第8話 大元帥、降☆臨☆爆☆誕!
昨日から始まった空軍基地建設。
今朝起きて進捗を確認しに行くと、そこには驚くべき光景が広がっていた。
「何じゃこりゃぁ! もう既に飛行場の原型ができているじゃないか」
昨日までは一面草ボーボーだったのが、滑走路予定地やエプロン予定地の草が見事に刈られていたのだ。
もう既に原型が見えてきた基地に俺は喜びを隠し得なかった。
「おや司令官、おはようございます」
昨日の5人組の中にいた1人が笑いながら話しかけてきた。
一晩中草を刈っていたせいだろう、彼は汗でべちゃべちゃだった。
それでも楽しそうに笑っている彼を見て、思わずこちらも笑ってしまいそうだ。
「おはよう。工事はなかなかのスピードで進行しているみたいだね」
「はい。皆んなやる気に満ち溢れており、止まることを知りません」
この様子だと2週間すらかからないかもしれないなと思いつつ工事現場を離れた。
実は今日はやりたいことがあるのだ。
やりたいこととは……ズバリ釣りである!
この世界に転生してから今日までの間、俺は軍用レーションを食べ続けてきた。
軍用品が出せるんだからレーションも出せるだろうと思って試してみたが大正解だった。
だが初日には特に指示を出さずにレーションを召喚したため、なんとMREが出てきてしまった!
あれは本当に食べ物なのか? 思わず吐いてしまいそうになった。
次からはしっかりと自衛隊の戦闘糧食を想像して召喚したので、美味しく食べることができた。
しかし、ずっとレーションというのも味気ないものである。
確かにレーションは懐かしい味がしてまずくはないのだが、流石に飽きてくる。
かといって魔物たちは食べられそうにもないので、我慢するしかないと思っていた。
だが俺は忘れていた。海や川には魚がいるということを!
しかし海にはどんな生き物がいるかわからない。そもそも魚がいても食べられるのかも分からない。
なので今日は海の生態系確認も兼ねて海釣りをすることにしたのだ。
参加するのは俺とロバートの2人。エーベルトは行きたくないらしい、残念だ。
我々はハンヴィーを乗りこなし海岸へと向かった。
「おぉ! きれいな海だなぁ」
海岸について初めに思ったことがそれだった。
こんなにきれいな海を見るのは一体いつぶりだろう。
雲一つない青空に、日光を反射する青い海。
日本人だった時代に、こんな海に彼女がいたら行ってみたかったなぁ。
彼女なんて1人もいなかったのに変な妄想をしていると、ロバートから声をかけられた。
実は彼は、俺が海に行くといったら子供のようにはしゃいでいたのだ。
もう海に出たくてうずうずしているのだろう。
「司令官。海に来たのは良いが、船はどうするんだ?大型艦を出すわけにもいかないだろう」
「大丈夫だよロバート。そこはしっかりと考えているよ」
そう言って俺は【統帥】スキルを起動する。
「【統帥】スキル発動。はやぶさ型ミサイル艇を召喚!」
昨日1日をかけて貯めたMPを一気に消費し、ミサイル艇を召喚する。
召喚したのははやぶさ型ミサイル艇。海上自衛隊で運用されている小型舟艇だ。
この大きさのミサイル艇ならば、海軍施設がなくても川などにでも係留出来るだろう。
とは言っても全長は50M以上あるので結構大型ではあるのだが。
それに、もし海上で襲われたとしても76mm砲と対艦ミサイルが搭載されているのでいざというときも対処が可能だ。
「よし、『はやぶさ』出港する。抜錨!」
錨を引き上げ、はやぶさはゆっくりと動き出す。
目指すのは海岸から100キロほど離れた海域。そこでゆっくりと釣りをしよう。
◇
――2時間ほど航行した後、指定のポイントに到着した。
もうイレーネ島は見えず、一面の海が広がっている。
さぁ、絶対に大物を釣って今夜は豪華な魚料理を食べるぞ!
甲板から釣り糸を垂らしているが、さっきから1匹もかかりやしない。
隣で竿を持っているロバートもまた、1匹も釣れずにふてくされている。
ちなみにこの釣り竿もスキルで召喚した。
誰かが軍艦の上で釣りを楽しんだのだろうか。
「司令官、水上レーダーに反応があります」
釣り糸を垂らして魚を待っていると、急に乗組員が話しかけてきた。
彼の名前は有田。この『はやぶさ』の艦長を務めている。
しかし何だよ、もしかしたら魚がかかるかもしれないという時に。
え、一生かからない? そんなことを言わないでくれ。
それにしてもレーダーに反応って言ったな。
もしや大型の海洋魔物だったりして。
少し不安になったので、有田艦長に詳細を尋ねる。
「反応? どんな反応なんだい、有田艦長。」
「えーと、50km程先に船とおぼしき反応です」
船!? 船だと!?
