第17話 槍騎士、推して参る!

 俺が魔法通信珠に魔力を注ぐと、珠がボウっと光りだした。

おそらく成功したのかな? そう思っていると珠から声が響いた。


「おぉ、ようやく島との交渉をまとめたのかライヒハルト。それとも全滅させたのか? まぁどちらでも良いが。王都では既に凱旋パレードの準備が進んでいる。早く帰ってくるように」


 50代ほどのオジサンの声。おそらくこの声の主が国王であろう。

コイツは自分の騎士団が負けるなど微塵も考えていないのか、なんとも呑気なことを喋る。

それにしても凱旋パレードの準備って、いくら何でも気が早すぎるだろう。


「おぉわが国王よ、残念ながら島の占領は失敗しました。敵との戦闘に敗れ、私は今敵軍の捕虜の身でございます」


 ライヒハルトが珠に向かって語りかける。

彼は自分がどんな身であるのかを理解しているのか、どんな言い訳をするでもなくただ事実だけを伝えた。


「我が宰相よ。そなたは嘘が下手くそだな。お前は第一騎士団を連れて行っただろう? 我が王国の栄えある騎士団、その中でも最強と謳われる第一騎士団が負けるわけなかろう」


 国王はまだライヒハルトの嘘言だと思い、真実だとは考えていないようだ。

そんな国王の言葉に首を横に振りながら、ライヒハルトは続けて報告する。


「本当のことですぞ陛下。第一騎士団は文字通り全滅。生き残っているのは私と騎士団団長のみで、2人共現在敵軍に捕らわれておりまする」


 国王は一瞬黙る。

彼はライヒハルトの言葉が飲み込めてきたみたいだ。


「お前……言っていることが分かっているのか? 今なら嘘でも許してやるぞ。もしも本当なら、宰相の称号は勿論剥奪、一族郎党共にさらし首にしてくれる。分かっているとは思うが貴様もだぞ、バルテルス」


 国王はドスの利いた声で語り掛ける。

後ろを見ると、ライヒハルトとバルテルスは2人共震えていた。

それにしても一族郎党共にさらし首って……なんて野蛮な世界なのだろう。

そう思いながら、今度は俺が王に話しかける。


「始めましてだな国王さん。貴様の国の宰相と騎士団長の身柄はこちらで預かっている。返してほしければ取りに来れば良い。まぁいらないとは思うが」


「お前、島の人間か? 穢らわしい原住民の身でありながら国王である余に逆らう度胸だけは認めてやる。だがじきに後悔することになるだろう。王国軍の総力を持って貴様らを蹂躙してくれるわ」


 その御自慢の騎士団を不意打ちだったとはいえあっさり全滅させられているのに、その自信はどこから湧いてくるのだろうか。

これが帝国最強の部隊ならば、たとえ王国が全戦力で攻めてこようとも負けることはまず無いだろう。

まぁそもそも島に到着する前に『はやぶさ』に輸送船が全て撃沈されるだろうが。


「あぁそれと、ライヒハルトとバルテルスは現時点をもって王国籍を剥奪する。余の期待に添えなかった罰として、その島の原住民共に辱めでも受けておれ」


 そんな、国王陛下! と2人は叫ぶが、その言葉に国王が反応する気配は感じられない。

俺はオジサンたちを暴行する趣味など勿論持っていないので、2人が辱めを受けることは無いのだがな。

そう言えば、俺も国王に言いたいことが1つあるんだ。これぐらいは言わせてもらうよ。


「こっちにこんなサプライズをしてくれたんだから、今度はこちらからお返しさせてもらうよ。王城にプレゼントを直接配達させてもらおう。楽しみにしていてくれ。あぁそれと、王城内にいるのは危ないから別の場所に避難しておくことをおすすめするよ」


