第6話 基地建設計画、始動
魔物討伐の翌日――神殿内の一室にてルフレイ、ロバート、エーベルトの3人で会議が開かれていた。
議題は今後の動きについて。特に軍事基地の建設について話し合われている。
軍を編成するのは良いが、それを訓練、運用できる基地がないと意味がない。
ならばまずは何を建設すべきかという話になったのである。
「司令官、やはり建設すべきは陸軍基地ですぜ」
始めに、ロバートが陸軍基地を建設すべきと提案する。
陸軍基地は車両の整備や補給などに欠かせない存在だ。
「陸軍基地ねぇ、ロバートはどうして陸軍基地を建設するべきだと思うの?」
陸軍基地か。実は俺の中では優先度は最下位だが、ロバートなりの考えがあるのかもしれない。
とりあえず意見を聞いてみることにしようじゃないか。
「そりゃあ戦車を運用するために決まっているじゃないですか」
戦車か、確かに戦車がいれば間違いなく強くなれるだろう。
だがダークウルフやデスホーンラビット、コカトリス程度の魔物にしか遭遇していない現状、戦車は過剰戦力だと思う。
それにコカトリスの相手も、ゲパルトが1台いれば余裕で処理出来る。
「戦車ねぇ、俺もゆくゆくは戦車部隊を導入しようとは考えているけれども……」
将来的に戦車は陸軍の中核的存在になるだろう。
しかし、今必要かと言われればいらないというのが答えだ。
俺の使えるMPも今はそれほど多くないのだから。
「やはり司令官は分かっている。戦車さえあれば我が軍は無敵ですぜ」
ロバートがさらに戦車を推してくる。
別に戦車以外にも陸上戦力なら榴弾砲や迫撃砲もあるのに、あくまで戦車が良いんだな。
彼を納得させれそうになく困っていると、エーベルトが助け舟を出してくれた。
「小隊長殿、司令官殿の言う通りまだ戦車は不要だと思いますよ。せっかく召喚しても宝の持ち腐れになってしまいます」
ロバートと比べてエーベルトは冷静な人間に見えるな。
流石は元ドイツ人、お国柄が性格に反映されているのだろうか。
でもビールが入ったらすごいことになりそうな気がするのは気のせいだろうか。
「分かってないな車長さん。戦車はすべてを解決するんだよ」
対してロバートは、元アメリカ人らしく豪快で元気な性格だ。そして生粋の戦車信者である。
どこかに『瑞雲』を最強だと崇める集団があったが、それと同じく戦車を愛してやまない限りこうなってしまったのだろう。何事も柔軟に考えなくては。
ちなみに俺は大艦巨砲主義者である。戦艦はいいぞ……
「小隊長殿はダークウルフやホーンラビット相手にわざわざ主力戦車を投入する気ですか?」
すかさずエーベルトが発言する。なかなかに鋭い質問だ。
この質問はロバートにとって答えるのが難しい質問だろう。
そんな難問だが……さぁロバートよ、どう答える?
ロバートは少し悩んだ後、苦しそうな表情で返答する。
「うっ、じゃあ車長さんは逆に何を優先して建設するべきだと思うのだい?」
あ、ロバートめ、答えることを放棄して逃げやがった。
まぁいいか。では次はエーベルトの意見を聞こうじゃないか。
果たして彼は何を選ぶんだろうか?
「そうですね、私は空軍基地を建設すべきではないかと」
エーベルトが自信ありげに応える。
空軍基地は戦闘機や爆撃機の離陸、着陸など、航空戦力の運用に必要不可欠な設備だ。
だが一見して対魔物において最も不要そうに思える空軍基地だが、それでも建設するべき理由は?
