無能スキルだと思っていた「反逆」が実は世界を救うカギだった
岡 あこ
第1話 プロローグ
アスター家は,少し前まで混乱していた.
先代当主が亡くなり後継の問題が発生した.少し若いが先代の息子のアスター=ガレオが継ぐはずだったが,ガレオの隙をつき,叔父である,アスター=レイスが新しい当主の座についた.
先代が死んでからのレイスの動きは早かった.
ガレオ15歳は抵抗する事が出来なかった.先代に仕えていた多くの人が,クビにされるか,従うかを迫られた.ガレオの両親が既に亡くなっており,兄弟姉妹がいなかった事もあり,ガレオの味方はすぐにいなくなった.
それから,2週間が経過した.ガレオは,レイスに呼び出された.
そして,
「お前は追放だ.」
そう冷酷に宣言された.
アスター家に生まれた事は,ガレオに取って不幸であったかも知れない.アスター家は,その武力で地位を確固たる物にしていた.その頂点である当主は強力なスキルを持つ人物が継ぐことが多かった.
スキルとは,全ての人類が一つ持つ力であり,持つスキルは,人によって様々で,戦闘向きのものから生活を豊かにするもの,使いやすいもの使いにくい物があり,
「……確かに,私のスキルは使い道が全く分かりませんが,それ以外の事で」
ガレオのスキルは使えなかった.
スキル「反逆」.記録上に同様のスキルを持った人物はおらず,幼い事はその未知の力に多くの人が期待していたが,15年間,スキルが発動する事は無かった.
人格面や人間性では,先代の後を継ぐことに異存は出なかったが,そのガレオ弱さが,叔父があっさりとアスター家を掌握出来た理由のひとつであった.
「追放だ.弱い人間は,アスター家には要らない.それに,弱いお前は,政略結婚の駒にも使えない」
「確かに,私は戦いで役に立ちませんが,それ以外の分野では」
「だから,何だ.必要無い.私はお前の父のように甘くは無い.」
レイスに取って口実などどうでも良かった.権力争いで勝ったとはいえ,先代の息子の存在は邪魔だったのだ.
「……」
「出ていけ,無能」
ガレオは,家を追放された.
家を追い出された,ガレオは意外にも冷静だった.いや,諦めていた.
「無理だろ.この状況.復讐,そんなこと出来る力あったら,追い出されない.それに復讐とか言ったら父さんが怒るか.でも……」
そう言って追い出された屋敷を見た.
所持しているのは,少量の金貨と来ている服と父から以前貰った剣だけであった.
しばらく悩んだガレオは,ひとまず仕事がありそうな帝都を目指す為に馬車に乗った.
馬車には先客がいた.
黒色を貴重とした美しい修道服のような服に身を包んだ,深紅の右目と黒色の左目,美しく,長い黒髪,紫外線に触れたことがないような,美しく白い肌.15〜20歳に見えるミステリアスな女性が無表情で座っていた.
ガレオは,その美しさと異質さに少し目を奪われた.
ガレオ,馬車に何故一人で高貴そうな修道女が乗っているか疑問に持ちながらも,とりあえず気にすることをやめて,その女性と最も遠い席に座った.
しばらくすると馬車が進みだして一定のリズムで進み始めた.
するとその女性が立ち上がり,揺れる馬車の中,少しふらつきながらガレオの目の前に立つと
「探したよ.君の事」
そう一言意味の分からないことを呟いた.
「はい?」
どういうことだ.混乱しているガレオその場で固まっていた.
「私と共に行きましょう.」
混乱しているガレオを無視して,修道女に見える人物は話を続けた.
表情から彼女の意図を読み取ろうとガレオは,彼女の表情を必死に見たが,無表情の彼女から何も読み取れなかった.それで,彼女の胸元にある,十字架のペンダントを見て,数秒考えて結論を出した.
「えっと.そのすいません.宗教の勧誘は.」
ガレオの精神は,摩耗していたが,祈る前に動くのが彼の心情だった.
「違うわ.私は神が嫌いよ.」
女性は,ガレオを見返して,そう無表情で呟いた.
「……」
ガレオは,考えていた.どうすれば良いかを考えて,ひとまず無視することにした.
「君のスキルは,反逆.私が探していたスキルの持ち主.」
その混乱している様子を無視して女性は話を続けていた.
(なんで,スキルがバレてる?僕のスキルを探している?何を言っているんだ?このスキルに使い道などない.)
ガレオは,混乱しながらも,必死に考えた.
「……」
(ただでさえ,大変な状況なのに,これ以上,面倒な事に関わりたくない.僕は,今,実家の事で手一杯だ.)
そう思い,ガレオは,次馬車が止まったら,馬車から降りて女性から離れることに決めた.
休憩で止まった時に,馬車の運転手に賃金を払い,その場から駆け足で離れることにした.
少し山の中であったが,問題ないと判断してガレオは走り出した.
しばらく,するとガレオは追いかけられていることに気が付いた.ガレオは,スキルは無かったが,最低限度の運動は出来ると思っていた.少なくとも,来ている服装から考えて追い付かれるとは思っていなかった.
数分後,そこには,息を切らして,座り込んでいるガレオと,涼しい顔をしている女性がいた.
女性は,座りこんでいる,ガレオの前にしゃがみ込むと
「私の名前はリラ.」
無表情でそう言った.
「……ガレオです.」
ガレオは,その自己紹介に思わず返答していた.
「そう,では,行きましょう.ガレオ」
リラが,ガレオの手を引くと,リラの真紅の右目が輝き,リラと触れているガレオの右手が輝いた.
それから,数秒してその現象は収まった.
「何が」
ガレオは,理解出来ずに固まっていた.
「もう,君と私は一蓮托生.終われる身になった.」
「何を.」
「君は外から来る.神や天使や悪魔に対抗する力を持っている.それが今,覚醒した.私のスキルは鍵の役割でもあった.」
「ずっと,何を言ってるんですか?」
「今から私たちは,狙われる.」
「だから,何を言ってるんですか?」
ガレオの混乱する声をリラは無視して言葉を続けて.
「来る.守って.」
リラは,深紅の右目を輝かせ,右手で右側を指さした.
それから,ガレオの後ろに座った.
「えっ?」
リラが指さす方向の森から,莫大な音が起きた.真っ直ぐ2人に何かが近づいてきていた.
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