第10章 ギャラクシー・プリズムの逆襲

 上空には、誰もが恐れている“ブラックホール”が浮かんでいたのだ。


「そんなの、アリかよ……」

 憧君はただ建物を吸収していくブラックホールを見つめていた。


「地球にブラックホールが接近するだなんて有り得ない話だ」

 私はまた謎が増えたなとため息をつく。


「学校はここから東側にあるから、正反対で良かったけど……」

 政は西側の上空を睨みつける。


「ウチらが地球の上空を調べようとするのを阻害するかのように現れたね。でも、今から調べたって危険なだけだし、今日は中にこもっといた方が良いと思うなあ」

 栞菜はログハウスの中に入る。


 それもそうだなと思った私たちもログハウスの中に入った。


 しかし、何故か夜空に存在する夜間銀河ナイト・ギャラクシーはブラックホールに吸い込まれていない。距離的に問題があるのか?



 2月3日17時、夕日が沈みかかっている時に異次元研究室に寄った。


「博士、ここ、3日の晩の様子が何かおかしい気がしませんでしたか?」

 私は異次元カプセルをズラリと眺める。せっかく異次元を制覇したのに何も良いことが起こらないのかとがっかりした。


「確かにな。普通はブラックホールが現れたら隕石を吸い込む気がするんだけどね」

「それが、夜間銀河ナイト・ギャラクシーは吸収しなかったのですよ。変だと思いません?」

 栞菜は両手を広げて何も知らないと言うポーズをとる。


 憧君は異次元カプセルをよく観察すると3次元カプセルに含まれる青色のチモールブルーが増加していることに気づく。


「博士、3次元エネルギーが増加しているのですが、あれは……」

 彼は慌てて言ったので、続きの言葉が出なくなった。


 眞鍋博士は中央にある3次元カプセルに駆け足で近づく。


 眞鍋博士は目を丸くして3次元カプセルのアクリル板に両手をつけて、

「大変だ!」

 と叫んだ。


 何事だと思った私たちは博士の近くに駆けつける。


「これは……“マイナスエネルギー”だ!」

 眞鍋博士はショックな表情をする。


 今までマイナスエネルギーと言う言葉は一切耳にしたことが無かったのにな……と私は眉をひそめながらそう思った。


 つまり、異次元を制覇する前の状況よりも最悪の状態であることを3次元カプセル内の青いチモールブルーが指しているのだ。


「もしかして、異次元は制覇したけど、3次元は制覇していないと言うことですか?」

 栞菜は急増していく青色のチモールブルーのメニスカスを目で追いかける。


 眞鍋博士は震えながら頷く。


「と言うことは、まさか……3次元にも“原因物質”があるのですか?」

 政は3次元カプセルから恐る恐る距離をとる。


「……残念ながら……そう言うことだ……」

 眞鍋博士は話すのに精一杯だ。


「そんな……」

 私はうつむく。


「そういう訳だ。危険だけど、我々3次元を救ってくれないか?」

 眞鍋博士はショックから立ち直ろうとして声を上げる。


「了解!」

 私たちは最後の敬礼した。



 私たちはビーズ・ネオンが用意した宇宙服に着替えてスペースシャトルに乗る。


「懐かしいな、スペースシャトルに乗るの」

 憧君は椅子に座る。


 私たちは宇宙の旅に出かけた。



 18時、政が真剣に運転している間に大気圏を抜けて宇宙空間に突入した。

 私たちはスペースシャトルから降りた後、ビーズ・ネオンにそれを預けた。


 私は地球を背景に先へ進むと、何かにぶつかったのを気づく。 

 疑問に思った私は顔を上げると……夜間銀河ナイト・ギャラクシーだった。


 一瞬それかなと思ったけど、答えはそうではなかった。


 私はもう一度それに触ってみた。隕石のようなゴツゴツした感覚ではなくツルツルしている。と言うより夜間銀河ナイト・ギャラクシーに触られない!


