終章 異次元エネルギーが反応する時

「貴様、今までの原因物質をこの中に入れていたのか!?」

 平賀は異次元カプセルをビシッと指す。


「そうだ、何が悪い?」

 憧君は平賀の目前に立って腕を組む。


「これで、異次元は元の平和な生活が訪れるわけ。悪いことをしたのは、お前たちじゃないの?」

 私はきっぱりと言い切る。


「ちなみに、異次元カプセルの中に入っている原因物質は、取り出し不可能だ」

 政は1次元カプセルに目をやる。


「それは何故だ?」藤岡は青い目を政に向け、栞菜は「取り出すと、異次元が同じアクシデントに遭ってしまうかもしれないからね」と4、5次元カプセル付近をうろうろする。


「……今までの苦労が……」

 黒沢はうつむいて落ち込む。


「台無しにしてやる!」

 私は黒沢の続きの言葉を勝手に当てはめた。


 私は3次元カプセルにプリズムライトを入れようとしたところ、平賀が手を出すなどの妨害をしたせいで、プリズムライトが入り口付近に飛んでしまった。


 政と藤岡はそこに駆けつけて、プリズムライトを同時に掴んで引っ張り合いをしている。


 私たちも覚醒ギャラクシー・プリズムも政と藤岡のそばに集まって、プリズムライトを取り合っている。


 ところが、手に入れては取られての繰り返しをしている。



 22時、食事もしていないためお腹が空いてきたけど、今はそんなことを気にしている場合じゃない。


 一瞬、プリズムライトが私の手にやって来た時、すぐに3次元カプセルに向かって走る。


 覚醒ギャラクシー・プリズムは予想通り妨害してくるが、私は覚醒ギャラクシー・プリズムを巨大コンピューターに向かって右足に力を込め、力強く正面蹴りをした。


 彼らは、巨大コンピューターのある所辺りに蹴り飛ばされ、そこでひるんでいる。


 今度こそ!と思った私は、プリズムライトを3次元カプセルの中に入れた!


 すると、9つの異次元エネルギーが見たことのないくらい激しい光を放った。


 眞鍋博士を含む9人の目の前には金色の大きな懐中時計の分針と時針が反時計回りに回っている。


 その時、私が中3だった時からのエピソードが流れ始めた。



 ――今から2年前――


 私は唯一の天敵がいた。その名は平井 彰、藤崎 鈷都音、高市 柚記、黒川 玲衣の4人だった。

 この頃の私は自分で言うのもあれだけど、私の成績は8や9が多かった。その上、私は力が強い。


 しかし、私には最大な欠点があった。それは口喧嘩が弱いこと。だから向こうは、私をしょっちゅう辛かっていた。


 例えば……


「なあ、俺らにお前の勉強法を教えろや!」

 テストが帰ってくるたびに平井たちがよく言っていた。


 私は当然ながら自分の勉強法なんて教えたくないし、命令形で言われたから、そいつらには“勉強”というものを人一倍に教えたくもない。


 だから、私は

「何で私の勉強法を教えないといけないの?教えてもらう側がそんな言い方をするのはどうかと思うねんけど」

 と常に睨みつけていた。


「だから何なんよ!あたしだって賢くなりたいわ!素直に教えろって言っているやろ!」

 帰ってくる言葉は藤崎がかたくなにそう言い返すのみ。


 私の成績が良いから……ただ、その理由だけで羨ましがられていた。でも、何故か黒川だけは私に文句を言わなかった。


 正直言って私が勉強を教えると周りが賢くなって、私は馬鹿になる。だから自分の勉強法を教えたくなかった。


 そして、いよいよ合格発表の時、私の受験番号が見つかった。168番が。


 その時、私が通っていたベーカル中学校で出願した生徒たちの大半が滑っていた。だが、あいつらにとっては運良く、私にとっては運悪く、私の天敵4人組の受験番号が載っていた。


 悲惨なことに、私はあいつらと6年間のお付き合いとなることになってしまった……



 ――2年前の4月上旬――


 私は1年次の芸術選択で音楽を選択した。希望通り私は音楽選択になって1年5組になった。


 しかし、5組のメンバーを見るとあの4人とも同じクラスになってしまった。


 ああ、クラスが離れることを願っていたのに……と、私は絶望的な気持ちになった。


 1年5組がスタートした。私は、席の真後ろにいた杉本すぎもと 友梨ゆりと友達になり、さらに、友梨の左の席にいた小林こばやし 真依まい、そして真依の前にいた木原きはら 杏奈あんなの4人で固まっていた。


