第11話 昨今のゆるキャラたちについて🐇🐈🐻

 大阪に住まいを構える山田家。


 今日も、ここで摩訶不思議生物であるキャベツの妖精たちは、ひよこ生を謳歌していた。


 いつもの黒ゴマ色のソファーで、とうもろこし色のモフモフふわふわボディーをゆらゆらと揺らしながら、リビングでパンプキンスープを啜りながらのんびりしている。


 ちなみに座っている位置はいつもと同じで。


 右から頭に1本の毛を生やす長男のぴよ太。


 2本の毛を生やす次男ぴよ郎。


 3本の毛を生やす三男ぴよ助の順だ。


 冬が深まり、寒くなってきたせいなのかいつもに増して体を寄せ合い。


 その前には、あたたかいパンプキンスープの入った大きなマグカップが置かれている。


「寒くなってきたぺよねー」


 カスタードクリーム色のモコモコぽんちょを着たぴよ太が言う。


 このぽんちょは体の小さなひよこたちが体調を崩さない為に、保護者である麻里が用意したもの。


 そして瞬間に誰の物かわかるように、後ろには彼らの姿を模した小さなアップリケが付けられており。


 そのアップリケはひよこたちのもう1人の保護者、健二が夜なべをして作ったものだ。


「ぺよね〜! そういえば知っているぺよか?」


 ぴよ太の右隣にいるぴよ郎が言う。


「ん? どうしたぺよ?」


「最近のゆるキャラ事情のぺよ」


 ぴよ郎が気になっていたのは、昨今のゆるキャラたちについて。


 突拍子もないかに思えるのだが、そうではない。


 前々から気になっていたことなのである。


「ゆるキャラって……ゆるいキャラクターっていうことぺよね? その事情がどうしたぺよ?」


「もしかするとぺよ……ぴよちゃんたちはゆるキャラと名乗っていいのかも知れないということぺよ!」


 ショート動画にテレビ、インターネットにSNS。

 その全てに喋る猫みたいなキャラクターや、元気なうさぎのようなキャラ、そして白くて可愛いキャラ。

 他にも、子犬のようなキャラに食べ物を模したキャラ。


 多岐に渡るゆるキャラというカテゴリー。

 これを目にしたことで、もしかしたら、自分たちもゆるキャラとして有名になれるかも知れない。


 そうすれば自分たちでお金を稼ぐこともでき、健二や麻里が家に居る時間が増えるかも知れない。


 要領のいいぴよ郎はそんなことを考えるようになっていたのだ。


「ぺよ? ぴよちゃんたちがゆるキャラぺよか? うーん……ぺよー……」


 ぴよ太はオレンジ色の嘴を尖らせ首を傾げる。

 

 ぴよ太の考えでは、そもそも自分たちはキャラクターではなく、キャベツの妖精。

 それにもし仮にゆるキャラと世間から認められたとして。


 今の生活は守られるのだろうか。

 健二や麻里に迷惑を掛けずに済むのだろうか。

 優しいぴよ太の頭は、そんな事でいっぱいになっていたのである。

 上2匹の会話が気になり始めたのか、パンプキンスープに夢中だった甘えた三男坊ぴよ助が、間に割って入った。


「なんのお話しているぺよ?」

 

 小さく動くオレンジ色の嘴にほんの少しだけ、パンプキンスープが付いている。


 それに気付いたぴよ太がつかさず、リビングテーブルにあったティッシュを取り拭いてあげた。


「ぴよ助、スープ付いているぺよよ!」


「ぺよー! 拭いてくれてありがとうぺよ」


 ぴよ助は嘴が綺麗になったことでちょこんと出した手をバタつかせ喜ぶ。


「それでぺよ。一体、なんのお話をしてたペよ?」


「うーんとぺよ……」


 ぴよ太は瞼を閉じ真剣に考える。


「うーん……」


 だが、なかなかいい例え話が出てこない。


 そんな中、ぴよ郎がちょこんと出した手を挙げた。


「ぴよちゃんが説明してあげるぺよ!」


 待っていました。と言わんばかりの嬉しそうで大きな声。


 ぴよ郎は知っていることを誰かに話したり、教えたりすることが大好きというのも、もちろんだが。

 

 目の前でつぶらな瞳を輝かせているぴよ助に、ちょっぴり良いところを見せたかったのだ。


「わーい! お願いするぺよー!」


 ぴよ助は仲間外れでなくなったことがよっぽど嬉しいのか、その場でぴょんぴょん跳ねている。


「ぴよ郎、ありがとぺよ!」


 ぴよ太がペコリとお辞儀をすると、ぴよ郎はほっぺたを桃色に染めた。


「ぺよ、気にしないでぺよ! こういうのは適材適所ぺよ!」


 涙もろく優しいぴよ太、甘えたで天真爛漫なぴよ助。

 2匹に囲まれているせいで、少し冷めたように見えるかも知れないが。


 そういうことはなく、ただ恥ずかしがり屋な面を持ち合わせているだけ。


 なので、こういったストレートなお礼には弱く、頬をいちご色や桃色、などに染めてしまうのだ。


「ぺよぺよ! 早く教えてぺよー!」


「じゃあ、説明するぺよね! えーっとぺよ――」


 ぴよ郎は、ポンチョを引っ張るぴよ助から促されるように説明し始めた。

 

