第9章 昼間虹(ライト・レインボー)と夜間銀河(ナイト・ギャラクシー)
12月31日、大晦日の13時ごろの話だ。
年末の大掃除をしている私はふと空を見上げると虹が見えていた。
「虹だ!しかも、副虹も見える!」
私は濡れ雑巾を床におく。
「うん。最近虹や銀河がよく見えるやんな」
私の3つ下の弟、
「しかも、真冬だと言うのに長袖1枚で過ごせるとか不思議だ」
私は独り言を言いながら床を拭き始めた。
18時57分、そろそろ年に1度のオーケストラコンクールが始まろうとしている時に、ちょっとしたニュースが始まった。
話題は、最近よく目にする虹と銀河についてだった。
アナウンサーは昼間に出現する虹を“
「やっぱり、世界中でも
私は感心した。
「でも、雨が降っていなくても虹が見えるもんなんだね」
海人は不思議に思う。
19時、待ちに待ったオーケストラコンクールが始まった。
私は家族4人で仲良く年越しそばを食べている。
「やっぱり大晦日と言えば年越しそばだよね」
海人は美味しそうに食べる。
「毎年言ってるやん」
私は弟を突っ込む。
「だって、お母さんが作る年越しそばは最高だもん」
海人は天ぷらに塩をふりかける。
テレビでは、一流の交響曲団50組が出演して、2組目が演奏しているところだ。
「みんな、本当に上手いよね」
私の母はオーケストラに感心する。
「そりゃあ、一人前だから、優勝するのに必死なんだよ」
私はテレビをじーっと見つめる。
結局、優勝したのは34組目の交響曲団だった。
年が明けた1月9日、後期後半の集会が終わったあとのこと。
「水莱、最近
栞菜は私の耳元でささやく。
「うーん、年末ぐらいからずっとだもんね」
言われてみればと思った私は頭を悩ませる。
「雨が降っていなくても虹が見えるのは、何かの現象が起こっているに違いないよ」
栞菜は教室の窓から空の様子を見る。やはり虹が見えていた。
「難しいなあ……」
私はつまらなさそうに虹を見る。
放課後、朝からずっと不思議に思っている栞菜は私を連れて異次元研究室に向かった。
「博士、
栞菜は疑問を言う。
「それが、僕にもわからないんだよ」
「やっぱり、原因不明なんですね」
栞菜はうつむいてガラスで出来ている椅子に腰掛ける。
「……」
誰も返事できなかった。
「おいおい、何でお前らがここにいるんだ?」
入り口から入ってきたのは憧君だ。
「だってー……」
栞菜は続きの言葉が言えなくなった。
普段は虹なんてめったに見られないし銀河は地球上から見ることが出来るはずがない。
これらを地球上から毎日見ようと思っても物理的に無理だ。その上、妙に暖かい。
でも、これらの現象は謎のままだ。
「早くその謎を解明しないと」
入り口から政が入ってきた。
「話聞いていたの?」
私はそんなに大きな声で喋っていたっけ?と思った。
「そうじゃなくて、最近の空の様子がおかしいと思ってここに来たんだろ?」
政は口をゆがめる。
「でも、原因不明のまま。話は何も進んでいないの」
栞菜は机の上でうつ伏せになる。
「この謎を知っているのは誰なんだろうか?」
私は首をかしげながら部室に向かった。
ひょうと矢を放つ。普段の命中率はそれなりに良いのに、今日に限ってど真ん中に矢が突き刺さらない。
「やっぱり、私は考えすぎなのかな?」
私はボソッと呟いて次々に矢をつがえては放つの繰り返しをした。3月上旬の引退試合に向かって頑張らないと。
1月27日、移動教室に向かっている最中にある噂を耳にする。ここ2週間、
「聞いた、栞菜。そいつらが学校来ていないんだって」
「うん。このまま休んでたら留年になるよ」
「うーん、あいつらがいないだけで気持ちは楽だけど、何か心配だなあ」
私は視線を落とす。
平井
この学校の校則は訳も無く1ヶ月以上休むと留年になるのだ。買い食いや服装は自由なのに、31単位中5単位以上落とすと留年になるなど、学業に関してはかなり厳しいのだ。
「気持ちが楽?どういうこと?」
「だってさあ、私を絡んできたりするんだよ。去年だって結構辛かわれたし……」
「ああ、それだったら、いない方が楽な気持ちがわかるなあ」
いない方が気持ちがわかる……そんなことを言っておきながら本当はどう思っているのだろうか?と私は黙り込んでしまった。
そんなことを話している間に移動教室に着いてしまった。
2限目、私の大得意な生物の時間だ。
普段は笑うなりして授業中は楽しんでいるのに、どうも落ち着かない。集中できない。頭の中が真っ白になりそうだ。
私たち生物選択者は、単に板書をプリントに書き込むだけ書き込んで、そのあとはぼーっとして窓から見える
テンションが下がったまま、家に帰ってきた。
「最新のニュースでも見ようかな」
