第18話 王都空襲
空軍基地を離陸したB-1は、王国首都に向かって高度3000Mを亜音速で飛行していた。
機体は王国の領空への侵入に伴い、ゆっくりと高度を落としていく。
「もうすぐで敵国領土に侵入する。敵の対空攻撃があるやもしれん、警戒を厳にしろ」
機体は気づけば超低空を飛行していた。
海面がすぐ下に見え、少しでも操縦を間違えると海面とキスをしてしまいそうなぐらいだ。
可変翼の翼は大きく後退角をとっており、そのまま海上を高速で飛行するその姿はまさに槍の様であった。
数分後、爆撃機は最初の中継地点のフォアフェルシュタット上空を通過する。
ここから王都へと続く街道の上空を飛行し、そのまま王都へと侵入する計画だ。
王国の国民に爆撃機の姿をわざとさらして恐怖を覚えさせるために、60〜150Mという超低高度を飛んでいるため、騒音と風で下の街は大変なことになっているだろう。
「目標地点まであと300km。ここまでは順調だな」
警戒していた魔法などによる地上からの対空砲火や、異世界らしくドラゴンなんかが襲ってくることもなしに、機体は少しづつ目標までの距離を詰めていく。
◇
『報告します! 敵の未確認の大型翼竜と思われるものが1騎そちらに向かっています。恐ろしく速いやつですので、十分注意してください』
フォアフェルシュタット守備隊の魔法通信珠から連絡が突如入る。
届いた先は、王国騎士団と並ぶ翼竜部隊の第二隊隊長、ゲールハルト=ハウラー。
この世界では、古くからワイバーンを乗りこなす竜騎兵が存在し、ワイバーンはいざというときは敵の翼竜部隊を蹴散らし、支援要請があれば地上の自軍の支援を行う空の王者だ。
彼の一族は代々竜騎士として王国に仕えている由緒正しい血筋であり、彼も例外なく竜騎士となった。
最近まで行われていた統一戦争では、敵軍の竜騎兵部隊相手に数々の武勲を挙げ、戦争終了後には国王直々に竜騎兵団の団長に任命された経歴を持つ。
「おい! 王都中に空襲警報を鳴らせ!」
ゥウオ―――――――――オォン
ハウラーの言葉に従い、すぐに王都中に空襲警報が鳴り響く。
彼は警報の発令を確認した後、通信珠に話しかける。
「通信兵、その翼竜の特徴を教えろ。出来るだけに正確にな」
彼は王国内の翼竜研究の第一人者でもあった。
戦場で、敵の翼竜の習性や弱点をどれだけ多く知っているかは勝負の優劣に大きく影響する。
彼自身が負けないために、さらには彼の部下を死なせないために、彼の研究内容は大いに役立っていた。
今回通信兵が目撃したという翼竜も、既知のものであれば彼には余裕で対応が可能であろう。
また新種だとしても、彼自身の持つデータと照合しながら、敵の行動を予測して作戦、対抗法を練ることが出来る。
それに、一研究者として、新種には興味が湧くものだ。
『ええと、実に荒唐無稽な話なのですが……そいつの全長はおよそ40M、黒い体をしており、大きく後ろに反った翼が特徴的でした。それに頭のあたりに小さな翼が2つ、尻尾にも少し大きめの翼が3枚ついておりました』
ハウラーは首を傾げた。
通信兵の言うことが何一つ自分の知っている翼竜からかけ離れていたからだ。
翼竜の鱗の色は、通常その個体が扱う魔法の属性によって変化する。
例えば土であれば茶色、炎であれば赤色、水であれば青色といった具合にだ。
しかし、この世に黒色の鱗となるような魔法の属性は存在していなかった。
正確に言うと、理論的に黒色の鱗になる魔法の属性は存在はする。
ダークウルフの持つ闇の属性がそれに当たる。
だが、この世界の人間は闇の魔力を持つ魔物は見つけられておらず、属性としては存在しているがそれを使用する存在が存在しないという考えが主流となっている。
さらに、通常翼竜の体長というのは5〜6Mが限界である。
全長40Mという大きさはまさに規格外、もはや別の生物だと彼は思った。
『さらに、その翼竜は全く羽ばたいていなかったのです。加えて奇妙な唸り声をあげていました』
彼は両手で頭を抱える。
羽ばたかないで飛ぶ鳥を誰が想像できようか?
