第8章 伝説の純金羽根(ゴールドウィング)

 12月16日の16時、修学旅行が終わってから1週間経った。


「博士、いよいよ最後になりますね」

 政は9次元カプセルを触る。


「そうやな。これを攻略したら異次元制覇になるよね」

 眞鍋博士は巨大コンピューターをいじっている。


 私たちは巨大コンピューターに集まった。


「今日の任務は9次元、天使の世界だ」

「天使……そんな次元があったとは……」

 憧君はきょとんとコンピューターを見る。


「9次元は、王様が政治を行っており、この“純金羽根ゴールドウィング”を持っている人に限り、政治を行うことが出来ると言い伝えられている」


「本当に綺麗な羽根ですね」

 私は純金羽根ゴールドウィングの画像に一目ぼれする。


「どうやってその羽根を見つけたんでしょうね?」


 栞菜は首をかしげる。


「それは紀元前1万年頃、当時のパトレーマ・ビーナ王が玉座に座っていた時に、純金の鳥が1枚の純金の羽根を落とした。それを受け取ったビーナ王は、次の王様に代わるときに受け継いでいこうと決意したのが始まり。そして、今までずっと丁寧に手入れしてきたんだって。」


「その羽根をビーナ王は純金羽根ゴールドウィングと名づけたんですね」

 私は真剣な顔をする。


「そう言うことやな。でも、その純金羽根ゴールドウィングが現在行方不明なんだ」

「何だってー!」

 憧君は驚く。


「それが無くては政治が出来ないから、純金羽根ゴールドウィングを取り返してきて!」

「了解!」

 私たちは敬礼した。


 私たちは9次元カプセルの前に立つ。メチルオレンジ溶液は極限まで減っている。

 眞鍋博士は橙のボタンを押し、私たちはオレンジ色の空間に吸い込まれた。



「天使の世界……本当にみんな天使の羽が生えているねんな」

 憧君はぼーっと景色を眺める。


「いかにも平和そうに見えるんだけどなぁ」

 私は腕を組む。


「ココノジゲンハ、テンシノハネガナイトタイホサレテシマイマス。イマスグニ、テンシノハネヲツケマショウ」

 政のビーズ・ネオンは4人分の天使の羽を用意した。


「ことわざで郷に入っては郷に従え、と言うからね」

 栞菜は真っ白の羽をセットした。


「しかも、本当に飛べるぜ!」

 羽を装着した憧君は実際に宙を舞う。



 17時、4人の天使に話しかけられた。


「あなたたち“天使の輪”がついていないよ」

「天使の輪?そんなものまでいるの?」

 政はきょとんとする。


「そうよ。黄金の天使の輪が必要不可欠になるのよ」

 茶髪の女子が言う。


「マジかよ」

 私は慌て始める。


「心配しないで。僕らが天使の輪を用意するから」

 とある男子が白のステッキで魔法をかける。


 私たちは頭の上に天使の輪がついた。


「何か、ウチらが死んじゃったように感じる」

 栞菜は天使の輪を触ろうとするが、すり抜けて触ることが出来ない。


「この黄金の天使の輪は“善”を意味するの。中には黒色の天使の輪をしている人もいる。その人は“悪"を示す。天使の輪は人によって色が微妙にことなるから、常に心を綺麗にしないと“ダークエンジェル"になるの」

