#39 B級コンビ
次の日の放課後、俺の家には小町と鈴木がやってきた。
二人には、稲荷との件でだいぶ心配をかけてしまった。ある程度は顛末を話しておくのが筋だと思ったのだ。
「お邪魔します」
「ん、テキトーにくつろいで」
「おいこら勝手に家主面すんな」
少し遅れてやってきた鈴木を、小町が涼しい顔で出迎えた。俺がすかさずツッコミを入れると、べっ、と小町が舌を出して誤魔化す。くっそ、可愛いなそれ……。
「吾妻の家は私の家みたいなところあるから」
「ねぇよ。同棲中の彼女じゃあるまいし」
「え、私と付き合いたいの? 稲荷さんや伏見さんとラブラブのくせに?」
「勢いよく刺してくるじゃん……」俺は苦笑した。「今日はその話をするつもりだから」
「浮気の弁解パートってことね」
「浮気じゃないからなっ!?」
「あはは」鈴木が可笑しそうに笑う。
「いや、笑いどころでもないからなっ!?」
うん、やっぱりこうなりますよね。B級美少女が揃うと、俺は必然的にツッコミ役に回ることになってしまうのだ。
……自称ツッコミ役ほど痛い存在はいない、って指摘はノーセンキューで。俺も自覚はしてるから。
「でも、こうして吾妻くんの家に来るのも久しぶりな気がするなぁ」
「ま、鈴木も何かと忙しいしな」
「まぁね。特にゴールデンウィーク中は、しぃちゃんと旅行に行ってたから」
「あー、そんなこと言ってたな」
しぃちゃんとは、鈴木の親友――西園寺詩音のことだ。二人は生徒会に所属しており、ゴールデンウィークに入る前もそれが理由で鈴木はあまり家に来られなかった。
「あっ」と鈴木が何かを思い出したような声を上げ、鞄を漁り始める。
「忘れないうちに、これ渡しておくね。旅行先のお土産だよ」
「えっ、お土産なんて買ってきてくれたのか」
「うん」鈴木は少し照れた顔をする。「私はわざわざお土産を買うのも重いかなぁって思ってたんだけど、しぃちゃんがしつこくて」
「なるほど」
なんか、ものすごく納得した。西園寺はそういうことにマメなイメージがある。
俺と小町はそれぞれ鈴木からお土産を受け取った。それほど高くはない、小さなお菓子だ。重くない感じのセレクトは鈴木らしいな、と思う。
「それと、吾妻くんにはこっちも。……しぃちゃんからのお土産だよ」
「え゛」変な声が出た。「西園寺が……?」
「『賄賂ではないから安心して』だってさ」
「安心できねぇ……!」
賄賂って単語がチラつく時点でアレなんだよなぁ……。
まぁ、受け取ったからと言って生徒会に入らされるわけではあるまい。そんなに卑怯な手は使わないだろうからな。
「……? 西園寺って、あの西園寺さん? 知り合いなの?」
「他に西園寺がいるかは知らんけど、生徒会の西園寺とはちょっとだけ知り合いだな。たまに生徒会に誘われてる」
「ふぅん?」
「……どうかしたか?」
「ううん、別に」小町がかぶりを振る。「受け取っとけば?」
「ま、まぁ、そうだな……断っても後が怖いし」
「しぃちゃんを何だと思ってるのかなぁ……。気持ちはちょっとだけ分かるけど」
「分かるのかよ」
悪い奴じゃないとは分かってるんだが、どうしても身構えちゃう相手ではある。
ともあれ、俺は西園寺からのお土産も受け取っておくことにした。それなりに量がある和菓子のようだ。消えものだったことに少し安堵する。
「じゃあ、西園寺からのお土産でも食べながら話すか」
「何かあったときに私たちも巻き込もうとしてる……?」
「そ、そんなことはないぞ?」
「ま、吾妻が何を言おうと私は普通に無視するしね」
「小町はそういう奴だよなぁ!?」
めちゃくちゃ薄情だった。絶対に巻き込めないじゃん。
……巻き添えにする気もないから、いいんだけどな? 小町はなんだかんだ話を聞いてくれそうだし。
まぁ、それはともかく。
西園寺からのお土産とお茶を用意し、俺はいよいよ本題に入ることにする。
「二人には色々と迷惑をかけた。ありがとな」
「……別に。今度埋め合わせしてくれればいい」
「私も特に迷惑を掛けられたとは感じてないかなぁ」
「そっか。けど、二人からもらった言葉がめちゃくちゃ響いたから。そこはマジで感謝してる」
「「……」」二人は何故か顔を逸らす。
「どうしたんだ?」
「……言葉が響いたとか、ハズい。特に今は鈴木さんもいるし」