おそらく誰も想像することは出来ないだろう。それはこの世界の翼竜にも言えることだ。
彼もまた、羽ばたかない翼竜を想像することは出来なかった。
彼には、自分の常識の通用しない全くの新種どのように対抗すればよいのか全く思いつかなかった。
だがハウラーは、まだ自分が絶対にかなわない相手だとは考えていなかった。
彼には負けないという自信さえあった。
彼の愛騎はフレイムワイバーンという種類の翼竜で、名前の通り炎を扱う種族である。
同じく炎を扱う翼竜にファイアーワイバーンという種族が存在するが、それとは比較にならないほどフレイムワイバーンは高速性、炎の威力において優れていた。
他にも翼竜にはたくさんの種類が存在するが、フレイムワイバーン彼が研究の中で見つけ出した、最高の種類の翼竜だった。
戦時中、彼の愛騎は口から激しい炎を吐きながら空を舞い、ついに彼の愛騎にに近づけた敵騎は存在しなかった。
そんな彼の愛騎に加え、彼の鍛えた第二翼竜兵団が全騎出撃すれば、いくら未知で巨大な種族の翼竜だったとしても、敵わないことはないと考えていた。
王都中に空襲警報のサイレンが鳴り響く中、彼は彼の隷下の竜騎兵たちに全力出撃を命じるのであった。
◇
「機長、12時方向に不明機250機を確認、接近してくるぞ。どうする?」
レーダー画面に映る無数の輝点。
領空に侵入したときに、ドラゴンなどによる迎撃が無かったため、迎撃される危険性は低いと考えていた彼らは少々驚くが、すぐに冷静な判断を下す。
「高度を1000Mまであげ、様子を見る」
機体はすぐに高度1000Mに到達する。
レーダーによると、敵機は依然高度100M程を飛行中であり、こちらに付いて高度を上げてくることは無さそうだ。
B-1は誰にも邪魔をされることなく王都周辺の空域へと侵入することが出来た。
「よし、このままの高度を維持しつつ爆撃目標へ向かう。投下地点まで後どれぐらいだ?」
「投下予定地点まで残り100km、後6分ほどで到着します」
数分後、機体は爆撃態勢に入った。
爆弾倉がゆっくりと開き、”国王へのプレゼント”が姿を見せる。
重量2000ポンドのこの爆弾は、着弾と同時に周囲を瞬時に瓦礫へと変える破壊力を持つ。
この爆弾が命中すれば、王城はひとたまりもなく崩れ落ちるだろう。
「不明機の上空を通過。なにかを仕掛けてくる様子もありません」
レーダーに映っていた不明機の上空を素通りする。
不明機には結局何も仕掛けられなかった。
不明機の上空を通過すると、すぐに王都が眼下に広がる。
まさに異世界風の、城壁に囲まれた立派な都市である。
その真ん中に大きくそびえたつのが、爆撃目標の王城だ。
「投下地点に到着、目標王城。爆弾投下!」
「了解、爆弾投下! 投下!」
合図と同時に、爆弾槽から一発ずつ爆弾が落ちていく。
24発の2000ポンド爆弾が空に舞い、それぞれがGPS誘導によって正確に王城へと向かっていく。
爆弾は吸い込まれるように王城の大屋根に着弾した。
着弾直後、王城で大爆発が起こる。
王城本殿に爆弾が複数命中したため、屋根には大穴が開き、そびえ立っていた城を象徴する3本の塔はガラガラと崩れ落ちていった。
「トラ・トラ・トラ 我、奇襲に成功セリ」
イレーネ島に残るルフレイ達に事前に用意されていた作戦成功の暗号をを高らかに送信する。
任務を終えたB-1は高度を10000Mまであげ、基地への帰路についた。
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