 ストレートパーマーを当てた女の子が言う。


「つまり大きく2つにエンジェルとダークエンジェルに分けられるってこと?」

 私は清らかな青空を見る。


「うん、そう言うこと。でも、ダークエンジェルは人目に隠れて生活しているから見かけることは少ないけどな」

 ネイビー色の髪の毛の色の男子が言う。


「で、そのダークエンジェルが無くてはならない伝説の“純金羽根ゴールドウィング"を盗んでどこにあるかが分からないから、僕らは困っているんだ」

 最初に話しかけた男子が言う。


「そうか、それは困ったね。だから私たちは9次元に来たの」

 私はビーズ・ネオンの時計を見る。針は17時15分を指している。


「僕らは3次元から来た」

 政は結論を言う。


「それで天使の輪が無かったんだね」

 茶髪の女子が事情をやっと理解した。


 少し時間を置いてから、彼らは自己紹介をし始めた。


「後になったけど、わたしの名はキララ」

 茶髪の女子が言う。


「僕はネイビー」

 ネイビー色の髪の毛をしている男子。


「アタイはカノン」

 ストレートパーマーを当てている女子。


「おいらはソリマ」

 最初に話しかけた男子。



 17時半、私たちは9次元の家について伺う。


「そうやな。家は真っ白なコンクリートで出来ていて、四角の建物の後ろに必ずコンクリートで出来た天使の羽がついているんだぜ」

 ネイビーは9次元の家の写真を見せる。


「本当に真っ白で綺麗だね」

 栞菜はあまりの美しさに感動する。


「でも私たちは1泊しかしないのに、何かもったいない気がする」

 私は腕を組む。


「うーん、ここの次元は旅行する人が全くいないから、木に登って泊まるしかないんじゃない?」

 ソリマは向こう側に見える木を指す。


「何言ってんの?9次元を助けようとしている水莱たちにそんなことを言ってどうするんよ?」

 カノンはソリマの頭を叩く。


「本当は、ちゃんとしたホテルがあるのよ。ソリマが言ったのは嘘ではないけど、そんなの例外。1泊80ピット(約3000円)と言ったビジネスホテルがあるんよ。紹介するからついて来て」

 キララは私たちをビジネスホテルに連れて行く。



 私たちはホテルに着いた。たった3000円で泊まれるなんて安いもんだなと私は思う。しかも、外見が3次元のホテルより形が整っている。


「ありがとう、キララ」

 私たちはお礼を言ってホテルの中へと入っていった。



 フロントで受付を終わらせたあと、私たちは718番号室の鍵を受け取る。


 早速部屋の中に入ると、目前にある真っ白なテーブルの上には豪華な夕食が置かれている。

 夕食は、ローストチキンがドサッと4人分あり、水にさらした新鮮なレタス、それに本物の金色のご飯である。これで1泊3000円は有り得ないくらいだ。


「食べようか」

 食いしん坊の憧君は一番に席に着く。


「ローストチキンを見た瞬間、本当にクリスマスだなと思うね」

 栞菜は目を輝かせる。



「いただきまーす!」


 異次元制覇で最後のホテルで夕食を食べる。ギャラクシー・プリズムと闘わなくてもよくなると言う嬉しさと異次元で食事をすることが出来なくなると言う寂しさとのギャップが大きく感じる。


