第10話 月見団子🌕🐇
大阪に住まいを構える山田家。
今日も、ここで摩訶不思議生物であるキャベツの妖精たちは、ひよこ生を謳歌していた。
だが、いつもの黒ゴマ色のソファーではなく、とうもろこし色のモフモフふわふわボディーをゆらゆらと揺らしながら、リビングで緑茶を啜りながらのんびりしている。
ちなみに座っている位置はいつもと同じで。
右から頭に1本の毛を生やす長男のぴよ太。
2本の毛を生やす次男ぴよ郎。
3本の毛を生やす三男ぴよ助の順だ。
「そういえば、今日は中秋の名月っていう日らしいぺよ」
リビングデーブルに置かれた月見団子をぱくぱくと頬張りながら、言うのは優しき長男のぴよ太。
ぴよ太が食べているのは、山田家ご用達の和菓子屋、つぶらなあんこ屋という老舗の逸品だ。
「ちゅーしゅー……ぺよか……何だかチャーシューみたいぺよね! お空にチャーシューが浮かんでいるぺよか?」
欲張ってフォークに3つ刺し、涎を垂らしているのは、甘えた三男坊のぴよ助。3つ全部食べてから刺すわけではなく、1つ食べては刺すを繰り返している。
「そんなわけないぺよ……お空にチャーシューが浮くならぴよちゃんたちも飛べるはずぺよ!」
1つ1つを食べられるサイズにカットしてから、噛み喉を詰まらせないように味わって食べるのは器用な次男ぴよ郎。入れたお茶の温度もふわふわのお尻を当てて確認してから飲んでいる。
「月の神様にお供えするとか何とかだったはずぺよ。ぺよぺよ、冷めてきていい温度ぺよね……ズズッ。これが大人ぺよ」
いつものように3匹の間には、ゆったりとした空気が流れていた。
だが――。
「ちょっと待ってぺよ……ぴよちゃん、気付いてしまったぺよ」
ぴよ太は欠けた月のようになった月見団子を持ちながら、固まる。
そう、気付いてしまったのだ。
現在の時刻に。
「今って何時ぺよ!?」
「ぺよ! 12時ぺよ!」
ぴよ太の問い掛けにぴよ助が答える。
その言葉を聞いた瞬間。
ぴよ太は、その場でうずくまり魂が抜けたような灰色ひよこになった。
「終わったぺよ……ぴよちゃん達、やってしまったぺよ」
「ぺよ? 何が終わったぺよ?」
言葉の意味がわからないぴよ郎は、小さくカットした月見団子を食べながら言う。
「ぺよ……ちょっと思い出して欲しいぺよ。月見団子って漢字はどう書くぺよ?」
「お月様を見る団子って書くぺよね!」
ぴよ助の言葉を耳にしたことで、ぴよ郎も何が終わったのか理解した。
「わかったぺよ……本当ぺよね……意味をわかっていたはずなのにぺよ。ぴよちゃんとしたことが、なんで気付かなかったぺよかね……」
「ぴよ太とぴよ郎だけ、わかってずるいぺよ! ぴよちゃんも知りたいぺよ!」
ぴよ助は1匹だけ、何が終わったのかわからなかった。
それがとても仲間はずれのようで寂しくなったり腹が立ったりし、頬をシュークリームのように膨らませる。
本当はいち早くこの問題を解決したい長男ぴよ太であったが、目の前で拗ねているぴよ助を放っておけるわけもなく、温かいお茶をすすりながら話し始めた。
「ぺよ……ぴよ助にもわかるように言うぺよ」
「お願いぺよ!」
「お月見っていうのは、お月様が出ている時に、お月様にいる神様へのお供え物ぺよ。それはわかるぺよか?」
「ぺよ! それは知っているぺよ! 今朝、ママさんとパパさんに言われたぺよからね」
「ぺよぺよ、それなら話が早いぺよ。じゃあ、なんで今月見団子食べているぺよか?」
「ぺ、ぺよ!」
ぴよ太の問い掛けにようやく、ぴよ助も理解した。
自分達がやってしまったことを。
これが信仰心のない人間なら、そこまでショックを受けることはなかっただろう。
だが、彼らはキャベツの妖精。
自身のことをひよこだと言い張るが、妖精なのだ。
なので、この件に関してはママさんとパパさんとの約束を破ったことより、神様へのお供え物という事実がぴよこたち、ぴよちゃんずに重くのしかかっていた。
「ぺよー! これじゃお日様見ぺよー! お月様に居る神様が怒っちゃうぺよー! どうしたらいいぺよかー!」
状況を把握したことで、ぴよ助は全身の毛をモフモフふわふわから、ボフボフさせてソファーの上を駆け回る。
「今回ばかりは、いい案が浮かばないぺよ……」
いつもならいい案を出すぴよ郎も頭にある2本の毛を倒し、しょんぼりしてしまう。
そんな1匹を見た事で残りの2匹も落ち込んでしまう。
嫌な空気が流れ始めたその時――。
辺りが暗くなり、窓から月明りが差してきた。
同時に地震が起きる。
日中だというのに、急に暗くなるなんてあり得ない。
地震だって何のアラームもならなかった。
3匹は、経験したことのない現象にとうもろこし色の体を寄せ合い震える。
「「「こ、こわいぺよー! ママさーん、パパさーん早く帰ってきてぺよー!」」」
ひよこたちは叫びながら、そのあまりの怖さに目をギュッと瞑る。
すると、辺りが急に明るくなった。
「ぺ、ぺよ! 収まったぺよか?」