私はテレビの電源を入れる。
すると、興味深いニュースが流れた。
「たった今、日本で地球から500兆キロメートル離れた
「おお、マジか!?」私はたった1人、リビングで大興奮する。
宇宙探査機うぐいすは、機体が緑褐色であることから、そう名づけられたようだ。
「いやあ、頑張って欲しいなあ!」
私は目に見えないうぐいすにエールを送った。
「でも、何故うぐいすを飛ばしたのだろう?」
私は疑問に思って紺色のスカートのポケットからレーダーを取り出す。
「チキュウノヨウニ、タイキガアリ、ミズガアリマス。ホントウニセイブツガイキテイケルカドウカヲ、シラベルタメデス」
「なるほどね。つまり、
「ソウイウコトデス」
へぇと思った私は、リビングの窓から夜空を眺める。発射したばかりのうぐいすが光って地球から遠ざかるのが見え、
「うぐいすを飛ばすのは別にいいけど、
私はため息をつく。
「最近の夜景を見ていると、本当に落ち着かないなぁ」
私は頭の中が謎だらけになる。
1月30日、私は普段通り学校に通う。快晴の空に
「虹が毎日現れる理由もわからない」
私は独り言を言ってロッカーに向かった。
1限目、化学基礎だ。
授業自体は楽しいけど、最近は何かおかしい感じがする。
今日は硫酸銅水溶液と炭素棒を2つ、そしてデリケートな手回し発電機を使った実験があると言うのに、大半のクラスメイトが眠っている。
周りのみんなも
中には、教室の窓から
これは、事件と言っても良いのだろうか?と私はそう思いながらビーカーにおよそ100ミリリットルの青い硫酸銅水溶液を入れる。
私の席の隣にいる女子は小さめの発泡スチロールに炭素棒を両側にセットして輪ゴムで留める。
それから、輪ゴムで固定した炭素棒を手回し発電機についているリード線で繋ぎ、硫酸銅水溶液に入れる。
私は手回し発電機を持って時計回りにのんきに回すと、片方は銅が析出して、もう片方は大きめの気泡が発生していることに気づいた。
さらに、手回し発電機を逆に回すと、陽極と陰極が反対になるので、炭素棒に起こる変化が逆になって私たちは関心の声を出した。
陽極側には何の気体が発生したかを確認せよと先生からミッションを与えられたので、私は陽極側に鼻を近づけて手で仰ぎにおいを確認した結果、塩化銅水溶液を用いた実験に比べるとそこまでにおいは感じなかった。
(塩化銅を用いると、陽極に塩素が発生するため、鼻に刺激臭が突き刺さるのである。)
実験が終わったあと、先生は陽極から出た物質は水溶液に含まれる水が身代わりとなり、化学反応を起こして酸素が発生するんだとスライドショーで表した。
なるほどと私は思ったが、8割を越えるクラスメイトは実験室の机にうつ伏せになって寝ていた。
ここは大事だから話を聞いておけばいいのに、と私はぼやーんと辺りを見渡した。
放課後、私は栞菜と一緒に異次元研究室に向かった。
着いたときは、既に政と憧君がいた。
「最近クラスの様子がおかしいの。授業中に寝る人が多くなったの。夜に寝る人がだんだん減っているの」
栞菜は憧君の肩をがっしり触る。
「真夜中に遊ぶ人やメールをする人も多くなったよな。ブログの投稿でよく見るよ」
憧君は最近あったことを振り返る。
「何かあったら大変だから、4人で事件が解決するまで一緒に過ごさない?私のレーダーの中に4次元で作ったツリーハウスがあるのよ」
私は頭の中からひらめいた。
「そうか、そんなことあったなー。よし、そうしようか」
政は賛成した。
「早く解決出来たら良いよね」
眞鍋博士は巨大コンピューターをいじる。
「そうですね」
私は返事した。
18時、学校の近所に野原があるので、そこに4次元で作ったログハウスを設置した。
「懐かしいね」
栞菜はログハウスの中に入る。
憧君はレーダーのテレビ機能を使ってニュースを見る。
「……!」
憧君の目は大いなる驚きを示している。
私たちは様子が気になって憧君に近寄る。
「……えっ、探査機うぐいすが上空2万キロで破裂!?」
私は叫ぶ。
「今までにそんなことあった?」
政は憧君のレーダーの画面を睨みつけるように見る。
「無いなあ。どうやって壊れたんだろう?」
憧君は首をかしげる。
「やっぱりおかしいよ。捜査しよう」
私は私服に着替えてジャンバーを羽織った。
「そうだな」
政も外へ出る支度をする。
ところが、外へ出た瞬間……学校から反対の方角の上空には恐ろしい物体があった。
「何か……建物類が上空に浮かび上がっているのが見える……」
私は驚きすぎて大きな声で言えなかった。
これは、ログハウスから4キロ離れた地点で起こっていたのだ。
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