 


 ☆☆☆




 ぴよ助の抱えていたマグカップ。

 

 その底が見え始めていた頃。


 エアコンのあたたかい風が当たりやすいひよこたちの特等席にて。


 説明してほしいとせがんだ三男のぴよ助だけではなく、長男ぴよ太も、そのなかなかに手の込んだ次男ぴよ郎の話に夢中となっていた。


「―ーということぺよ!」


 満足のいく説明を終えたぴよ郎は、なんだか清々しい表情。


 まるで冬の真っ青な雲1つない空のようだ。


「ぺよ! タブレットでの説明、ものすごくわかりやすかったぺよ! ぴよ郎って絵も上手ぺよね!」


「ほんとぺよねー! 今度はぴよちゃんたちの絵も描いてほしいぺよ!」


 そう、2匹が夢中になった理由はぴよ郎の後ろ、黒ゴマ色のソファーに立て掛けられていたタブレット。

 そこに表示されたイラストが大きな要因となっていた。

 今やゆるキャラの話よりも、ぴよ郎の描いたイラストに釘付けである。


「えへへーぺよ! こうした方がわかりやすいと思って描いてみたぺよ! ぺよ! ぴよちゃんでよければ描いてもいいぺよよ!」


 ぴよ太、ぴよ助の言葉にそう返すが。


 1つのことを教えてたら、次々と疑問が湧き、自分でも何に疑問を持っていたのか、わからなくなってしまうぴよ助の為に考えた兄心。

 そして、たまには兄ぴよ太に褒めて欲しい弟心。

 

 無意識に色んな想いを詰め込んだ、説明だったのである。


 なので、話題が逸れようとしていても、珍しく修正しようともしない。


 そんな器用なのに不器用な弟の気持ちを感じ取ったようで、ぴよ太が近づき、頭を優しく撫でた。


「ぺよぺよ」


「ぺよ?! いきなりどうしたぺよ?」


 なぜ撫でられたのかわからないぴよ郎は、頭の毛2本をピンとさせて落ち着かない様子だ。

 その場でひょこひょこしている。


「ううんぺよ。特に何もないぺよよ。けど、なんだか撫でたくなっちゃただけぺよ」


「ぺ、ぺよー……」


 ぴよ太の真っ直ぐな言葉に、ぴよ郎は頬を桃色に染める。


 自分でもわからない。


 けれど、胸の辺りがぽかぽかしてあたたかい気持ちになっていた。

 

「じゃあ、ぴよちゃんもなでなでしてあげるぺよ!」


 そんな上2匹を目の当たりにした、三男ぴよ助もてくてくと近づき、頭を撫でた。


 まずは、未だに頬を桃色にしているぴよ郎。


「よしよしぺよ」


「ぺよー……なんだか恥ずかしいぺよー……」


 そして、その右隣にいるぴよ太も。


「ぴよ太も、よしよしぺよ!」


「ぺ、ぺよ?」


 ぴよ太は思わず首を傾げるが、瞬時に理解した。


 このなでなでには、特に意味がないことに。

 いや、別の意味があることに。


 ぴよ太に遅れること数秒。


 頬を染めていたぴよ郎もぴよ助の気持ちを悟った。


 2匹が目を合わし、ぴよ助の方に視線をやる。


 すると、ぴよ助は頭をこちらに向けていた。


 そう、自分の頭を撫でて欲しくて、上2匹の頭を撫でたのである。


 なんとも天真爛漫で甘えたなぴよ助らしい行動。


 ぴよ太、ぴよ郎の2匹はその姿に思わず、笑ってしまいそうになるが。


 お互いの嘴を抑えることで何とか凌いだ。


「危なかったぺよね……」


 ぴよ太が小声で呟く。


 それにぴよ郎も小声で応じた。


「ぺよ……危なかったぺよ」


 しかし、再び2匹がぴよ助の方に視線を向けると頭の毛3本を揺らし、まだか、まだかと撫でられることを待っていた。


「「ぺ、ぺよーーーーー!」」


 その姿にオレンジ色の嘴をカチカチと鳴らし、ぴょこんと出た小さな手をバタつかせる。


 いや、バタつかせてしまったのである。



 ☆☆☆



 この夜、リビングで頬を膨らませそっぽを向くひよこと、プリンを差し出しご機嫌取りをする、ひよこ2匹が見られましたとさ。


 ぺよぺよ。

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キャベツの妖精、ぴよこ3兄弟🐥🐤🐣 〜自宅警備員の日々〜 ほしのしずく @hosinosizuku0723

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