第10話 トリを探して

 楽園の3周年記念パーティの途中でトリがどこかに飛び去ってしまい、そのまま一夜が明ける。朝を迎えても、トリは仲間達の前に姿を現さなかった。今までこんな事はなかったため、流石のドラキュラも困惑する。


「一体トリはどこ行ってしまったんだ」


 天空の楽園の敷地内のどこにも見当たらなかったため、この楽園のシステムを管理する中央管理室に彼は足を踏み入れる。そこには同じ結論に至ったモンスター保護官のリホが先に来ていた。

 彼女は、ドラキュラの姿を見るなり駆け寄ってくる。


「ねぇ、聞いて!」

「な、なんだ? トリが見つかったのか?」

「ううん、でも不思議な事が起こってる。ゲートが開いてるんだよ」


 ゲートとは、この中央管理室の中にある開かずの部屋の事。どんな方法を使っても開ける事の出来なかった部屋が、いつの間にか空いていたのだ。

 この異変とトリの失踪には何らか因果関係があるとにらんだ2人は、すぐにその場所へと向かう。


「本当に開いてる……」

「じゃあ、行こう。きっとこの先にトリ君はいるよ」

「わ、分かった……」


 リホに腕を引っ張られる形で、2人はゲートの中に入っていった。その部屋の中央には何かの転移装置みたいなものが設置されていて、他には何もない。装置は可動していて、耳を澄ますと微かに稼働音も聞こえている。

 ここはもう飛び込むしかないと、意を決した2人は転移装置に足を踏み入れた。


 転移装置を抜けた先は全く同じ間取りの部屋。そこを抜けると、またしても天空の楽園の中央管理室そっくりな内装が続いている。

 作りが同じならばとそのまま建物の外に出ると、そこから先の光景は天空の楽園とは全く別のものだった。


「こ、ここは……?」

「すごい。見て! ここは海の底だよ」

「もしかして……ここが海底の楽園?」


 そう、その場所は海の底に作られていたのだ。モンスターのお伽噺にある3つの楽園のひとつである海底の楽園がここなのだと、ドラキュラはひと目で理解する。


「ここもやっぱり誰もいないんだな……」

「淋しい場所だね」


 海底の楽園は楽園とは名ばかりで、初めて足を踏み入れた時の天空の楽園と同じく動物は虫一匹いなかった。動く事の出来ない植物だけが豊かに育っている。

 それでいてしっかり管理でもされているのか、建物などには植物は全く生えていない。住み分けがきっちりとなされていた。

 2人は飛び去ったトリの手がかりが何かないかと、この楽園内を探し始める。


「あ、誰かいる!」


 最初にそれに気付いたのはリホ。誰もいないはずの楽園にいると言う事はこの場所の重要人物かも知れないと、2人はその人影目指して駆け出した。


「おや? 珍しいな、ここにお客さんとは」


 人影の正体は年端もいかない少年だった。栗毛色の髪に好奇心旺盛そうな瞳。活発そうな性格はその軽快な服装でも分かった。人のいない楽園に暮らすには場違いにすら見える。

 駆けつけた2人を前にして、彼はニッコリと無邪気な笑顔を見せた。


「ようこそ、この淋しい楽園へ。僕はカタリィ。カタリって呼んでね。それで、君達は?」

「お、俺はドラキュラ……」

「私はリホ」

「よろしく、ドラキュラにリホ」


 カタリは人懐っこい顔で挨拶をする。この人当たりの良さそうな少年に、リホは早速この場所に来た目的をジェスチャーを加えながら説明した。


「それで、あ、あのっ。私達、トリく……、こう言う丸っこいフクロウを探しているんです。どこかで見かけませんでしたか?」

「君達は彼の知り合い?」

「は、はい。カタリ君はトリ君を知ってるんですか?」

「カタリでいいよ。うん、彼の事はよく知ってる」


 目の前の彼がトリを知ってると言う事で、リホは胸をなでおろした。安心した流れで、彼女は自分の気持ちを吐き出す。


「あの、トリ君、体が急に光っちゃって心配だったんです」

「ああ、それは……。バーグさん、把握してる?」


 リホの話を聞いたカタリは、どこかにいる誰かに連絡を取っているようだった。そのやり取りの内容を探索組の2人は理解出来なかったものの、話が終わった後に彼はちゃんと報告をしてくれた。


