ赴くよりも自分の領土に呼ぶほうが楽だろうに。
『王城が破壊されて、お通し出来るような建物が1つもありませんですの! そのような場所にお呼びするわけにはいきません』
いや、そんな理由かい。
そんな事を言ったらウチの島はどうなるんだよ、何も無いってレベルじゃねぇぞおい!
俺は、少しでも生きた人間のいる異世界の街を見て回りたいから特に問題はない。
「そんなことは大した問題ではないですよ、グレースさん。大切なのは真摯に対話する気持ちだけです」
カッコつけて俺は言う。
全然自分に似合わないセリフだと後で思いつつも、言ったことは取り消せない。
それに実際どんな場所であろうが俺は別にいいと思っている。
『そこまで言われるのでしたら……では、港町のフォアフェルシュタットにいらして下さいまし。そこで対談を行うことにいたしましょう』
よし、あちらの世界に初めて足を踏み入れる良い機会だ。
本当に漫画に描かれるような異世界の街なのだろうか。
考えるほどワクワクはましていく。
「分かりました。明日の朝にはそちらに向かいますので、そちらも準備をしておいてください」
一刻も早く異世界の街に足を踏み入れたいので、俺は早い時間を指定する。
『明日の朝ですか!? そんなに早く...... 早く準備を始めないと! では御機嫌よう』
明日の朝と聞いて、グレースは驚いたようだ。
彼女は短い挨拶だけを残し、通信が途切れた。
ずいぶん慌ただしい終わり方だったが、これで王国と停戦できそうだ。
俺は王国に向かうため、海軍基地建設地の港に向かう。
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