第16話 交渉決裂、開戦(?)
俺は王国の使者達を連れて、前日に用意しておいた対談会場に案内した。
今のところ攻撃してくる気配はないので、あちらにも一応対話の意思はあるようだ。
ただ、対話をするだけならあれだけの兵は必要ないと思うが。
「騎士団の方々は、ここでお待ち下さい。団長さんは護衛としてそこの偉そうな方についていても構いません」
「何故だ?別に全員いても構わないであろう」
バルテルスがが不満げに言う。
だが、普通に考えて対談の場に大勢の兵士はかえって邪魔だろう。
そんなこともわからないのか。
「私も1人しか連れていませんし、それに大勢の人間には聞かれてはならない話もあるでしょう。ただ話し合いをするだけですし、団長さん1人で十分でしょう」
そう言いながら、俺はライヒハルトを椅子に座るよう促す。
彼は特になにか文句を言うこともなく、すんなりと座ってくれた。
少しは話が分かる人かもしれない。
そう思いながら机の上のティーポットからカップに紅茶を淹れ、ライヒハルトに勧める。
彼は入れた紅茶を飲もうとはしなかった。
毒の心配をしているのかと思い、俺も同じポットから紅茶を入れ、そして飲んだ。
ライヒハルトも安全を確認したのか、紅茶に口をつける。
気に入った味だったのか、彼の顔が少し緩んだが、直ぐに元の顔に戻った。
俺がライヒハルトの向かい側に座り、俺の隣にはロバートが、ライヒハルトの隣にはバルテルスが座った。
俺も改めて紅茶を飲んで一息つき、元の世界の味に懐かしさを感じた。
え? 俺が出せるのは軍用品だけじゃないのかって?
安心したまえ。実はイギリス軍の装甲車両には、もれなく紅茶をいれるための給湯器がついていて、いつでも紅茶が楽しめるようになっている。
だから紅茶も軍用品判定になって召喚できたのさ。イギリス様々だよ。
さて話を戻そう。お互いが席についたところで、対談を始めようか。
何から始めるべきか……ここは無難に自己紹介からだな。
「始めまして。イリーネ島のルフレイ=フォン=チェスターと申します。以後お見知りおきを」
「……ルクスタント王国宰相のオイラー=ライヒハルトだ」
成程、この男はルクスタント王国で宰相をやっているのか。
中々の重要人物を送り込んできたな。
俺も彼のように役職を名乗った方がよかったのか?
ただ、この島のどこにも大元帥を名乗れるような軍はまだ無いので、言わなくて正解だったかもしれない。
「率直に聞きます。本日はどのようなご要件ですか?」
俺はとりあえずライヒハルトに質問を投げかける。
おや? ライヒハルトは黙ってしまった。
もしかすると、王国のしきたりやマナーに反していて呆れているのかもしれない。
異世界に転生してきた俺がそんなもの知ってるはずなかろうが。
そう思っていると、ライヒハルトの目が真剣なものになる。
コホンと咳払いをした後、彼は話し始める。
「では、国王陛下の代理人として、お前に国王陛下の勅書を読み上げる」
急に厳かな雰囲気で、国王の勅書を取り出し、読み出した。
しかし国王の勅書か、これまたたいそうなものを持ってきたな。
ライヒハルトの言葉を聞いた騎士たちは、膝をついて頭を下げる。
これも王国のしきたりなのだろうか。なかなかに面倒くさいな。
そのままライヒハルトは勅書を読み上げる。
その後、長々とライヒハルトが話した内容を要約すると、以下の通りである。
◯この島は王国の領土であり、原住民は王に絶対の忠誠を誓わなければならない。
◯原住民は汚れた人間であり、終身奴隷に堕とし、王都に強制連行する。
◯技術をすべて取り上げ、その技術は王国が開発したものとする。
◯島にある全ての資源、物資を取り上げる。
◯逆らったものはいかなる理由であろうと死刑に処する。
なんて一方的な要求なのだろう。
過去に帝国主義国家がそれ以外の国家と結んでいた不平等条約よりも何倍も酷い内容だ。
逆にこれを受ける人間の顔が見たいわ。
こんな物は交渉とは言わない。俺を格下と見ている態度が非常に腹立たしかった。
「もしも承認しないといったら?」
とりあえず、怒りを隠して返事をしてみる。
ライヒハルトは馬鹿にしたように笑いながら答える。
「簡単な話だ。お前らは国に逆らった罪で死刑。後ろの騎士団の連中に一瞬で殺されるだろう」
成程、どうやらこいつらは自国の軍隊に全幅の信頼を寄せているようだ。
そこに突っ立っている限りは俺が命じた瞬間騎士団が壊滅するというのに。
「そうですか。その案を変える気はありませんね?」
