第9話 外部との初接触
「もうすぐで例の船が見える頃です」
あれから全速力で航行し、『はやぶさ』は全速力で異世界人のものと思われる船へと接近していた。
もうすぐで異世界人と話せると思うと胸がドキドキしてきたぞ。
しかし新たな懸念事項が1つ発生していた。
実は途中からレーダーに映る船の数が2隻に増えたのである。
何事もなければいいのだが、もしかすると海賊の類かもしれない。
もしも襲われてもいつでも対処できるように火器の使用は全て許可している。
「見えてきました。おそらくあれがそうでしょう」
有田艦長が双眼鏡を見ながらそう伝える。
「形は……ガレオン船のような感じですね。いかにも中世ヨーロッパって感じがします」
やはり女神の言っていた通り、異世界の文明は中世ヨーロッパぐらいのようである。
あの帆船の乗組員が、帆を張らないこの船見たらどう思うのだろうか?
……などと考えていると、有田艦長が深刻そうな顔で話しかけてきた。
「どうもあの船たちですが、後ろの船が前の船を襲っているようなんです」
やはり海賊船だろうか。
俺も双眼鏡を借りてその船を見てみたが、驚くほど海賊のテンプレにあてはまる船であった。
黒い布にドクロマークの帆を張った船など流石に怪しすぎる。
時折後ろの海賊船から炎の玉が飛んでいくのが見えた。
しかし当たりはせず、ただ空中をフヨフヨ飛んでいるだけである。
ただあれが当たったら消化が大変そうだな。木造船ならもっとだろう。
さて、俺達は前の船に襲いかかられている船を助けるべきなのだろうか。
俺は撃退すべきだと思うが、一応有田艦長の意見も聞いてみることにする。
「私も撃滅して問題ないかと思います」
有田艦長も海賊船の撃破に賛成のようだ。
ならば話は早い。あの船に対して攻撃し、轟沈させるのみだ。
「各員、右舷砲撃戦用意。目標、海賊船。撃ちぃー方ー始め!」
合図とともに、艦前方に搭載されている76mm速射砲が火を吹く。
相手はただの木造船。スーパーラピッド砲で威力は十二分であった。
――数分後、海賊船は船の中央から真っ二つに割れて轟沈した。
「敵艦の轟沈を確認」
「よし、全火器収め。戦闘終了」
勝負にもならない一方的なものであった。
海賊船を撃退できたことを喜びつつ、襲われていた方の船に接舷する。
襲われていたが彼らは無事なのだろうか。
「もしもーし、大丈夫ですかー?」
下から声をかけてみると、上からシュルシュルと縄梯子が降りてきた。
これで上に登ってこいということだろう。
艦は有田艦長に任せ、俺はロバートと2人で登ることにした。
登った先の甲板で待っていたのは熱烈な歓迎……ではなく、剣と盾を構えた4名の男たちであった。
せっかく助けてやったのに失礼だな、と思っていた矢先、1人の女性の声が響いた。
「こら! 命の恩人になにかしたらタダじゃ済ませませんからね!」
声とともに現れたのは、目を瞠るほどの絶世の美女であった。
これが異世界クオリティーか、なんて思っていると、彼女は頭を下げた。
「命の恩人に無礼を働き誠に申し訳ございません。私はフローラ=マルセイ。マルセイ商会というしがない商会で商会長を務めております」
なんと、商会長だと? これは大当たりだな。
これは接触してみてどうやら正解だったようだ。
「彼らは『竜討つ剣』というSランクの冒険者パーティーです。今回の私の船旅には護衛任務としてついて来ておりました」
「俺はルフレイ=フォン=チェスターです。ルフレイ構いません」
俺に剣を向けた4人はフローラに雇われた冒険者らしい。しかし『竜討つ剣』って、ネーミングセンス小学生かよ。
でもSランクだというのだから強いのだろうな。コカトリスも余裕なのだろう。
じゃあ逆になぜ海賊なんかに襲われていたんだろうか?
