第9話 好きって違うからいい🌟 ̖́-

 大阪に住まいを構える山田家。


 今日もここで摩訶不思議生物であるキャベツの妖精たちは、ひよこ生を謳歌していた。


 リビングの窓際、日当たりのいい場所。


 彼らはそこにある黒ゴマ色ソファーの上で、とうもろこし色のモフモフふわふわボディーを寄せ合い座っている。


 今日はいつもの順番ではなく、右から頭に3本の毛を生やす三男のぴよ助、1本の毛を生やす長男ぴよ太、2本の毛を生やす次男ぴよ郎の順だ。


 3匹はリビングのテレビをモニター替わりにして、パパさんから勧められたとあるアニメを見ていた。


 そのアニメは、ひよこたちと同じ妖精が題材になったアニメ。


『わしゃら様は今日ものーてんき』である。


 子供向けに作られていて、登場人物はそこまで多くはなく、内容もとてもシンプル。


 都会で過ごしていたある家族が父親の転勤をきっかけに片田舎町へと引っ越すことになり、ただのんびりと過ごすといったもので。


 毛むくじゃらでバスくらいの大きさをした妖精が出てくる物語だ。


 そこにヒューマンドラマっぽいテイストも入っていたりする。


「あの大きな口を開けるもふもふしたおっきいやつがぴよちゃんたちと同じ妖精ぺよか?」


 不満そうな顔をしぴょこん出した手で指しているのは、甘えた三男坊ぴよ助。

 自分たちと同じ妖精だと言われていたので、楽しみにしていた。

 だが、実際に映像を見ると全く可愛くなかったのだ。


 ぴよ助の基準では。


「ぺよ……パパさんが言うには、有名な作家さんがデザインしたキャラクターとか言ってたぺよよ? だから、可愛いはずぺよ」


 右隣でちょこんと座っていたぴよ太は首を傾げ、1本の毛を揺らす。


 真面目なぴよ太の頭には、自分の価値観より、世の中がいいということ、大好きなパパさんの「コワ可愛い」と言う姿が浮かんだ。


 その左隣には、小さく刻んだポップコーンが入ったマスカット色のグルメカップ抱えているぴよ郎がいた。


「ぺよ……か」


 2匹の話していることが興味深いのか、ポリポリと音を立てながらも、2本の毛を揺らし耳を澄ましている。


「パパさんが言うには、あれがコワ可愛いっていうらしいぺよ。可愛いはずぺよ? あの鋭い歯ともふもふな感じとかぺよ」


 ぴよ太が自分の考えに疑問を抱きながらも嘴を開く。

 


 ――その瞬間。

 


 ――グォォォオオ。



 テレビに毛を逆立らせ、月に向かって叫ぶわしゃら様が映し出された。


「や、やばい鳴き声ぺよ……ぴよちゃんはちょっと苦手ぺよ……あのおっきなお口に食べられちゃったら……いっかんのおわりぺよ。ぺ、ぺよー! 想像しただけでガクブルぺよー!」


 ぴよ助は、2本の毛をピンと立てホバリング状態になるほど震えている。


「だ、大丈夫ぺよ! あ、あれがコワ可愛いってことぺよ」


 大きな鳴き声、月明かりに照らされた鋭い牙。

 そのあまりにも自分達が考えていた妖精とかけ離れた存在に、隣にいたぴよ太の毛も逆立ち少し震えていた。


 一通り、2匹の話を聞いたぴよ郎はポップコーンを抱えながら立ち上がった。


「ぴよ太、それはちょっと盲目的過ぎるぺよ。本当はどう思っているぺよ?」


「ぺ、ぺよ!? 本当のことぺよか……というか盲目的なんて難しい言葉、よく知っているぺよ! ぴよ郎は物知りさんぺよ!」


「ぺよぺよ……ま、まぁそれほどでもないぺよ……って、違うぺよ! ぴよ太の本当の気持ちを知りたいぺよ」

 

「ぺよ……本当のことぺよか? うーん……ぺよ。ぴよちゃんはわしゃら様より、真面目で一途なりょうたくんが好きぺよ」


 りょうたくんとは、このアニメのヒロインみつきちゃんに一目惚れした、純朴な少年である。


 朝、妹まいちゃんと手を繋ぎ歩く、みつきちゃんに会う為だけに、同世代の誰よりも早起きし。


 家業である農家の手伝いを済ませ、徒歩で20分も掛かるバス停付近で待ち。


 たくさん話かと思えば嫌われたくないから、「おはよう……ち、遅刻するなよ」という一言に留め、駆け足で学校へと走る。


 ぴよ太は、この純粋なりょうたくんに心を打たれていたのだ。


「ぺよぺよ。それが普通ぺよ。皆好きな物がそれぞれあって、それぞれに興味を持つ。その方が色んな文化が発達するぺよ!」


「文化ぺよか!? ぴよ郎はスケールが違うぺよな……でも、言う通りかもしれないぺよね。ぴよちゃんが「パパさんが言うから」なんて言っちゃったら、それを聞いたパパさんが落ち込みそうぺよ」