 私の席の近所に栞菜がいたが、あの4人と御一緒していた。



 高校に入っても恐れていたのは、あいつらが辛かってくるかどうかだ。


 結果としては中学生の時と同じで、テスト返しの時にチョッカイを出してきたときは毎回あったが、友梨たちが

「勉強法くらい、自分で考えたら!?小学生じゃあるまいし」

 と私をガードしてくれた、本当に良い子たちだった。



 秋頃、2年次の文理、科目選択では友梨は私と同じ理系の生物、真依は理系の物理、杏奈も同じく理系の物理を選択した。


 このときは

「みんな理系だし、来年も同じクラスになろうな!」

「うん!」

 と言い合えるくらい私たちが固まっていた4人はそれぐらい絆が深かった。


 

 ――今年度の4月――


 私は2年になった。ラッキーなことに天敵4人組とはクラスが離れた。でも、友梨、真依、杏奈、私の4人は全員クラスがバラバラに離れ、非常に残念なクラス替えとなった。

 

 8組がスタートして私の席の近所には去年は全く喋らなかった栞菜が座っていた。


 私は勇気を持って話しかけたら、辛かうのかと思っていたがそれは違って感じの良い子だったから、私と仲良くなれた。



 ここで、そのエピソードを見ていた9人は、気づけば元の時間に戻っていた。

 そう、“今”の世界に戻ってきた。



 その時、覚醒ギャラクシー・プリズムのいる所に異次元エネルギーの力で天井から大量の水が降ってきた。

 眩しい光が止んだ後、目を開けるとさっきまで覚醒ギャラクシー・プリズムがいた所には、以前に見たことのある人がびしょ濡れの状態で足を崩した状態で座っていた。

 眞鍋博士を含んだ私たちは、あまりに驚きすぎて何も言えずに入り口付近で突っ立っていた。


 先に怒りを示した顔つきをしたのは、栞菜だった。


「……みんな、ウチを裏切ったのね!?」

 彼女は巨大コンピューター付近にいる4人に怒鳴りつける。


 誰かと思ったら、中学からの天敵である平井 彰、藤崎 鈷都音、高市 柚記、黒川 玲衣が固まって座っていたのだ。


 つまり、平賀 璋と平井 彰、藤岡 鈴と藤崎 鈷都音、高梨 利紀と高市 柚記、黒沢 澪那と黒川 玲衣は同一人物・・・・だった。


「まさか、お前らがこんな悪さをするとは思わんかった」

 私は低い声で平井たちを睨みつける。


「僕のクラスメイトがこんなことに手を出すとか……」

 政の両手は微妙に震えている。


「何でこんな馬鹿なことをしたの?」

 栞菜の怒りは収まらない。


「オレらは中学のときから異次元と言うものを支配したいと言う願いがあった。しかし、その願いが叶ったのはほんの一瞬に過ぎなかった。それは、君たちに異次元を制覇され、さらには3次元まで元に戻ってしまった」

 平井は当時思っていたことを言う。


「ウチが高校入る前からそう思っていたわけ?じゃあ、最初から水莱たちと楽しく過ごせば良かった。もうお前たちとは絶交・・する」

 栞菜は相手が癇に障る言い方をしたが、彼らは何も抵抗しない。


「中学の時から私を絡んできた罰だな」

 私は平井に顔をグイッと近づける。


「そうかもしれないね。我々“覚醒ギャラクシー・プリズム”は解体する時が来たようだな」

 藤崎はほんのり笑顔を見せた。


「じゃあ、異次元を制覇しようと言ったのは誰?」政は聞くと「オレだ。藤崎たちも興味を持ってくれたから“ギャラクシー・プリズム”を結成した」と平井はさっきまではめていた赤色のカラコンを外す。