「あはは。相手を小町さんに変えて同じく、かなぁ」
「あー」言われてみればそうかもしれない。「すまん」
微妙な空気になりかけたところで、んんっ、と咳払いをする。今はとりあえず、全て話してしまおう。
この前、鈴木には稲荷やふーちゃんのことを話したが、小町には言っていなかった。なので前提となる情報を軽く伝えつつ、事の顛末を大雑把に話す。
やがて俺の話が終わると、
「え、ちょっと待って。吾妻って伏見さんと幼馴染なの?」
「やっぱりそこだよね……? 私もこの前からずっと気になってたんだよ」
と初っ端に話した事実で戸惑われた。
ですよねーって感じだ。俺も話しながら、『さらっと流していい事実じゃないのでは?』とは思ってた。
「ま、まぁ、幼稚園が一緒でな」
「ただ一緒だっただけじゃないでしょ。どう考えても仲良いじゃん」
「ラノベの幼馴染ヒロインだよね?」
「……そ、そういう部分も少しはあるかもな」
素直に認めるのは恥ずかしくて、煮え切らない反応をしてしまう。
二人はそんな俺を見て、呆れたような溜息を漏らした。
「吾妻ってそういうところあるよね」
「そういうところって、どういうところだよ……?」
「言っていいわけ?」小町が目を眇めた。
「いや、聞きたくないです」
「……ラノベ主人公体質なのは否めないんじゃないかなぁ」
「聞きたくないって言った傍から第三者が聞かせてくるのはやめてねっ!?」
自分でも多少は自覚しているのだ。出会いに恵まれてるな、と。でもそんなのは全て運だから、調子に乗ってはいられない。
「話をまとめると、吾妻は稲荷さんと伏見さんの二人と付き合うってことでいい?」
「いや、付き合うわけじゃなくてだな……。三人で『ちょうどいい同盟』を組んだんだ。お互い、大切にし合うために」
「……それでイチャイチャしてるなら、ほぼ付き合ってるようなものじゃないかなぁ」
「さっきから鈴木の囁きがチクチク痛いんだけど!?」
「自覚あるってことでしょ」小町がばさりと切り捨てて言う。「ま、吾妻がハーレムを作ろうと何でもいいけどね」
「ハーレム……ではないはずだから」
「あっそ。ま、何でもいいけどね」
と言って、小町は肩を竦めた。
まぁそうかもしれない。ハーレムじゃなくて『ちょうどいい同盟』。そんなことにこだわるほうが面倒臭いだろう。
「でも実際、吾妻くんって意外と女の子と仲良いよね。しぃちゃんも興味津々だし、前に狛井さん……小町さんの妹さんとも話してなかった?」
「あー」俺は苦笑する。小町も苦笑している。「狛井とは色々あって、陸上部に勧誘されてるんだよ」
「え、
「『狛井さん』は他に小町くらいしかいないしな」
「そうだけど……」鈴木は頬を戸惑った様子で言う。「私の感覚がおかしいのかなぁ」
一人で首を傾げる鈴木。だが、ひとまず納得はしたようだった。
「吾妻の話は終わり?」
「そうだな」
「そ。……この後、どうする? 流石に今から運動しに行くわけにもいかないだろうし」
五時半を少し超えたところ。ここでお開きにするのは勿体ないが、かといって外に出る時間でもない。
消去法で残るのは――と俺は鈴木を見遣る。
「あっ」と鈴木が気まずそうな顔をした。
「もしかして二人で今からエッチなこと始める? ……私は隅っこで本を読んでるから、気にせず始めていいよ」
「いや、鈴木がいるのにヤったりしねぇよ!?」
「え。私はヤる気なんだけど」
「なんでだよ!?」俺がツッコむと、小町がぷっと噴き出した。
「冗談」と小町が肩を竦める。
「冗談に聞こえないんだよなぁ……『不健全アスリート』め」
「うっさい、『ちょうどいい巨人』のくせに」
「……これって、言い合いからエッチに移行する流れ? ダチョウ倶楽部的な」
「違うからなっ!?」
……当然だが、俺たちはエッチを始めたりはせず。
日が暮れるまで、俺の部屋にある本を読んで過ごしたのだった。
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【一章完結】S級美少女たちから興味を持たれてる俺は、今日も二番目くらいに可愛いB級美少女たちと気軽にエッチする。 兎夢 @tomu_USA
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