エピローグ

 魔植物の実をみんなが食べられようになったなら、どんなにいいだろうと私は幼い頃から思っていた。

 それは私の父二人がどちらも魔植物を育てている人であり、魔力耐性のあった私は昔からおやつとして魔植物の実をふんだんに食べられる生活を送っていたからだ。

 こんなに美味しいものがみんなに行き渡らないなんて、世界ってなんで不公平なんだろうと思ったのをよく覚えている。

 それがきっかけで私は少しずつ改良を重ね、最近ではだいぶ魔力を抜いてなおかつ美味しい魔植物の実の飲み物が作れるようになったのだ。

「ラキナ、シヴェル。さあ、飲んで」

 そう言いながら私はグラスを二人の前にドンと置いた。

 昔からうちの魔植物の実を好んで食べていた二人は私の作ったものの試飲にぴったりだ。

「俺たちでいいの? もっとプロの人に飲んでもらいなよ。コリンさんたちとか」

「だって、父さんもパパも私に甘すぎるのよ。美味しい美味しいって。もっとアドバイスが欲しいのに」

「あー、コリンさんもテリーさんも、味にとやかく言わない方だしな」

 魔植物を育てるために生まれてきたような人たちなのだ、あの人たちは。魔力耐性持ち、魔力持ち、と生まれたこともあるだろうが。

 私は昔、あの人たちが自分を引き取って育てると決めたことが不思議だった。私は二人のことが大好きだけど、私がいたら好きなことができる時間が少なくなるんじゃないの。私が魔力耐性持ちで、魔狼群の支部の前に捨てられてたから可哀想で引き取ったんじゃないの。

 そんなことを思っていた。似たようなことを言ったら自分たちが不甲斐ないから寂しい思いをさせているとわんわん泣かれて、そういう意味じゃなかったのにとすごく驚いたものだ。

 人って時々、ああこの人だってびびっとくることがあるらしい。それは恋ばかりじゃなくてって、子どももそうで、私はあの人たちの間でびびっときたらしい。

 ユーリさんとルカさんもそうだったのかな。ていうか、あの部屋にいるばっかりでなかなか外に出なかった子たちが今では優秀に護衛やってるんだから、人生ってわかんないな。

「シェリーさん、僕、これ好き。おいしい」

「ほんと? よかった」

「……ちょっと甘すぎる。酸っぱいのがほしい」

 ラキナはそう言うと思った、と笑って応えながらメモをしておく。シヴェルは甘ければ甘いほど美味しいと言うので、正直ラキナの意見を採用することが多い。

 私の考えを知ってか知らずか、シヴェルはうっとりと目を細めている。

「お菓子が欲しくなる味」

「お前はいつでもお菓子が欲しいだろ」

 ラキナがこれで十分甘いんだから、とシヴェルを窘めている。そして不意にこちらを見て軽く首を傾げた。

「ルルとトト、元気にしてる?」

 この間、うちで引き取ったばかりの子の名前があげられて、私は思わずにっこりしてしまう。

 ユーリさんたちとすぐに会える距離、魔力持ちでもそれに左右されない家族構成、食育、などという要素が絡まった結果、色々あってうちで引き取ることになったのだ。

「してるよ。いやー、私ずっときょうだいってのに憧れてたから、二人とも可愛くって、もう」

 この歳になって年下のきょうだいができるなんて思ってもいなかったので、とても嬉しかった。

 二人でずっとくっついている様子は少し昔のラキナとシヴェルを思い出させる。まあ、二人は昔だけじゃなくて今でもくっついてるんだけど。

「会って行く? 多分喜ぶよ」

 最初は緊張していたのか大人しかった二人なのだけど、最近では騒いだりわがままを言ったり寂しがってみたりと、本当に可愛らしいのだ。

 行く行く、と二人は仕事服のまま立ち上がった。

「しばらく帰って来れないかもだから、会って行くよ。奥にいるの?」

「うん。二人はまた遠出の仕事?」

 そうそうと頷く顔には昔のように面倒で仕方ないというだけの雰囲気はなくて、楽しんでいるなら結構なことだと私も笑った。

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魔狼群の護衛 蒼キるり @ruri-aoki

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