 それに釣られて黒川たちもカラコンを外す。ヘアカラーは既に黒に戻っていた。


「髪の毛を染めてたんじゃなかったん?」

 憧君は落ち着いて尋ねる。


「あれはヘアカラーチョークで染色していた。かなり手間はかかったけど、学校があるたびにシャンプーで黒に戻した」

 高市は黄色で染色していた部分をいじる。


「でも、年が明けてから学校に来なくなったのは?」

 私は廊下で聞いた噂を思い出す。


「3次元を制覇するのに必死だった。だから、やむを得ず欠席するしか方法が無かった。でも、今になって後悔している。あれだけ休んだから、もう退学だよ」

 藤崎は少し残念そうな顔をする。


「退学……そんな……」

 栞菜は目を丸くした。


「もう3年になると言うのに……」

 私は少し困った顔をする。いくら天敵とは言え、退学者を知ると何となく寂しく感じるのだ。


 数秒の間、静かになった。その後、藤崎は

「今、栞菜と杉浦が仲良くしている理由は?」

 と聞く。去年は全く喋らなかったのにと思っている。


「私と偶然席が近かったのよ、2年になって。そこで去年同じクラスだったしと思って話しかけたら、本当に良い子だったことがわかった、アンタらと違って。だから、今日もこのように“友人”という関係でいられるわけ」

 私はそう答えた。



 23時、平井たちは赤褐色で高さ2メートル、幅1メートルほどの楕円形をした謎の空間を出した。


「オレらは3次元や異次元を占領しようとしたという大罪を犯した。だから、もうこの地球にはいられない」

 平井は赤褐色の空間に吸い込まれる準備をする。


「待って、どこ行くの?」

 栞菜は引きとめようとする。


MAYANマーヤンよ、第2の地球かもしれない惑星。うぐいすが行く予定だったところ。あたしたちはその星を侵略する」

 藤崎はMAYANマーヤンの写真を見せる。地面が赤色で大気とちょっとした小川があり、見たことの無い生物がチラリといる。


「……なら、始めからそこを侵略すれば良かったのに……」政は呆然とした目つきで高市らに顔を向けると彼は「そうやな……」とうつむいた。異次元を侵略したことを後悔しているのだろう。


「めっちゃ残念だけど、今日でお前らと永遠の別れだ」

 平井は悲しそうな顔で私たちに背を向ける。


 4人が全員背を向いて空間に吸い込まれようとするところを……


「……待って!玲衣……玲衣だけはダメ!」

 私は涙目になって叫ぶ。


 黒川たちは後ろを向く。


「何でアタイだけ引き止めるの?」

 冷静な声で聞く黒川。


「だって……だって…………私の従姉妹だもん!」

 私は不意に涙を流してしまった。


「もしかして、昔、アタイのお父さんが『みらいと同い年なんだよ』と言ってた。そのみらいが……あなただったの?」

「そうよ。私の母の兄の娘が玲衣なのよ!」

「そんな……知らんかった。だって……アタイが5歳の時に、父さんが転勤で会えなくなったから全く話を聞けなかった。あれから、全然顔を見てないの」

「確かに伯父と全く会っていないなと思ったら……なら、今まで本当に寂しかったんだね。私と玲衣は従姉妹なのはわかったし……ほら、玲衣はここに残ろう!」

 私は右手を出して黒川の手を掴もうとする。


 黒川は黙って自ら私に抱きついて号泣した。私はそっと優しく彼女の背中に手を当てた。


「そんな過去があったんだね」

 温かく見守っていた平井や栞菜たちも自然と涙を流した。


「今までごめんね。中学の時から話しかけてくれていたのはわかってたけど、まさか従姉妹だったとは……」

 私は黙って何も返事できずにいた。


「でも、アタイは大罪を犯したから、地球には残れないの」

「もう2度と会えないんだね」

 私は一瞬泣き止みかけたが、再び涙を流してしまった。


「でも、アタイ、水莱のことは忘れない」黒川は私の体から離れると私は「うん、私も絶対忘れない」と目からこぼれる涙を袖で拭った。

 