おそらくはこの世界の人間が乗った船であろう。
これは、初めて俺たち以外の人間に接触できるチャンスかもしれないな。
実は、こんなことが起こるのではと思って川釣りではなく海釣りを選んだのだ。
しかし、見つけたのはいいもののここで不安が頭をよぎる。
本当に今接触してもいいのだろうか? という不安だ。
もしも彼らが我々以上の軍事力を持っていた場合、イレーネ島に軍が派遣され、俺たちが敗北した場合最悪死刑に処されるかもしれないしな。
そんな俺の雰囲気を察したのか、ロバートが俺に話しかけてくる。
「司令官、ここには釣りをしに来たんじゃないのか? わざわざあの船と接触する必要などないだろう」
ロバートが俺に彼の意見を告げる。
確かにロバートのの言う事は間違いない。
だがしかし、俺には異世界人と接触することに1つ重要なねらいがあったのだ。
「でもロバート。俺たちは大陸の地理は理解しているが内情については全く無知だよね? しかし俺たちはどこからか大陸の情報を仕入れなければならない」
「つまり司令官は、あの船から大陸の国の情報を引き出したいと考えているのだな」
そう。大陸の情報をできるだけ収集しておきたいと思っていた。
加えてここで大陸の国との繋がりができれば、今後大陸での活動において動きやすくなるかもしれない。
だがロバートが俺にこう質問を投げかける。
「そもそも司令官、大陸の国々は我々の島の存在を知っているのか?」
確かに。島の存在を知っているのか、か。いわれてみれば考えたこともなかったな。
俺のような【世界地図】持ちがいれば当たり前に把握されているだろう。
しかしこの島に1人も人が住んでいない現状、大陸の国はこの島を把握していないのかもしれない。
仮にそうだとすると、異世界人との接触はこちらの存在をバラすことになりかねないか。
「司令官、私は接触してみるべきだと思います。それにもし彼らが我々を追跡してきたとしても、『はやぶさ』の速力を生かして追跡を振り切って見せましょう」
有田が発言する。彼は接触賛成派のようだ。
しかしこの『はやぶさ』の速度の追いつける船はそうそう存在しないだろう。
まぁ物は試しだ。この世界の人類と初ランデブーと洒落こもうじゃないか。
「よし、機関出力最大、艦の進路を補足した異世界の船へ!」
缶がうなりをあげ、『はやぶさ』は44ノットで水しぶきをあげながら航行する。
異世界人よ、待っていろよ。
◇
「ところで司令官、今から人と会うというのにその格好はマズくないか?」
突然ロバートがが俺にそう言ってくる。言われてみればそうだな。
前世で死んだときに着ていたダサい部屋着が、コッチに転移してきたときもそのままだったのである。
特に今まで気にしていなかったが、流石にこの格好で人に会うのは気が引けるな。
「かといって俺が召喚できるのは軍用品だけだしなぁ」
「ならば軍服を召喚して着ればいいじゃないか」
ロバートが軍服を着ることを提案してきた。
確かにそのとおりだ。普通の服は民生品だが、軍服は軍需品だ。
それに、軍服は公の場でも着用することのあるしっかりした服装でもあるしな。
そうと決まれば早速召喚してみよう。実は前から着てみたいものがあったんだよなぁ。
そう考えながら俺は目当てのものを召喚する。
目の前に現れたのは真っ白な軍服、旧帝国海軍の第二種軍装である。
海軍と言ったらやっぱりこれ! といってもいい白い軍服に昔からあこがれていたのだ。
では早速着てみるとしよう。
「おぉ! めっちゃかっこいいじゃないか。これぞまさに軍服って感じだ」
俺は思わず喜びの声をあげる。
一度は着てみたいと思っていた海軍の軍服。こんな形で実現するとは。
それにしても中々似合っているんじゃないか?
「司令官、似合ってるじゃないか。艦長もそう思うだろ?」
「はい。私もよく似合っていると思いますよ、司令官」
ふたりに似合っていると言われて、思わず照れてしまう。
この服を着てなんだか本格的に司令官になった気分だ。
だが俺は軍服にマストなアイテムがついていないことに気づく。
「あっ、そういえば肩章が付いていないな。俺の階級ってなんなのだろう?」
軍隊における階級を表す証の1つである肩章。
第二種軍装を着用するのであれば、階級を示す肩章が欲しくなるところである。
しかし階級を持っていない現状、どの肩章を着用すべきなのか分からないなぁ。
とりあえずロバートと有田艦長に聞いてみよう。
「俺の階級ってどのくらいが妥当だと思う?」
2人とも少し悩んで、ロバートが先に発言する。
「司令官は今後陸海空軍を指揮する立場にあるのだから、大将や元帥が妥当じゃないか?」
「私は元帥のもう1つ上の階級、大元帥でもいいのではないかと思いますが」
ロバートがそれがあったか! と納得したように言う。
俺は最初流石に大元帥はと2人に反対した。
しかし結局2人共からかえって大元帥の称号を推された。
しかし大元帥とは。これは階級が上すぎるのでは?
だが彼らの言う通り、これから俺は数多の兵を従える立場になるのだから、これぐらいの階級が妥当なのかもしれないな。
しかし大元帥に就任するにあたって問題?が1つだけある。
それは……
「流石に菊の御紋を身につけるのは気が引けるなぁ」
そう。旧帝国海軍の大元帥の肩章には菊の御紋がついているのである。
菊は天皇家だけが着用できるもの。俺なんかがつけるのは恐れ多いものだ。
「司令官よ、別に菊のついていない普通の元帥章でいいじゃないか。誰も指摘などしないさ」
たしかにここは日本じゃない。肩章と階級が違ったって指摘などされない。
そう思いながら、俺は肩章を召喚した。
召喚された元帥の肩章を俺はつける。
「おぉ、ルフレイ大元帥の誕生だ! 万歳! 万歳! 万歳!」
ロバートと有田艦長が俺の大元帥就任を祝福してくれる。
少し照れながらも、俺は今後背負っていくであろう軍の重みを肩にしっかりと感じていた。
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