取り調べは甘かった

悪本不真面目(アクモトフマジメ)

第1話

 俺は無実の罪で今ここ取り調べ室にいる。ひったくりとのことだが、俺は本当にしていない。ただ過去に万引きとかそういうので警察に厄介になったからこうなっているみたいだ。俺はやってないと言ってただ黙っていた。沈黙を決め込もうと思った。有罪と決まるのも、すぐに無罪だと決まるのも今の俺にとっては都合が悪い。今俺は腹が減っている。俺は正直今ここにいる理由はかつ丼を無料で食べるためにいる。久しくかつ丼は食べていない。口の中はあのカツのジューシーさと卵のふわふわと甘いタレでよだれが止まらない状態だ。そろそろ、時間的にもお昼だ。多分一時三十分ぐらいだろう。俺の体内時計は正確だ。大体昼はこの時間でメシを食べる。刑事も腹が減るころだろう。そろそろだ。待っていろよカツ丼。


「ったくダンマリ決めやがって、お、もうこんな時間か、仕方がねぇ。」

恰幅の良いベテランっぽい刑事が頭をポリポリしている。これはかつ丼注文フラグじゃないか、じゅるり。

「腹減ったろ、ケーキでも食べるか?」

それ来た、カツ・・・・・・ケーキだと!?ケーキ!?

「え、ケーキ!?」

俺の沈黙を破ったのはかつ丼じゃなくケーキだった。予定と違う。かつ丼はどうしたというのだ。

刑事は部屋を出て、すぐに戻って来た。どこかのおいしいケーキ屋さんのメニューを渡された。うわーこの熊さんのチョコのケーキ可愛くておいしそう。ってかつ丼はどうしたんだよ。ケーキは三時のおやつでしょう。今お昼だよね。いや本当は三時なのか?俺は確認することにした。

「あの、今時間って?」

「昼の一時三十分過ぎぐらいかな。」

当たっていた、俺の体内時計の正確なことうえ。ここの警察署ではこの時間ケーキですか?頭使うからなのか?でもケーキってかつ丼の後じゃないのかせめて。予定とは違うが、とりあえず注文してみようか。

「あ、ちなみに俺のオススメはこの熊さんのチョコケーキだ。可愛いくて食べるのがもったいないくらいだ。」

なんか女友達とかでよく聞いたことある台詞を俺は今この恰幅のいいしゃがれた声で聞くことになるとは人生とは分からないものだな。しかし、やっぱりあの熊さんのチョコケーキは人気なのだな。


「じゃあ、その熊さんのチョコケーキを———」

「いくつ?」

「え?」

「一個じゃ足らないだろ、昼飯なんだから。」

「ケーキが昼飯?」

この刑事はケーキを昼飯として食べるのか、かつ丼の腹の俺を満たすにはどれだけケーキを食べればいいのだろうか。そもそもケーキは別腹と言うし、かつ丼を補うことは出来るのだろうか。どうしよう、苺のショートケーキ、モンブランもいいぞ、このブルーベリーのチーズケーキも美味しそうだ。いける、ケーキで昼飯俺いけそうだ。

「じゃあ、苺のショートケーキにモンブランにブルーベリーのチーズケーキを追加でお願いします。」

俺は今までここまでケーキをこんなにも注文したことはなかった。しかし刑事は俺を子バカにした表情で見る。

「男ならもっと食べないと。」

古い考えだ。男とか女とか今は関係ない。いや、古い考えなのか?あまり男でもっとケーキを食べろとか、というか、ケーキをもっと食べろって今まで生きて来て言われたことがないような。ある意味最先端なのか?分からない。だが、何か腹が立ったのでおれは合計ニ十個ケーキを注文した。


「おい、届いたぞ。」

ずらーっと狭い取り調べ室の机になんとも色鮮やかで可愛いケーキが並べられた。俺はさっそく熊のチョコケーキを食べようとフォークで割ろうとすると、刑事が少し悲しそうな表情をする。それでも俺はこの熊さんにとどめをさす。

「あ~。」

刑事がそう言った。なんだか俺は本当に何かの罪を犯した気分になった。パクパクとケーキを食べていくと、刑事は向いに座ってじっと俺の食べてる様子を見ている。なんだかドキドキしてしまう。俺は刑事がケーキを食べたがっているのかもしれないと思い聞いてみた。

「食べます?」

「じゃあ、そのブルーベリーチーズケーキを。」

迷いもなくそう答えた。俺は刑事の分にブルーベリーチーズケーキをフォークで割る。小さく一口サイズに、刑事の口は大きいから少し大きめにした。そして刑事を見ると刑事を口を大きく開けていた。

「あーん。」

な、なんと俺が食べさせるのか、いや、なんで。なんで、俺は少しドキドキしているのか分からない。ただ、俺もこの刑事にそうしてみたくはなった。刑事の顔を見るのは恥ずかしかったのでそっぽを向きながら体を伸ばし刑事の口の中に入れた。

「うんうまい。」


 俺はなんとか全部食べた、元々かつ丼の予定だがたまにはケーキも悪くはない。とは言え、かなり腹がいっぱいだ。もう何も食べられない。時間がもう三時ぐらいな気がする。随分と食べてたんだな。すると刑事がこういいだした。

「お、三時か、おやつにケーキ食べるか?」

さすがに俺は沈黙してられず、叫んだ。

「ケーキさん、本当に俺はやってないんです!!」


 俺は前食べたケーキ屋さんに来ていた。そこには、ラフな格好をしたおじさんがいた。あの刑事だった。なんだか俺は少し嬉しかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

取り調べは甘かった 悪本不真面目(アクモトフマジメ) @saikindou0615

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