「それじゃあ、オレらは地球を去る時が来た。高校も退学するから、もうここに帰ってくることは無いけど、元気でな!」

 平井、藤崎、高市そして黒川は永遠の別れを告げ、MAYANマーヤンという惑星に旅立ち、謎の赤褐色の空間はゆっくりと姿を消した。


「あそこに行っても、楽しく過ごしてたら良いんだけどね」

 私は元々あった空間に近寄って呟いた。



 その出来事は、2月3日23時56分のことだった。

 これをもって、私たちは全ての次元を制覇した。



「やっと終わったあー!」

 憧君は喜びでいっぱいだ。


「でも、今日まで一緒にいたレーダーと博士とは、もうお別れ?」

 栞菜は涙が溢れそうになる。


「そんなことは無いよ。レーダーは今後もいろいろお世話になることだってあるし、僕はミステリー高校の化学の教員だから、ここを去ることは無い」

 眞鍋博士は微笑んだ。


「それなら、一緒に頑張った甲斐がありますね」私は目を輝かせると憧君は「あーっ、杉浦は博士のことが好きだったりして」とニヤニヤした。


「そんなわけあるか?!飽くまでも先生と生徒の関係だぞ」

 私は憧君の肩を軽く叩いた。


 異次元研究室内は笑いに包まれた。


「ま、また何かあれば、異次元研究室に来てくれたら」

「はい!」

 私たちは元気いっぱいに返事をした。


「レーダー、これからもずっとよろしくな!」

 政はポケットに入れていたビーズ・ネオンを取り出す。


「ハイ、コレカラモ、ヨロシクデス!」



 それから、学年末考査も終わり、楽しみにしていた春休みが訪れた。



 そして、出会いの4月8日。この日は高校生活最後のクラス発表の日だ。さて、今年は何組なのだろうか?


 ざっとクラス発表のリストを見た私は、中学からの天敵だった平井たちの名前が書かれていなかったことに気づいた。彼らの言ったとおり退学したのだ。あれだけ休んだし、悪いことをしたのだから。


 それから、真剣な目つきで私の名前を探していたところ……


「水莱!良かった!あたしたちと同じクラスだよ!」

 その声を聞いた私は振り向いた。一昨年の友人の杏奈が嬉しそうに右手を激しく振る。彼女の後ろには真依、友梨が明るい顔で頷いていた。


「マジで!?」

 私は半分嬉しい感じで自分の名前を探すと、ようやく見つかった。縦のリストには、去年の友人の栞菜、異次元制覇で一緒に活躍した政、憧君がいた。しかも、一昨年の友人の名前も載っていた!


 私は……3年6組になった。


 そして、私は6組の教室に入ると、本当に真依たちがいた。


「あー、良かった!4人で集まるの久々じゃない?」

 友梨が言う。


「ホンマやなあ!マジで嬉しい!」

 私は目を輝かせて大興奮。


 すると、私の背中から気配を感じた。


「なんだ、栞菜か」

 私は後ろを向く。


「えーっ、2年前、平井や藤崎と言ったヤツと一緒にいてたよね?」真依は目を細めるが、私は「そうかも知らんけど、あんなヤツとは違って良い子だよ。しかも、私の去年の友人だし3年間ずっと同じクラスやねんやで」と味方にしてくれた真依を説得させる。


「水莱が言うなら、間違いないね」杏奈は真依の顔を見て「うん、そうだね」と彼女は笑顔を見せた。


「そんな失礼なことを言わんとってーな」

 栞菜は真依の背中を叩いた。


「ゴメンゴメン」

 真依は苦笑いした。



 それから、SHRショートホームルームの本鈴が鳴った。この時に担任の先生が教室に入ってくる。


 担任は誰だろう……と私たちは緊張感でいっぱいだ。クラス発表には担任の先生の名は明記されていなかったからだ。


 ガラガラッと教室のドアが開いた音が耳に入る。


 カーテンから顔を出したのは……


「あーっ、博士だー!……」

 私と栞菜、政、憧君は一斉に席を立ち、声をそろえて叫んだあと、周りからの目線を浴びてはっと口を押さえてしまった。


 それは、眞鍋 千喜先生だった。


「あのさあ、何で博士って呼んだん?」

 左斜め前に座っている真依は顔だけ振り向けて尋ねる。


「えっ、だってさ、白衣着ているから思わず“博士”って呼んじゃっただけだよー」

 私は上手いことごまかした。


 本当は……異次元を救うため、丁度1年前に手を組んだ時から「博士」と呼んでいたから、そのクセが残っているだけ。


 でも、そのことは6組の中では、たった5人しか知らない。だから今年のクラスメイトは大爆笑し、私たちも笑いに釣られて大きな声で笑ってしまった。


 2年の時は、異次元を制覇するのに必死だったけど、3年になって、去年の青空とは違って見えるくらい平和な感じがした。異次元も正常で、きっと普段通りの生活をしているだろう。今年は色々と大変な時期だけど受験の励ましには最高だと思った。

 

 この年は高校3年間の中で1番楽しい年になりそうだ!



 ――THE END――

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DIMENSIONS・ENERGY 河松星香 @Seika-Kawamatsu

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