 訳がわからなくなった私は栞菜を手で合図して呼ぶ。


 栞菜は私が触った所に触ると

「これは本物の銀河ではない!スクリーンだ!」

 と大声で叫ぶ。


「今、何て言った?スクリーンだって?」

 私は不思議に思って栞菜と顔を合わせる。


「そうよ。どう考えても、これ以上奥には進むことが出来ないわ」

「じゃあ、地球の反対側はどうなんだ?」

 話を聞いた憧君は地球の反対側に行く。


 憧君も私と同じようなことをするが、やはり手は奥に進まない。


「何だ、コイツは?」

 憧君は透明のガラスのようなものに向かって尋ねる。


 政は憧君に近寄ってこれは、プリズムだ!と言った。


「どんなヤツだ?」

 憧君は聞き返す。


「プリズムを光にかざすと、虹のようなものが出来るのさ」



 私たち4人は1度集合をして、わかったことを話し合うことにした。


「地球の反対側はどうだった?」

 私は憧君と目を合わせる。


「透明のプリズムだった」

 憧君は答える。


「ははあ、コイツが虹のようなものを作り出すんだな」

 私はこっくり頷く。


「そっちは?」

 政は質問を投げかける。


「スクリーンだった。スクリーンを使って銀河を映していたわけ」

 栞菜は腕を組む。


「何もかも偽物だったのか……」

 憧君はふぅーっと息を吐いた。



 話し合いが終わって、夜間銀河ナイト・ギャラクシーを映しているスクリーンに顔を向けると、声が耳の鼓膜を震わせる。


「久しぶりだなあ、杉浦たち」

 ギャラクシー・プリズムのボス、平賀が真っ赤な目をこちらに向ける。


 その上、平賀の両耳に円周15センチで、しかも太さ5ミリのメタリックレッドのリング型のピアスをしていた。

 藤岡は青の目にそれと同じサイズのメタリックブルーのピアスを両耳に1つずつしている。

 高梨は黄色い目に加え、両耳に同じサイズのメタリックイエローのピアスをしている。

 黒沢は緑の目と同じサイズのメタリックグリーンのピアスを両耳にしている。


 まとめると、ギャラクシー・プリズムは皆、同じ種類のカラーコンタクトとメタリックカラーのピアスをしていることになる。


 私たちはその姿を見て、あまりにも変化が大きかったので何の言葉も出来ずに、ただその場でビビっているだけだった。


「お前らは、確かギャラクシー・プリズム……だったよな?」


 憧君は声を震わせながら聞く。


「違う!あたしたちはギャラクシー・プリズムではない。“覚醒・・ギャラクシー・プリズム”だ!」

 藤岡は“覚醒ギャラクシー・プリズム”を強調して答える。


「ひと月経っただけでこんな姿に変化するとは……」

 栞菜はビクビクする。


「そうだ、これはお前らに対する“怒り”を示しているんだよ!」

 高梨は目をギュッと細める。


「怒り?何なんだよ!?怒りって?」

 私は拳を握り締めて睨み返す。


「アンタたちに異次元を制覇された“怒り”よ!」

 黒沢は胸まである髪の毛を背中に寄せてメタリックグリーンのピアスを見せびらかす。


「だから、今度はあたしたちが仕返す時なのよ」

 藤岡はスクリーンの向こう側にある巨大プロジェクターに近づく。


「つまり、これこそが我らの逆襲・・・・・だ!」

 平賀は力強い声で言った。


「逆襲だと……」

 私はその言葉を信じることが出来なかった。


「そうだ、逆襲・・だ!」

 高梨も強気だ。


「私たちにだって随分逆襲・・してきたやん!」

 私はしかめっ面をする。


「それは、アタイたちが異次元を制覇されるのを防いでいただけ。だから、あれは逆襲じゃない。むしろ、お前らが逆襲・・していたのよ!」

 黒沢は私を指す。


「別に異次元を襲いかかろうとした訳じゃない、それは異次元を助けようとしていただけ」

 栞菜は冷静に言った。


「何ふざけたこと言ってんの?」

 藤岡は栞菜を睨みつける。


「それは、今までお前らが間違ったことをしてきたんちゃうん?」

 憧君は目を限界まで細める。


 覚醒ギャラクシー・プリズムは返事出来なかった。



 19時半、少し状況が落ち着いて、私は覚醒ギャラクシー・プリズムにあることを聞く。


「何故昼間虹ライト・レインボー夜間銀河ナイト・ギャラクシーが現れたの?」

 本当は調べて答えがわかったけど、敢えて聞いてみた。


「君たちに異次元を制覇されてしまったから、仕方なしに3次元を支配しようとした。あと少し昼間虹ライト・レインボー夜間銀河ナイト・ギャラクシーを出し続けていたら、地球人は完全に我々覚醒ギャラクシー・プリズムの言いなりになっていた。ところが、その作戦は上手いこといかなかった。それは、君たちが原因とそれらの正体を見破られたからね」