「彼は確かにこっちの世界に来ているみたいだね。今は眠っているようだよ」

「だ、大丈夫なんですか? もしかしてお別れなんて事には……」

「ちょ、今トリに離れられたら困るぞ。だってまだモンスター保護計画は途中……」


 カタリの言葉に2人は翻弄される。病気的なものとか、更には最悪の想定までもしてしまい、ドラキュラ達は現実をすぐには受け入れられなかった。

 その様子を目にした少年は、2人を落ち着かせようと穏やかで優しい眼差しを向ける。


「安心して。ちょっと調整しているだけだから」

「え?」

「常に進化するのがカクヨムだからね」

「カクヨムって?」


 その聞き慣れない言葉にリホは首をかしげる。その純粋な好奇心を目の当たりにしたカタリは、少し胸を反らすとドヤ顔を浮かべた。


「カクヨムって言うのは、僕ら管理者に与えられたシステムの名前なんだ」

「よく分からないけど、つまり、待っていれば帰ってくるって事だよな?」

「多分そんなには待たせないと思うよ。管理AIのバーグさんが調整してくれてるから」


 彼は、トリの体調が戻ればすぐに天空の楽園に戻すと断言する。それを聞いて安心したドラキュラは、自分達の居場所に戻る事にした。


「じゃ、ここにいても仕方ないし、帰るか」

「あ、あのっ……。今からトリ君に会う事って出来ますか?」


 リホは切実な顔でカタリに訴える。この望みを、彼は微妙な顔をして聞いていた。


「えっと、それは難しいかな……」

「そう……ですか」

「ほら、みんなも待ってるし」


 ひと目トリの姿を見るまで動きそうにない彼女を、ドラキュラは強引に引っ張っていく。引っ張られながら、リホはカタリに最後の言葉を投げかけた。


「あのっ。トリ君の事、よろしくお願いしますっ」

「うん、またね。暇だからいつでも遊びに来て。大歓迎だからさ」


 こうしてフクロウの事をこの海底の楽園の管理者に一任し、2人は戻ってくる。転移装置から顔を出したところ、そこで待ち構えていた多くの住人達から盛大にからかわれる事になってしまった。


「お帰り~」

「もう戻って良かったの?」

「もっと楽しんでて良かったんだよ~」


 その普段と全く違う雰囲気に2人は困惑する。周りを頻繁に見回して状況を把握しようとしていると、ドラキュラに向かって決定的な一言が飛んでくる。


「デートどうだった?」

「デデデ、デートじゃないし」

「恋人繋ぎまでしてるのに?」


 そう、2人は無意識の内に手を絡めあって握っていたのだ。それを指摘された2人は、お互い顔を赤らめながらすぐにパッと手を離す。

 その様子をニヤニヤと眺めていた楽園の住人の1人、元モンスター保護官のルクスが口の両脇に両手を立てて囃し立てた。


「そろそろお互いに素直になった方がいいぞ~」

「ひゅーひゅー」

「そうだホ。じれったいホ」


 こうして場が賑やかになったところで、2人の背後から聞き慣れた偉そうな声が聞こえてきた。すぐに振り返ると、そこには少し生意気で可愛らしい伝説のモンスターの姿が。

 嬉しくなったドラキュラは彼を両手でがっしりと掴む。


「と、トリー!」

「ただいまホ。やっぱりお前達には俺様がいなくちゃダメなんだホ」


 こうしてトリも復活し、ドラキュラ達のモンスター保護計画は続いていく。ゲートも開放されたと言う事で、海底の楽園に住みたいと言うモンスターも現れる。

 管理者のカタリはそれを快く了承して、淋しかった海の底の楽園も少しずつ賑やかになっていくのだった。


 やがて人間とモンスターは上手く住み分けが出来るようになり、モンスターに不利な人間の法律なども次々に改正されていく。

 その影には、モンスターと人間の代表のドラキュラとリホの活躍が大きかったのは言うまでもない。


 え? そんな事はいいからその後の2人がどうなったか知りたいですって? それは皆さんのご想像にお任せしますね。



(おしまい)

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最後のモンスター達と伝説のトリ にゃべ♪ @nyabech2016

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