「この4人はSランクパーティーとやらなんでしょう? どうして海賊ごときを追い払えなかったのですか?」
「実はこの4人は全く持って泳げないのです。だから誰も相手の船に乗り移って戦闘をしたくないと」
は? 泳げないのに海上護衛の仕事引き受けたのか。馬鹿じゃないんだろうか。
俺が呆れていると、フローラは続けた。
「海賊船の発射するファイアーボールに対する対策も全くありませんでした。普通の海賊船に魔法使いは乗っていませんからね。もしあなた方が助けに来てくれていなかったら、今ごろファイアーボールが命中して船が火だるまになっていたかもしれません」
そう言ってまたフローラは俺に頭を下げた。
人を助けるのって気持ちの良いことだな。
「その代わりとして、なにかお礼をしたいのですが......」
キタ! 情報ゲットチャンス!
この期を逃すまいと、俺はフローラに話しかけようとするのだが……
「何でもよろしいですのよ。何なら私の体でも……」
そういってフローラは上の服をまくりあげようと服に手をかけた。
流石に女性にそんなことをさせるわけにはいかないので、俺は慌てて止める。
「待ってください、なんでそうなるんですか。自分の身体は大切にしてください」
俺の言葉に彼女は驚いた顔をする。
まだ服が真ん中ぐらいまでめくれていたので、しかたなく戻してあげた。
『竜討つ剣』のメンバーから鋭い視線を感じるのは気のせいだろう。
「そんな……体でもダメとなれば、何を差し上げればよろしいのでしょうか」
俺が欲しいのはあくまでも情報だ。
こほんと咳払いをし、フローラに求める報酬を提示する。
「では、フローラさんの住む国について教えてもらってもよろしいですか?」
彼女はキョトンとした顔をする。
金でも体でもなく情報がほしいと言われたら驚くのも無理はないのかもしれん。
しかし俺にとって情報は間違いなく宝だ。
「ルクスタント王国についてですか? そんなことで良ければ......」
成程、フローラの所属する国の名前はルクスタント王国というのだな。
それにしても今日は大収穫の予感がするぞ。
――それから30分ほどルクスタント王国についての説明をうけた。
彼女から話されたことは、王城や冒険者ギルド、ダンジョンに魔法など、ザ・異世界な話ばかりで興奮してしまった。
俺が1人で興奮していると、不思議そうにフローラが訪ねてきた。
「ところでルフレイ様、あなたはどちらの国出身なのですか?我々の国のことや常識を全く知らないようですが」
当たり前だ、異世界人なんだから。
それにしても何処出身、か。
これは島の存在を王国の人間が知っているのか試す良い機会だな。
「俺はここから少し進んだところにあるイレーネ島というところに住んでいるんですが、知らないですか?」
「イレーネ島ですか……残念ながら知らないですね」
彼女は商会長という立場上、国や地域のことを熟知しているはずだが、そんな彼女が理解できなならそれはその国の人にとって知らない島だってことだろう。
「そうですか。知らないならそれで別に良いんです」
これで多分王国の人間は島の存在を知らないということが分かった。
……帰るときには欺瞞航路を取る必要がありそうだな。
「ありがとう。では私はこれにて帰ることにします」
今日のところはこれぐらいでいいだろう。
かなりの収穫があり、俺は満足だった。
「助けていただきありがとうございました。あ、お近づきの印としてこれを受け取ってください」
彼女から渡されたのはきれいな宝石が使われた指輪。ずいぶんと高そうだ。
今後も交流があるかもしれないので、ありがたくいただくとしよう。
「こんな物、良いんですか? 大事にさせてもらいます」
「命を助けていただいなのですから、これぐらいなんてことありません。何ならもっと良いものを用意したいのですが、生憎今船にはそんなものしかなく……」
これ以上のものがあるなんて。流石は商会長と言ったところか。
しかしこれで十分である。
「フローラさんたちは帰り着くまで気を付けてくださいね」
「はい。ルフレイ様こそお気をつけて」
こうして俺達は分かれた。
この世界の船は遅く、到底『はやぶさ』に追いつくなど出来無さそうだ。
これで島の位置がばれるのは防ぐことが出来るだろう。
しかしルフレイはまだ知らない。
最後にフローラが渡したものが何なのか、それによって何がこれから起こるのかを。
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