「異次元で最後の夕食はローストチキンって最高じゃない!?」

 政はそれをナイフとフォークで味わって食べる。


「そうやな。ちょっと寂しいけどな」

 私は苦笑いする。


「しかも、金米は人生初だからな」

 憧君は金米を一口で美味しそうに食べる。


「うん。3次元の食事より美味しいね」

 栞菜はローストチキンをレタスに巻いて食べる。


「9次元の人間って本当に良いよね」

 私は9次元の人を羨ましく思う。


「そうやな。それも運と言うものだね」

 政は引き続きローストチキンを食べる。


「ごちそうさま!」

 真っ先に食べ終わった憧君が手を合わせる。


「早くない?せっかくだから味わって食べたら良かったのに」

 栞菜は箸で金米を掴む。


「良いじゃないか」

 憧君は銀色のベッドで横になる。


「私たちは味わって食べよう」

「そうしようか」

 政は落ち着いてレタスを食べる。



 深夜2時、私の感覚神経が大脳にとある合図を送った。


「ああ、何か寒いなあ」

 そういう合図で私は起き上がった。この時間まではポカポカしていたのに、肌が急に冷たく感じたのだ。


「ここはどこ?」

 私は体を擦りながら辺りを歩く。


 私はハッとした。ここはホテルでないことに気づいた。目の前には銀色のベッドなんて無い。夕食があった白いテーブルすら無い。


 すると、光が私の目を突き刺す。

 こっそり覗くと、9次元の人々が求めている“純金羽根ゴールドウィング”が透明のケースに入っていた。


 私は栞菜たちを叩き起こして、謎の部屋の向こう側に行くように言った。



 向こう側には人の気配は感じなかった。けれども、嫌な雰囲気がする。

 謎の部屋に入ると、やっぱり誰もいなかった。


 チャンスだ!と思って純金羽根ゴールドウィングを取ろうとしたら……


「お前ら、何を取ろうとしている?」

 声がして後ろを振り返ると、ダークエンジェルがいた。でも、顔は見たことがある。

 それは、ギャラクシー・プリズムのボス、平賀 璋が言った言葉だ。


「そういうお前はどうやってそれを手に入れることが出来たんだ?」

 私は低い声で聞く。


「魔法だ。だから、君たちをここに呼び寄せたんだよ」

 黒沢は右手と左手の間に緑色の稲妻を出す。


「いつ使えるようになった?」

 憧君は黒沢を睨みつける。


「この機械よ」

 藤岡は球形で銀色の液体が入ったカプセルに目をやる。


「じゃあ、この機械を壊しちまえーっ!」

 憧君は球形のカプセルを破壊しようと体当たりしようとしたが……


「そうはさせまい」

 高梨は謎の部屋の壁にある青色のボタンを押す。


 天井から刑務所にあるような檻がガシャンと落ちてきて、私たちはそいつに閉じ込められた。

 私たちはここから何も出来なくなった。



 3時20分。


「いいか、よく聞け。オレらが異次元を支配できるのはここ、9次元しかない。だから、我々ギャラクシー・プリズムはお前らに勝たないといけない」

 平賀は檻の中に入っている私たちを真剣に見つめる。


「じゃあ、私たちに何の勝負をしろと言うんだ?私たちを閉じ込めて、貴様らが勝った扱いをするのは、こっちとしてはつまらないものだ」

 私は円周8センチの檻の柱を握る。


「そうか。決闘の内容は考えてはいるが、お前らがここから出たら始めようか」

 高梨はニヤニヤする。


「何だと!?私たちの体力を削ろうとしているのだね」

 私はさらに柱を強く握る。


「そうだ、杉浦。よくわかったね」

 藤岡は妙に嬉しそうな顔をする。


「最低だ!このままではいられない!」

 私は手汗をかく。


「じゃあ、君たちで何とかするんだな」

 黒沢はそう言って別の部屋に移った。


「……何なんだよ!ここから出ろとかどういうつもりなんだ?」

 私は少し落ち着いて考える。


「檻から出たら、決闘が始まるのか。なら、早目にここを脱出しないと」

 私は檻から出ようと、柱を左右に曲がらせるために腕に力を入れる。


 私の意見を聞いた政たちも檻から出るために左右に曲げようとする。



 夜が明けて8時、やっと檻から脱出できるくらい柱と柱の隙間が開いたが、私たちはクタクタだ。


「このままでは闘えないや……」

 私は疲れ果てた声で眠りについた。


