第6話:リム達の無事の帰宅
リムが、眠ってしまったプリシラをおんぶから抱っこし直してから、一定の間隔で、街灯が橙色にぼんやりと灯った静かな田舎道を歩いていると、畑が広がる中に同じような平屋が2軒並んで建っているのと、その明かりが見えてきた。
リムから見て、手前がリムの、その奥がプリシラの家だった。
リムは、家と明かりが見えるとホッとして、体が軽くなるのを覚え、一度大きく息を吐いた。
プリシラの母親メルシェラは、さすがに心配したのか、夕食を作り始める前に、夫のラシェムと一人娘のプリシラの帰りを、
一階のリビングの大きな引き戸の窓を開放し、その窓の上に備え付けられているテラスの下に座り、自家栽培している、もやしのヒゲをむしり取りながら、道路のほうを時折り見つつ待っていた。
すると、庭の柵の向こうに、リムがプリシラを抱っこしているらしき姿が見えた。
「リム?プリシラ?」
メルシェラは、目を見開いて、リムとプリシラを確認すると、夫ラシェム手作りの白い木造の家の門を開け、リムを温かく微笑んで迎え、リムは慣れたようにプリシラが起きないように静かにその門の中へ入った。
「シーラママ、遅くなってごめんなさい。
僕がちゃんと見てなかったから、プリシラ、迷子になっちゃって……。それに、転んで怪我していたから手当てしたりしていたんです」
「あらそうだったの。リムありがとう。怪我ってどれ?」
母親は、リムに抱っこされているプリシラの体のあちこちをすばやく見てみた。リムはメルシェラにプリシラが怪我をした部位を伝えた。
「しっかり手当てしてくれたのね。ミリィに診せなくても大丈夫そうね」
リムは、シーラママに怒られなくてよかったと胸をなでおろした。
そうして、プリシラの母は、リムから娘を引き取ろうと我が娘に両手を伸ばした。リムはメルシェラに、丸くなって寝ているプリシラをそっと引き渡そうとした。
「うん……」
すると、プリシラが目をこすって、けだるそうに目を覚ました。
メルシェラとリムは、少し、しまった、という顔をした。
2人は気を付けてプリシラの体を持ち、メルシェラはリムに、小声で「ありがとう」と感謝した。リムはプリシラを起こさないように、「いいえ」という顔をして、足音を立てずに心配しているだろう母親のいる隣の自宅に帰って行った。
自宅に戻るとリムは、やはり母親ミリィが心配していて、ミリィに抱かれて両頬にキスを受けた。プリシラのことを言うと怒られるかと思いきや、偉いわねと褒められて、また抱かれてキスされた。リムの母ミリィは、自分の最初の子ども、夫に似た長男のリムを溺愛していた。リムは、プリシラには格好いい頼れるお兄さんだが、自宅では両親の愛する長男坊で小さな可愛い男の子だった。リムは、母親に抱かれてキスをされると、緊張の糸が切れて安心したのか、甘えか、母の名を呼んで母の背に両手を回して泣いた。
「安心したのリム。シーラちゃんの面倒、今日もよくやったわね。偉いわ」
ミリィはリムの頭を抱いて頭頂部にキスをして髪の毛をなでた。
プリシラとリムは、両親の愛を多く受けて、
また、年上のいとこや幼馴染達と共に、
すくすくと育っていった。
迷子のプリシラ 樹時歌(じゅじか) @sakuramachi77
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