「それはそうぺよ、パパさんはぴよちゃんたちが楽しんでくれると思ったから、このアニメを教えてくれたぺよからね」


「ぺよ……」


「ぴよちゃんは、みんなが美味しそうに食べているとうもろこしがだーいすきぺよ!」


 ぴよ助は手をめいっぱいに広げ、オレンジ色の嘴くちばしをカチカチ鳴らすと、真剣な表情で会話をする兄2匹とは違い、自由に自分の感じたままを口にする。


 ぴよ助の言う通り、この作品のテーマはスローライフということもあり、採れたての野菜を川で冷やしたり、炭火で焼いた物を塩や醤油などのシンプルな調味料を用いて食すシーンが多い。


 自然と触れ合う環境で過ごす者にとっては、そこまでの感動がないかも知れないが。


 都会暮らしのぴよ助にとっては、とても魅力的に見えたのである。


「ぺよ……ぴよ郎。こういうことぺよか?」


「なんかちょっと違うような気もするぺよ……けど、大まかにはそんな感じぺよね」


「うーん、そんな感じぺよか……ぴよ助みたいに難しいかもぺよ! けど、ぴよちゃんの好きを言うくらいならできそうぺよ」


「ぺよぺよ。それでおっけーぺよ! 自分の好き言うはとても大事なことぺよからね」


「ぺよぺよ。なんか、今日はぴよ郎が大人に見えるぺよ。ぴよちゃん、とてもとても嬉しいぺよ」


「ぺ、ぺよ! そんな大したこと言っていないペよ。普通ぺよ」


 兄であるぴよ太に褒められたことが、嬉しいようで嘴をカチカチと鳴らし、頭の毛をピーンと立てている。


 そんなやり取りを目の当たりにしていた、ぴよ助は自分も褒めてもらいたいようで、ぴよ助はほっぺたを風船のように膨らませ、ソファーの上で跳びはねていた。


「ぴよちゃんも褒めてぺよー! 大人になったぺよよー!」


「「ふふっ、ぺよぺよ」」


 上2匹はその姿に思わず笑みがこぼれる。


 そこから、3匹は心の赴くままに「ぺよぺよ」と鳴き声を響かせながら、アニメ観賞を楽しんだ。

 

 


 ☆☆☆




 みつきちゃんが、りょうたくんの想いに気付き、妹のまいちゃんと共に登校するシーンで締め括られ、ちょうどエンドロールが流れ始めた頃。


 ぴよ太はふと気になった。


 自分の好きな登場人物は伝えたし、ぴよ助の好きなものを口にしていた。


 だが、自分らしさを出すことの大切さに気付かせてくれたぴよ郎が本人、いや本ぴよこが何も語っていなかったことを。


「そういえばぺよ……ぴよ郎に聞きたいことがあるぺよ」


「改まってどうしたぺよ?」


 話を切り出したぴよ太に対して、尋ねられることに身に覚えがないようで、エンドロールに映し出されたキャストやスタッフの名前を目で追っている。


 ちなみに、ぴよ郎が先程まで持っていたマスカット色のグルメカップは、ソファーにもたれ掛かり鼻提灯の膨らませているぴよ助の腕の中だ。


「ぴよ郎の好きな登場人物とか、聞いていなかったぺよ……だから、気になったぺよ。そのなんというかぺよ……自分達の話だけしちゃってごめんぺよ」


「ぺよ! そんなこと全然気にしなくていいぺよ! ぴよちゃんは、この作品のエンドロールに興味があったぺよから」


 そう、ぴよ郎は作品を見て楽しむのだけではなく、終わってからのエンドロールを見て「あのアニメで声をあてて人と一緒だー」とか「制作に脚本家が〜」などと予測したり考えるのが好きなのだ。


 その答えを聞いて、ぴよ郎らしいなと思うぴよ太であった。

 



 ☆☆☆




 この夜、山田家のリビングで『わしゃら様は今日ものーてんき』の主題歌。「進む道はぽっかぽっか♪」を口ずさむひよこたちの姿がありましたとさ。


 ぺよぺよ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る