「空軍基地? 車長さんはコカトリス相手にわざわざ戦闘機を使うんですかー?」
ここぞとばかりに言い返してきたなロバート。子供かお前。
自分がやられて嫌なことを相手にするのはダメって小学校で習っただろう。
しかしエーベルトがここでロバートも納得できるような答えができれば議論は一気にエーベルト優位に傾くな。
「違う。もっと広い話、我らの目的の話だ。司令官殿、いずれ我々は世界へ進出するんだろう?」
エーベルトが俺に質問を振る。
世界への進出――この2人には女神との約束について既に話してある。
世界の紛争を抑えるためにはいずれ島の外に派兵しなければならない、それは必然だ。
実際、俺が空軍を選んだのには世界への進出が少なからず関係している。
世界に展開するための陸軍や輸送のための海軍の基地よりも優先する理由があるのだ。
……にしてもエーベルト、ちょっと怒ってる?言葉遣いが少し粗くなっているが。
「ん、そうだね。エーベルトの言う通りだよ。俺たちはいずれ世界に進出する」
「となると、必然的に部隊を展開させるための揚陸艦、それに随伴する護衛艦隊が必要になる。しかしそんな艦隊はまだ司令官殿のMP量では作れない」
そう。車長の言う通りである。
1秒につき1MPと爆速でMPは増えてはいるが、それでも全然足りないのである。
輸送艦はおろか護衛の艦も一隻も建造できない今、海軍基地は無駄以外の何者でもない。
そして、輸送してくれる艦が無い陸軍もまた必要ない。島内の戦力も今で十分だし。
「揚陸艦がないと戦車たちも外へ行けない……活躍の場がないということか」
ロバートが悔しそうに言う。
ロバートもエーベルトが言いたいことが飲み込めているようだ。
てっきり戦車信者の脳筋野郎だから反論してくるかと思ったよ。
そういえば昨日の討伐でも的確に指示を出していたな。鶏に対する執着はすごかったが。
こいつは正しい意見には真面目な判断が出来るようだな。
「そして海軍基地もまた必要ない。ご理解いただけましたか?」
「あぁ理解した。それにもしも飛行場があれば戦闘機や爆撃機が運用でき、それらを用いて空の安全の確保や敵の都市を攻撃したり、いろいろ出来るな」
爆撃機で敵の都市を攻撃……なかなか恐ろしい事を言う。
爆撃機も大量に召喚、召喚した爆撃機の大編隊で絨毯爆撃という戦法も取れるだろう。
しかし、燃やされた都市に住んでいた人のことを考えるとその行動はできるだけ取りたくない。
かつての日本と同じ惨劇を己の手で作り出すわけにはいかないのだ。
しかし驚いた。さっきのエーベルトの意見が俺の考えていたこととほぼ一緒だった。
やはり俺は良い部下に恵まれたようだ。
ロバートもエーベルトの意見を認めたようだ。
そうなればやることはただ1つ。
「エーベルト、良い考えだ。その案を採用することとする。では空軍基地の建造を始めよう」
そう言いつつ、俺はスキルを発動させる。
今回召喚するのは工兵部隊。その中でも建設工兵と呼ばれる部隊だ。
彼らは架橋や陣地構築などの高度な土木スキルを保有しているので、きっと役に立ってくれるだろう。
「スキル【統帥】発動、建設工兵部隊を召喚!」
もう3回目なので見慣れた光に包まれ、工兵部隊総勢1000名が光の中から現れる。
こちらも同じく1人あたり2MPなので、今ので2000MPを使用した。
前に整列する工兵たちを見つめ、建設指令を伝える。
「君たちにはこれから空軍基地を建設してもらおうと思っている――あれ?」
そういえば何かを忘れている気がする。何だろう、思い出せない。
考えろ、考えろ......思い出した!建築資材だ。
この島には鉄もアスファルトも勿論無い。
材料がなければ何も作ることは出来ないのは当たり前だ。
これは思っていた以上の問題点だな。
「そういえば建築資材はどうすれば良いのかな? もしや自作?」
「心配御無用ですぜ、司令。司令のMPから必要なものは生成しますんで」
良かった。資材はMPで作り出すことが出来るらしい。
にしてもどれぐらいMPを消費するんだろうか。
もしも大量に使用するのであれば、最悪基地建設を中断しなければならないかもしれない。
その時はその時だ。まぁなんとかなるさ。
「では明日から作業を開始する。今日は解散!」
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