 藤岡は目を閉じて本来の目的を言った。


「……それで私たちを完璧に惑わせてようとしたのか……」

 私は少し残念な表情を浮かべた。


「でも、どうやってウチらを惑わせたの?」

 栞菜は最近の様子を振り返る。


「毎日、昼間虹ライト・レインボー夜間銀河ナイト・ギャラクシーが現れてたら、何故毎日見れるかがわからなくなるだろ。それは、オレらは物理的に反したことをしたのだ。そうすれば、挙句の果てに我々の言いなりになるのだ」

 平賀は腕を組む。


「プリズムやスクリーンで地球全体を覆ったのは誰?」

 政は新たな質問を投げる。


「アタイの魔法よ。夜間銀河ナイト・ギャラクシーはスクリーンの裏側にプロジェクターをセットして宇宙を映していたの。プリズムは太陽の光で虹を作っていたの。それにプラスしてみんなの普段の生活を狂わせたの、この魔法で」

 黒沢は魔法をかけるような仕草をした。


「それで虹を見すぎて目を痛めた人が増えたり、授業中にボーッとする人、それに昼夜逆転生活を送る人も増加したのか。プラスαで変に温暖だったのもアイツのせいだったと言うことか」

 私はクールな目つきをする。


「そうだ。もしお前らがこの原因を突き止めていなければ、完全に我々の言いなりになっていたんだぞ!」

 高梨は悔しそうな言い方をする。


「嫌だね!貴様らの支配下にされるなんて意味不明だぞ!」

 憧君はビシッと高梨を指す。


 政は憧君の肩を叩いて落ち着かせる。


「でも、私たちを惑わせるなら、他に方法があったんじゃない?」

 私は腕組みをする。


「お前の言う通りだ。今から1年前、本当は10個くらい案があった。でも、彗星を呼び寄せるなど残った8個の案はオレらにふさわしくないから却下した結果、昼間虹ライト・レインボー夜間銀河ナイト・ギャラクシーを地球上に現せて、お前らを惑わせようとした。その2つにした理由は、我々“覚醒ギャラクシー・プリズム”と言う名にふさわしかったからだ」

 平賀は私の黒褐色の目と彼の赤い目を合わせる。


「それで、お前らの当初のチーム名は“ギャラクシー・プリズム”になったってこと?」

 政は首を傾ける。


「そう。その2つの案が出たことから“ギャラクシー・プリズム”になったの」

 黒沢は私たちに近寄る。


「チーム名は、万が一異次元を制覇されたときのために、1年前に出た“昼間虹ライト・レインボー夜間銀河ナイト・ギャラクシー”と言う案が出たことから由来していたのか」

 今まで全く気にしていなかったが、やっとギャラクシー・プリズムの由来が判明した。


「当たり」

 藤岡は軽く頷き、一言で済ました。


「だからそんな名前になったのか」

 栞菜は目を大きく開けた。


「そう言うわけで、我々覚醒ギャラクシー・プリズムは完敗だ……」

 平賀は初めて私たちに笑顔を見せた。


 私たちはその笑顔に驚いて黙り込んでしまった。


 覚醒ギャラクシー・プリズムの背景にあるスクリーンとプリズムが彼らの負けを認めた瞬間、自然と不規則に破壊して飛び散った。

 そしてその破片は私たちの目の前で1つになり、3次元の人々を散々悩ませた原因物質となった。


「コレハ“プリズムライト”デスネ。スクリーンハ、プリズムヲカイリョウシタモノニナリマス」

 私のビーズ・ネオンは原因物質を分析する。


 私は透明で少しトゲトゲしたウニ型のプリズムライトを手に取った。


 この時には、既に覚醒ギャラクシー・プリズムの姿は無かった。


「あとは、3次元カプセルに入れるだけだね」

 栞菜は安心した声で言う。



 21時、私たちは異次元研究室に帰ってきた。


「お疲れ様。最後の原因物質を3次元カプセルに入れて」

 眞鍋博士はホッとした顔で言う。


「はい」

 私も安心した顔で3次元カプセルに入れようとしたところ……


「待て、プリズムライトを簡単に入れさせる訳にはいかない」

 姿を現したのは平賀だった。


「何なんだよ!?“完敗”と言ったところじゃないか?」

 私の手はピクリと動きを止める。


「あれは作戦。貴様らは完全に作戦にはまったな。よし、藤岡たち、やれ!」

 平賀は凍りついている私たちを指す。


「何する気!?」

 私はこの状況を理解出来ずにいた。


 これは、覚醒ギャラクシー・プリズムからの第2の逆襲なのだ。


「また逆襲が始まったのか……」

 栞菜は深いため息をついた。

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