「無論ない。早く従属してしまえ、それが最善手だ」
そう言われて『はいそうですか』というわけがなかろう。
もうこれ以上は話しても時間の無駄だ。
「では残念ですが、この話はなかったことに。あ、貴方は交渉が決裂したらすぐに軍が動くといいましたね? 残念ながら我々のほうが貴方がたよりも早かったようです」
そう言って俺は無線機で丘の上のロケット砲部隊に指示を送る。
「カチューシャ、こちらアドミラール。交渉は決裂した。ロケットを全弾斉射せよ、送れ」
『アドミラールへ、こちらカチューシャ。これより射撃を開始する。終わり』
無線が終わると同時に、後ろの丘から大量のロケット弾が火を吹きながら敵陣に向かって飛んでいく。
40連装のものが5台で、合計200発のロケット弾が一斉に発射された光景は圧巻であった。
「おい見ろ!あの丘から光の矢が!」
「とりあえず避けろ! 何も考えるな!」
「あぁ、ダメだ。数が多すぎる! 避けきれな……」
大爆発を起こしながらロケット弾が次々と着弾する。
広範囲で一気に爆発が起こったので、おそらく敵兵は跡形もなく消し飛んでいるだろう。
先程まで大勢の騎士が立っていた場所には、かつて人だったものと、死体の焦げる匂いが充満していた。
残るのは彼らの着ていた鎧が溶けたものと、彼らの死体が変化した透明な魔石だけであった。
その光景を、ライヒハルトとバルテルスが呆然とした顔で見つめている。
2人共どうやら驚いて言葉も出ないらしい。
数分後、やっとの思いで、バルテルスが口を開く。
「おぉ、俺の騎士団が、戦友が一瞬で……貴様ァ、最初から図ったな!」
顔に怒りを露わにしてバルテルスが言い放つ姿を見ながら、俺は冷静に言葉を返す。
「貴方がたは我々との交渉が決裂次第、すぐに我々を殺そうとしていましたよね? それは我々も同じです。交渉が決裂した瞬間に貴方がたを殺せるように、あらかじめ軍を後方の丘に配置しておいたのですよ」
俺の言葉を聞いたライヒハルトとバルテルスは驚きを隠せていなかった。
それもそうだろう。負けるわけがないと高をくくっていた自国の騎士団が、1分とたたないうちに駆逐されてしまったのだから。
「儂達はもう終わりだ……殺されてしまう。あぁ、こんなことになるなら来るんじゃなかった」
先程までの様子とは打って変わって、ライヒハルトは大粒の涙をこぼしながら叫ぶ。
その顔は、自分たちも殺されるのだろうという気持ちで暗く沈んでいた。
「騎士団長さん、武器を捨てて降伏するように。そして2人共両手を上げて後ろを向いてください」
案外なんの抵抗もなく、バルテルスは武器を捨て、2人は降伏した。
ロバートはそんな2人に縄をかける。
「恐れずとも良いですよ。あなたたちが何か馬鹿なことをしようとしない限り、俺達はあなたたちを殺すことはないですよ」
俺の言葉に、ライヒハルトが恐る恐る口を開けて話す。
殺されるとでも思っていたのだろうか。
殺しもしないし拷問もしない。ただ王国との交渉のカードになってもらうだけだ。
「儂達を助けるというのか? ならばどんな抵抗もしないと約束しよう」
ライヒハルトは、自分の命が助かるとなると急に従順になった。
よほど自分の命が大切なんだろう。
対して団長の方は下を向いて黙っている。せめてもの抵抗だろうか。
ライヒハルトが俺の方をじっと見つめてくる。
何か言いたいことでもあるのだろうか。
「すまんが、王国の方に交渉の失敗と騎士団の壊滅を連絡してもよいか? これが王国宰相として最後の仕事じゃ」
「え? 王国との連絡手段があるんですか。見せてください」
驚いた。この世界にも無線通信のような連絡手段があるとでも言うのか。
もしそうだとしたら、それを利用して王国首脳部の奴らに一泡吹かせてやれるかもしれない。
「これじゃ。魔導通信珠と言って、魔力を流すと対となる魔導通信珠と対話が出来る」
そう言って、ライヒハルトは自分のローブのポケットに目線を移す。
彼は手を縛られており珠が取れないので、俺が変わりに取る。
俺はポケットに手を入れて、中から野球ボールサイズの白い珠を取り出す。
「これ、俺が使ってもいいですか? 王国の連中に一泡吹かせてやりたいので」
「儂は捕虜の身だ。好きに使ってくれ」
ライヒハルトはあっさりと許可をくれた。
「じゃ、遠慮なく」
俺は手のひらに乗っかる白い珠に魔力を注ぎ込んでいく。
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