「ぺよ、まだ油断しない方がいいぺよ……余震とかあるぺよよ」
「ぺよー…もう怖いの嫌ぺよー!」
3匹が怯えながらも周囲を確認する。
「こんにちは!」
「こんにちはー!」
彼らの目の前には、杵を持ったウサギと臼を持ったウサギが立っていた。
その毛並みは、つきたてのお餅のように白く目はイチゴジャムように色鮮やかだ。
「初めまして、ぴよ太と言いますぺよ。って誰ぺよ?」
ぴよ太は反射的に挨拶を交わしたが、ウサギ2羽を目にしたことで固まり、 ぴよ郎は冷静にツッコんだ。
「ぺよ、ウサギぺよね……」
「なんでウサギさんがいるぺよか? もしかして地震が起きたらウサギさんがお家に来るぺよか? ぺよ……でも、いつもは来ないぺよね……わかんないぺよ」
ぴよ助に至っては、なぜウサギがここに来たのかで頭がいっぱいになっていた。
「これはこれは、ご丁寧にありがとうございます。ぴよ太さん、杵を持っている私がウサミンで」
「臼を持っている僕がウサウサです!」
「お二方も初めまして」
杵を持っているウサギ、ウサミンが挨拶をすると、臼を持っているウサギも軽く会釈した。
「初めまして」
状況が見えないひよこたちをよそのに、ウサギたちは何やら準備を始めた。
「美味しい団子を作るぞー!」
「おー!」
臼を持っていたウサウサが声をあげ、臼をフローリングの上で抑え、杵を持っていたウサミンが正面に立ち構える。
すると、何もなかったはずの臼に光り輝く餅が現れた。
それを一生懸命にウサギたちがつく。
「ヨイショ、ヨイショ」
「コラセ、コラセ」
ひよこたちが呆気に取られている間に、お餅つきは終わり、それを2羽のウサギが手際よく丸めていく。
「出来ました。月ウサギ特製月見団子です! こちらをどうぞ!」
「わーい! 月見団子ぺよー!」
ぴよ助は差し出された月見団子を頬張る。
「ぺよ! 知らない人からもらった物をすぐ食べちゃいけないぺよ! せめてちゃんとお礼を言わないといけないぺよよ」
「ぺよ……お礼言うの忘れてたぺよー……ごめんなさいぺよ」
「ちゃんとお礼言えて偉いぺよね」
「えへへ、ぺよぺよ……」
ぴよ太に頭を撫でられたことで、ぴよ助は嬉しそうに嘴を鳴らす。
「ぺ、ぺよ! それよりもこのウサギさんは何ぺよ? どうやって入ったぺよ? 二人とももっと危機感を持った方がいいぺよ!」
全くもって、ぴよ郎の言う通りである。
いくら世間知らずな自宅警備員であっても、知らない相手に対してもう少し危機感を持たないとだめだ。
だめなのだが――。
「ぺよー! この月見団子美味しいぺよー! もちゅもちゅのうまうまぺよー!」
そんなことなんて、微塵も頭にないぴよ助が美味しそうにぱくぱくと差し出された月見団子食べている。
それどころか、しっかり者のぴよ太までもが食べていた。
「確かにうまうまぺよねー! ウサウサさん、ウサミンさんありがとうございますぺよ!」
「いいえ、私たちはこの為にこちらへお邪魔したのですから、気にしないで下さい」
ウサミンの言葉を聞いたことで、ぴよ郎の中で食欲という本能と、疑う理性がひしめき合う。
この為に、来たのであれば食べない方が失礼にあたるのではないかと。
その結果。
「ぺよぺよー! 美味しいぺよねー!」
結局、ぴよ郎も食べた。
我慢していた分、軽快なテンポで嘴の中に入れては咀嚼するを繰り返す。
「幸せな時間ぺよー!」
3匹が幸せなそうな顔をするとウサギたちは、優しく微笑み食べるのを見守った。
☆☆☆
「美味しかったぺよねー」
「ありがとぺよ!」
「いいえぺよ!」
ぴよ太はぴよ助の口元に付いた食べかすを取りながら言い、ぴよ郎は全員分の淹れ直したお茶を皆の前に置いていく。
「美味しかったぺよ、でも、ちょっと食べ過ぎてしまったぺよね」
「ぴよ郎の言う通りぺよね。少しお掃除してお腹を空かすぺよか」
上の2匹がお腹を空かす為に、掃除の話をしていると、ぴよ助が声を響かせた。
「ぺよ! ウサミンもウサウサもいないぺよ! どこにいったぺよ?」
その声に反応し、周囲を見渡す。
だが、そこにはさっきまでいたウサギたちの姿はなく、その代わりに食べたはずのお供え用の月見団子がぽつんと置かれていた。
怖がった方がいいのか、それとも無くなったはずの月見団子が戻ってきて喜んでいいのか、よくわからない感情が3匹の中で共有される。
とはいえ、今は満腹。そんなことよりも睡魔の方が強烈で、考えるうちにコクンコクンと頭を揺らし眠りについた。
☆☆☆
この夜、3匹はママさんとパパさんに頼んで、2階の窓辺で月見団子を備えた。
すると、それにお礼をするかのように、月の模様がうさぎの形となり動きましたとさ。
ぺよぺよ。
キャベツの妖精、ぴよこ3兄弟🐥🐤🐣 〜自宅警備員の日々〜 ほしのしずく @hosinosizuku0723
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