第2話 プロローグ 2

「待ってください.僕弱いですよ.」

ガレオは,少しの震えを必死に抑えつつ,座り込んだ,リラを見た.


「大丈夫.君は戦える」


「そんな訳ないですし,それに,さっき走ったので分かりましたよね.絶対に貴方のほうが」


「無理.さっき走って両足が痛いわ.」

リラは,無表情でガレオを見つめた.ガレオは,彼女が何を考えているか分からなかった.でも,敵ではないことは直感で理解していた.


近づく音にビビりながら,ガレオは,彼女の様子を観察した.

「……」


「……」


彼女の様子は,無であった.疲れている様にも足が痛い様にも見えなかった.数秒考えてガレオは

「疑う訳ではないですけど,本当ですか?」

そう確認した.何かが近づいてきて時間は無いが,必要な確認だった.


そんないざこざの間にも,何かが二人の元に近づいてきていた.

「本当.支援する.私の右眼で」


「……そうですか.逃げたほうが良いと思いますけど.」

ガレオは,そう言うと,動けないリラを抱えようと動いた.


(走れないのか.まあこの際,噓とかどうとか言っている暇はない.とりあえず,逃げないと.戦う?無理に決まっている.武術を少し出来る程度の人間だ.スキル無しだったら,話は別だけど.スキルを含めたら,誰に僕が勝てる.)

父の死,家からの追放でガレオの自尊心のほとんどは,折れていた.


「無理,追いつかれる.だから戦わないと.」

リラは,表情は無表情であった,右眼が美しく力強く輝いており,彼女の言葉に説得力を持たせていた.


ガレオは,逃げるのを諦めて,やけくそ気味に,父の形見の件を構えて,二人に近づいてくる何かの方向を向いた.


それから数秒間,木々が破裂するような音だけが響いていた.

森の木々は破壊されて,真っ直ぐ,こちらに何かが近づいてきた.


そして,最後の木が倒れ,それは姿を現した.

端的に言えば,3メートル程度の人型の化け物である.体は肥大化した人間のようなであり,筋骨隆々であり,肌の色は紫であった.服のようなものを着ていたが,会話が出来そうでは無かった.しかし,この生物の最大の特徴はそこではない.身体は化け物であったが,首と顔は普通の人間のものであった.


「何だ,魔物?でも,顔が人……」

ガレオには,それが何か理解できなかった.


「多分,外の世界の悪魔の手下.能力が適合しなかった人間.」


「何を言って」

理解が出来ない事が起きていた.


「とりあえず,戦って.」


「戦って言われても,僕には力が」

ガレオは,震えていた.追放からのこの状況で彼の情緒は可笑しくなっていた.


震えるガレオの目の前の生物は

「たたすあけええていじええあd」

そう,何かを叫んだ.それは,人の言葉のような,違うような何かであった.


そして,その瞬間,ガレオの目の前の空間が歪んだ.歪んだ空間は2秒程度で元に戻ったが,その瞬間,破裂した.


その衝撃で,近くにいた,ガレオは大きく吹き飛ばされ,後方の木に激突した.その後ろにいたリラも少し後方に飛ばされた.


「痛い……あれ?」

木にぶつかった,ガレオは,反射で痛いと叫んだが,実際はダメージはほとんど無かった.


その間も,その生き物が止まることは無い.

近くにいたリラを目掛けて,その生き物は,拳を振り上げていた.

そんな中でも,リラは無表情で,あった.

「君の身体はスキルの覚醒で丈夫になった.」


ガレオは,立ち上がり,地面を強く踏みしめた.一度の踏み込みで進む距離が今までの少なくとも倍になっていた.

それから,拳がリラに当たる前にその生き物の拳を左手でで受け止めた.


(痛い,少ししびれるけど,問題ない.とりあえず,相手が良く分からないから,人だった時はまずいし.)

ガレオは,右手の剣を軽く振って,その生き物の紫の肌に攻撃を当てた.


(硬い,無理だ.)

生き物の皮膚に傷がつく気配が無かった.恐らく,結果は,両手で全力で剣を振ったとしても同じであっただろう.ガレオの剣の先が少し欠けていた.


ガレオは,冷静だった.

もし,これだけに遭遇していたらテンパっていたかも知れないが,その前に追放されたことの絶望のおかげで,逆に冷静に思考できていた.


ガレオは,紫の皮膚にまともに攻撃が入らないと判断すると,相手の動きを止めるために,足元に蹴りを入れた.相手の硬さでガレオの足に痛みが発生したが,その生き物はバランスを崩し始めていた.

それを見て,剣をしまい.すぐにリラを引っ張って,その場から後退した.


リラは,その状況でも冷静に話していた.

「相手の能力は,空間を歪めて衝撃波を出す.君は,それに反逆できるはず.」


(何で,こんなに落ち着いている.)

ガレオは,一瞬,リラの事に,思考を巡らそうとしたが,すぐにやめた.そんなことをしている余裕などないことは分かっていた.彼女が何か.言っていることの真偽がどうかなどは後回しにして,とりあえず信じる前提でガレオは思考を回し始めた.


(空間を歪めて衝撃波を出すってどういう事だ.反逆できるって何?意味が分からない.情報が足りない.)

「一旦逃げましょう.」


「無理よ.追いつかれるは.」


「そうかも,ですけど.この間に情報とか,それと君が近くにいないほうが戦いやすいでしょ.分かりますか?」


「それも,そうね.分かったわ.」


「ちょっと,運ばれる準備しててください.」


ガレオは,地面を掴み砂を手にしてからそれを,敵対している生物の人の部分の顔を目掛けて投げて,目つぶしをした.


それから,急いで,リラをお姫様抱っこ状態で持ち,走り始めた.

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無能スキルだと思っていた「反逆」が実は世界を救うカギだった 岡 あこ @dennki

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