 そう国王に言い残して、俺は魔法通信珠への魔力の供給をカットする。

珠は光を失い、元の状態に戻ったようだ。

その後、珠から国王の声が聞こえてくることはなかった。


「ふふふ、反撃開始だ。例の機体を投入して、敵の腰を抜かしてやる」


 せっかくだから、こいつらにも見てもらおうか。

自分がどんな相手に喧嘩を売ったのか、理解する良い機会だろう。


「ハンヴィー、捕虜も乗せて俺達を空軍基地へと連れて行ってくれ」


 俺が呼ぶと、ハンヴィーがやってくる。

2人共初めて見るこの乗り物に驚いているようだ。

だがこんなもので驚かれちゃ困る。基地にはもっととんでもないものが用意してあるのだから。


 俺達を乗せて、ハンヴィーが出発する。





 空軍基地に到着し、俺達はハンヴィーから降りた。

アスファルトで舗装された滑走路を眺め、なんだか満足感に満たされる。

これだけの仕事を短時間で完壁にこなしてくれた工兵部隊には感謝だな。


「何なのだこの黒い地面は! 王国ではこんな物見たことないぞ」

「しかも固くて滑らかだ。どうやってこんな道を作り上げたんだ?」


 捕虜の2人はアスファルトで舗装された滑走路に夢中のようだ。

中世ヨーロッパの基準で行くのなら、王都はおそらく石畳の道であろう。

こんなに滑らかな道に驚く気持ちもわからなくはないが、これはまだそんなに驚くところではない。


「例の機体は爆弾の積載と燃料の補給を終えて、エプロンにていつでも離陸できるよう待機しております」

「機体には要求通り、2000ポンド誘導爆弾を24発搭載しています」


 空軍基地の整備兵たちがやってきて報告する。

どうやら用意しておいた秘密兵器の準備が完了しているようだ。

俺も初めてアレが飛ぶ姿を見るので、少し興奮している。


「分かった。”ランサー”に作戦の開始を通達する。目標はルクスタント王国王城。超低空より敵領内に侵入し、精密誘導爆弾で王城を破壊せよ」


 爆撃機による王国の本土空襲。

攻撃目標は王都にそびえ立つ巨大な王城である。

国王へのプレゼントとはつまり爆弾のことだ。

それに精密誘導爆弾による攻撃なので、民間への被害は抑えられるはずだ。


 例の機体、今回の爆撃に使用する『B−1B ランサー』戦略爆撃機1機が、エプロンから滑走路へとタキシングしてきた。

全長44.8M、全幅41.7M、4基のターボファンエンジンを搭載した可変翼とスリムな機体が特徴の黒鉄の巨鳥が、エンジン音をあげながら近付いて来る様はまさに圧巻である。


 この機体は低空飛行に優れており、その特徴を利用して王国の住民にその姿をあえてさらし、彼らに衝撃を与えるのが今回の作戦の目標だ。

作戦名はルクスタント王国の頭文字をとり、『ル号作戦』とする。


 今回のル号作戦は、B−1爆撃機単機での出撃となる。

本当は護衛の戦闘機も数機召喚したかったのだが、生憎MPが足りなかった。

将来的には爆撃機と戦闘機で戦爆連合を構成してみたいなぁ。


 ちなみに捕虜の2人の反応はと言うと……


「何だあの巨大な黒い翼竜は! あんな物見たことも聞いたこともないぞ」

「いや、そもそもあれは翼竜なのか? 我々の知る翼竜よりも遥かに大型だ」


 いい感じに驚いているな。

というか今こいつら翼竜って言ったよな。この世界にはドラゴンも存在するのか。


 そんな事を話しているうちに、B-1が滑走路に侵入する。

フラップやラダーを動かしており、滑走路上で機体は最終チェックを行っているようだ。


『管制塔、こちらランサー。離陸の許可を求める』


『ランサーへ、こちら管制塔。貴機の離陸を許可します』


 管制塔の許可が降り、B-1はゆっくりと滑走を始める。

やがて機体は俺達の前を通り過ぎ、ぐんぐん速度を上げ、そして離陸した。


 4基のエンジンが轟音を上げながら機体はさらに加速、空へと上昇していく。

気づけば機体はもう見えず、空にただエンジン音が響き渡るのみだ。


 さて、国王さんよ。2000ポンド爆弾のお届けだ。

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