第15話 王国騎士団、島に上陸する

「司令官、レーダーに感あり。王国のものと思われる船が1隻接近中です」


 神殿内に設置された作戦司令部(仮)。そこに置かれた無線機に有田艦長から敵発見の無線が入る。

やはり来たか……そう思いつつ俺は司令部内にいるロバートとエーベルトと共に外へと出る。


「司令官。すでにBM-21、ゲパルト、ハンヴィー、および第一小隊の配置は完了しております」


「ありがとうエーベルト。では俺もひと仕事しないとな」


 俺達は指輪の真相が発覚した日の夜から作戦を練りに練っていた。

そうして練られた作戦をもとに、ロケット砲群の配置位置や歩兵の配置位置など、実際にデモンストレーションも行った。


 特に一昨日に行ったロケット砲の試射で、あらためてロケット砲の面制圧力に驚くと同時に、ロケットの発射炎で車体後ろの草が燃えて大騒ぎになったのは内緒のこと。

あとはグラート用の弾薬補給トラックも用意しておいた。

試射の段階で、第二射を行おうにも弾薬の補給ができないという問題に気付いたからだ。


 相手側が対話という形をとることも当然考えられた。

よって俺達は昨日丸一日をかけて王国との対話の場所は用意しておいた。

開けた場所に敵兵が待機するための場所と、対談のための1つの机と2脚の椅子。

なんとも簡素なものであるが、ないよりはマシだろう。


 その後ろの高台にはBM-21が控えており、交渉が決裂次第、敵兵に容赦なくロケット砲の雨を振らせることが出来るようになっている。

自分で言うのも何だがなんて残酷なんだろう。


「司令官、分かっているとは思うが、交渉が決裂次第俺達は敵兵を殲滅する。人を殺すことになるが……覚悟はできているな?」


 ロバートが少し心配そうに話しかけてくる。

俺は腐っても元日本人だ。人を殺したことも、それを間近で見たことも一度もない。

これはゲームではないのだ。死んだ人間は二度と生き返ってこない。

それを分かっているのだな、と声をかけてくれたのだろう。


 しかし心配は無用だ。俺はこの世界に来たときからとっくに腹をくくっていたさ。

それにこの前フローラを助けた際、仕方がないとはいえ俺は海賊たちを殺すよう指示を出した。

あのときに改めて覚悟が決まったよ。


「ありがとうロバート。だが俺の覚悟は既にできているよ」


「そうか。ならば良かった」


 では王国の皆さんを出迎えようではないか。






「宰相閣下、地図通りに行くと、もう間もなく島が見えてくる頃合いです」


「うむ。報告ご苦労」


 港町フォアフェルシュタットを出港して船に揺られることはや3日。

宰相と第一騎士団を乗せた船は、もう間もなく島に着こうとしていた。


「3日も船に揺られてここまで来たんじゃ。これで『島なんて無かった』などという結果だったら、情報提供者とやらを探し出し、なぶり殺しにしてくれるわ」


 ずっと王都にて何不自由ない暮らしをしてきた宰相にとって、船旅はかなり体に応えたようだ。

その分、自分に島での行動の全てが許されているので、相手側の利益などまったくない自分の私腹が肥えるだけの契約をし、莫大な利益を手に入れてやろうと目論んでいた。


 もしも相手が彼に逆らったときには、相手を殺してしまえば良いのである。

島の人間が搾り取られようが、皆殺しにされようが、彼にとっては対して変わらないことだ。

それに、島に着きさえすれば、莫大な報酬は約束され、王宮内での地位もさらに強固なものになる。


「島さえ見つければ儂の勝ちじゃ。あとは儂の思うまま、どうしようが構わないのだからのぅ」


 独り言を呟きながらニヤニヤしていると、見張りの船員が声を上げた。


「島だ! 島が見えるぞ! 俺達はついにたどり着いたんだ!」


 ついに彼らは島にたどり着いたのだ。

見張りのの声を聞き、船に乗っていた全ての人間が歓声を上げる。

俺達はちゃんと目的の島に着いたんだ、と。


「よし、では上陸の準備を始めろ。相手がどんな攻撃をしてくるか分からない以上、装備はきっちりと身に着けておくように」


 騎士団員たちは一斉に上陸の準備を始める。

彼らのまとう騎士団の鎧が陽光をうけてキラキラと輝いていた。





 船に積載されていた小舟に乗って、バルテルスやライヒハルトたちは島に上陸していく。

彼らが上陸したのはイレーネ島の西側の海岸。

そこには前には平原が広がっており、北側には木々が生い茂る森がある。


「ここが例の島か。見たところ人が住んでいるようには見えないが……」


 島に上陸したバルテルスがそう呟いていると、彼はふいに草むらから人の気配を感じた。

ライヒハルトを守るように彼の前に立ちながらバルテルスは大声を上げた。


「お前は誰だ、姿を見せろ! 我々は王国騎士団だぞ!」


 彼がそう叫ぶと、前方の草むらがガサガサと揺れ、2人の男が現れる。

1人は報告にあった、白い上下に白の帽子を被った男。もう1人は砂のような色の上下に同じ色の帽子。目には目隠しのようなものを着け、手には得体のしてない金属製の黒い棒のようなものを持っている。


 草むらから現れたのは、もちろんルフレイとロバートだ。

バルテルスは2人のことは知らず、報告通りの不思議な格好だと思っていると、ルフレイが2人に向かって話し始めた。


「そろそろ到着するかと思っていましたよ。しかしいきなり人に対して怒鳴りつけるのは不躾では?それでも仮にも騎士なのですか? まぁどちらでも良いです。私はただただ貴方がたを迎えにあがっただけですよ」


「お前……俺は誇り高き王国騎士、それも騎士団長だぞ。その俺にそんな口の聞き方をするとは。どうなるか覚えておけよ……」


 騎士の誇りを侮辱されたバルテルスは、あまりの怒りに顔を真っ赤にさせてわなわな震えていた。


「やめておけバルテルス。今はまだその時でない」


 ライヒハルトがバルテルスを静止する。

ライヒハルトにいさめられたバルテルスは、はっとしたような顔をし、そして黙った。


 バルテルスが黙ったところで、ライヒハルトは口を開く。


「迎えに、か。それはご苦労なことじゃ。して、なんの要件だね?」


 ルフレイはライヒハルトの言葉を無視し、ルフレイたちに語り掛ける。


「ここで立ち話をするのも何です。席を用意しておいたので、そこでゆっくり話し合おうではないですか。紅茶も用意してありますよ」


 そう言ってルフレイとロバートは草むらの方に歩き出す。

無言でついてこいという意図を感じ取ったライヒハルトたちは、少し警戒しながらも2人の後に続いて草むらへと入っていった。

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