第14話 戦争の準備
釣りから帰ってきて数日。俺は野営地の寝袋にくるまってゴロゴロしていた。
帰ってきた次の日に改めて海に釣りに行ったのだが、釣れたのはどれも凶暴な顔をした魔魚で、到底食べれそうにもなかった。
魚への期待も失った今、俺はやりたいことが特になくなり、空軍基地の完成までゴロゴロすることにしたのだ。
「うんぁー、暇だなァ。ロバート、何か面白いことはないかー?」
芋虫のように寝袋にくるまりながら、テントの外に立っているロバートにに話しかける。
ロバートもロバートで退屈しているようで、大きなあくびをしながら言葉を返してくる。
「ならば司令官、新しい仲間を増やしてくれよ」
仲間を増やしてくれ……か。
増やしてやりたい気持ちは山々だが、空軍基地に配備するための機体の召喚用に今はMPを温存しているから増やせないんだよなぁ。
そういえば基地建設の進捗はどうなんだろう?
建設開始からすでに10日が経っており、彼らの言う通りのスピードで進むなら、早くてあと4日で完成するがはたして本当にそんなに早く完成するものなのだろうか。
「そういえば、基地建設の進捗はどうなっているんだ? ロバート」
「基地は建設開始から10日目だが、滑走路は既に引き終わって、建物類もあらかた建設が終了しているようだ。後は管制塔の内部と航空機用のハンガーの建設だけらしいぞ司令官。改めて思うがどれだけ速いんだよ」
ここ10日間、工兵たちは1分1秒たりとも休憩を取らず、永遠に作業を続けているらしい。
それだけ頑張ってくれている彼らには何かプレゼントを考えておかないとなぁ。
そういえばプレゼントと言えば、この前フローラとか言う異世界の人間に指輪をもらったな。
ずいぶんと高そうな宝石のついた指輪だが、一体何でできているんだろうな。
なんて思いつつ、【鑑定】でその指輪を見てみる。
その時は軽い気持ちで鑑定をしただけであった。
だが、その指輪に隠された能力を知り、俺は驚愕する。
◯対象『商会長の指輪』鑑定結果
純金の土台に大粒のダイアモンドが乗った一品。
マルセイ商会の商会長を務めるマルセイ家に代々伝わって来たもの。
この指輪には魔力による追跡機能が備わっており、専用の追跡装置を用いることに よって現在の指輪の位置を知ることが可能。
魔力探知によって位置の把握が可能……か。
これは色々と不味いかもしれないぞ。
ここに書かれている通り追跡が行われているのであれば、今頃この島の位置は相手にバレているだろう。
もしかすると、ルクスタント王国とこの島の間で戦争が始まってしまうかもしれない。
俺はすぐに対策を講じることにした。
いつ相手が攻めてくるかわからない現状、対策は一刻を争う。
「今すぐ会議を行う! エーベルトと有田艦長を連れてこい!」
少し興奮気味の声でロバートに二人を連れてくるように言う。
ロバートは近くにあったハンヴィーに乗り込み、2人を探しに行った。
◇
「3人に集まってもらったのは他でもない、緊急事態が発生したからだ」
テント内で、一言目に俺はそう言う。
3人とも突然のことに何にことだかわからず不思議そうにしている。
「ロバート、先日俺が異世界の人間に会った時に、お近づきの品と言って指輪をもらったのを覚えているか?」
俺とフローラのやり取りを後ろで見ていたロバートは頷いて答える。
「あぁ、あの高そうな金と宝石の指輪だろう? あれになにか問題でもあったのか?」
「あぁ、問題ありだ。大有りだ! 何故あの時あんなに素直に受け取ったのか不思議だよ」
ロバートはただの指輪が? と不思議そうにしている。
他の2人もまだよく分かっていないようだ。
当たり前だ。誰が指輪に追跡機能が付いていると思うだろうか。
俺は、なんの注意なしに指輪を受け取ったあの時の俺の甘さを悔いる。
しかし悔いていても何も進まない。今は今後のことを考えよう。
「実はあの指輪には、指輪が位置を特定することの出来る機能がついているらしい。そしてその機能を使用するには別の機械が必要になるが、おそらくその機械は彼女の手元にあるだろう」
ロバートもエーベルトも有田艦長も驚いたようだ。
彼らも指輪にそんな機能が付いているなど思ってもいなかっただろう。
しかしここは異世界。地球の常識など全く当てはまらないことを全員すっかりと忘れていた。
「つまり、相手はこの島の位置を知った可能性が高いということか?」
俺があっていると首を縦に振ると、全員が険しい顔になる。
「もしかすると、ルクスタント王国の連中はこの島に軍を派遣してくるかもしれん。その対策を考えるために3人を招集したのだ」
絶対に攻めてくると分かったわけではないが、おそらく攻めてくるだろうと俺は思う。
そうでなければこんなものを渡してくることはないだろう。
それにここは地球ではない。ここ異世界であり彼女らは異世界の人間だ。領土拡大のためと動き出す可能性は十分にあるだろう。
全員が黙る中、エーベルトが口を開く。
「女神が言うには、この世界の文明は地球の中世ヨーロッパぐらいなのですよね」
俺は静かに頷く。
確か、女神はそんなふうに言っていたと思う。
ただ異世界転生らしいなーと思っていたが、よく考えると軍隊のレベルも中世レベルなのだろう。
となると、おなじみの騎士団などが戦争の主役になってくるのだろうか。
「中世ヨーロッパということは、この世界の戦闘はおそらく歩兵部隊と馬に乗った騎士がぶつかり合うものなのではないでしょうか。それならば第一小隊のみで殲滅できるかと思います」
歩兵や騎兵だけなら、小銃があれば余裕で倒せるだろう。
だが異世界なだけに、魔法のような未知の攻撃がある可能性がある。
できるだけ一撃で殲滅できる方がよい。
「いや、それではもしものこと......例えば魔法による広範囲攻撃とか? が起きたときに対処できないだろう。もっと一撃で敵を殲滅できるような何かがないだろうか」
悩んでいる俺達に、ロバートが手を上げて意見を述べる。
「多連装ロケット砲で制圧すれば良いんじゃないか?ロケット砲の斉射にはいくら何でも耐えられないだろう」
確かにロバートの言う通りだ。
多連装ロケット砲であれば、遠距離から敵を安全に殲滅できる。
他の2人も賛成し、俺たちは多連装ロケット砲を召喚することで決定した。
MP節約などをしていたが、結局航空機よりも先に別に物を召喚する事になってしまったな。
「スキル【統帥】発動。BM-21グラートを召喚!」
俺は旧ソ連製のロケット砲システムであるグラートを5両召喚した。
20秒で40発のロケット弾を打ち出せるコイツなら適任だろう。
「やあ同志。私はイゴール。これからよろしく」
グラートの中から1人の兵士が降りてくる。
グラートはソ連製兵器ということもあり、搭乗員はロシア人ベースのようだ。
これにより、この島にはアメリカ人とロシア人が同居することになるが、それぞれの間でけんかなどが起きなければ良いのだが。
今はそんなことを気にしている場合ではないな。
早速行動開始だ。
「エーベルトはグラートたちにこの島を少し案内してきてくれ。有田艦長はミサイル艇のレーダーで接近してくる船がないか警戒してくれ。ロバートは隊員たちに現状を伝えてきてくれ」
「「「了解、司令官!」」」
どこからでも来やがれ、返り討ちにしてやる。
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