 檻からの脱出を待っているギャラクシー・プリズムは待ちくたびれたせいか、鉄で出来たテーブルでうつ伏せになって眠っている。



 15時、私たちはようやく目を覚ました。


「こんな時間まで寝ていたとか」

 私はため息をつきながらビーズ・ネオンが用意した菓子パンを食べる。


「こんな遅い時間まで寝たことが無いよ」

 栞菜はバケットを噛み千切る。


「あいつらと戦うためには栄養を補給しないと」

 憧君は栄養ドリンクを飲む。


「起きても何も起こらないと言うことは、ギャラクシー・プリズムはずっと眠っているに違いないよ」

 政はカップラーメンのかまぼこを口に運ぶ。



 16時、ギャラクシー・プリズムは起きて私たちがいる部屋に入ってきた。


「はは、やっと出れたか。じゃあ、決闘を始めよう。今回の決闘は、液体の入った頑丈なカプセルをどちらが先に破壊できるか勝負しよう」

 髪の毛がボサボサの平賀が言う。


「わかった」

 私はレーダーから固体の水酸化ナトリウムが入った球形の頑丈なカプセルを用意してもらった。


「私たちはお前らの、お前らは自分らが用意したカプセルを壊す。それで良いやんな?」私は腕を組んで意見を聞くと「いいだろう」と平賀はニヤリと笑う。



 16時10分、異次元最後の決闘が始まった。


 何を使っても良いと言うことで、私たちはヤリやオノなどを使ってカプセルを傷つけるが、全く壊れる感じではない。


「どうせ、このカプセルは壊れる。黒沢、このカプセルを壊せ」

 平賀は命令する。


 黒沢は手から炎を出す魔法をかけるが、全然溶けない。


「何だって!」

 藤岡は焦りながら刀でカプセルを壊していく。


 その会話を聞いた栞菜は

「どうやら、魔法は通じなかったみたいね」

 と嬉しそうに言う。


「だろうね。まずは、こっちを壊さないと」

 私はヤリで本体に傷をつける。



 決闘が始まってから30分後、どちらのカプセルも壊れていない。


「ヤリで傷つけても無駄だ。絶対壊れないよ」

 私は床にヤリを叩き捨てる。


「じゃあ、どうするんだよ?」

 政もヤリを床に落とす。


「沸騰させるの。カプセルの中に入っているのはおそらく水銀。その沸点は約356℃。だから、発熱機械を使うの」

 私はレーダーからその機械を用意してもらう。


 私はその発熱機械のスイッチを入れて水銀が沸騰するのを待つ。


「沸騰したらカプセルが膨張して破裂するかもしれない」

 私はおとなしく液体が沸騰するのを待つ。


 それを見た藤岡も私たちの真似をした。


「おいおい、大丈夫なのかよ……」

 憧君は水銀の温度を調べながら聞く。340℃を指している。


「うん。固体の水酸化ナトリウムの融点は約318℃、沸点は約1388℃。そんなの絶対間に合わないよ」

 私は温度計が350℃を指したのを確認する。


 温度計が356℃を指した瞬間、私の予想通りカプセルが膨張し始めた。

 私たちは水銀の入ったカプセルのそばを離れる。


 そして……やっとカプセルが破裂した。



 17時半、水銀は床にボロボロこぼれる。

 私はダマになっている水銀を手に取ると、私の手の上に八角柱の物体に変化した。


「コイツガ、ゲンインブッシツノ‘シルバーダーク’デス」

 私のレーダーは胸ポケットから呟く。


「こいつを使って純金羽根ゴールドウィングを呼び寄せたのか」

 私はシルバーダークを睨む。


「負けた……異次元を制覇されてしまった……」

 平賀は落ち込む。


 ギャラクシー・プリズムは一斉に悔し涙を流す。


「勝負あったから、ここから出よう」

 私はギャラクシー・プリズムをほったらかして、ケースに入っている純金羽根ゴールドウィングを持って地上に出る。



 謎の部屋から出ると、カノンたちがいた。


「水莱たち、ありがとう!おかげで安心して生活できるよ!」キララは目を輝かせ、私は「それなら取り返した甲斐があったな」と純金羽根ゴールドウィングをキララに渡す。


「責任を持って王様に届けるよ」

 ソリマの顔から笑顔がこぼれる。


「それじゃあ、私たちは時間だから3次元に帰るね」

 私は手を振って別れを告げた。


 ネイビーたちも手を振り返した。



 18時、私たちは異次元研究室に戻った。


「お疲れ様、今回の原因物質のシルバーダークを9次元カプセルの中に入れて」

 眞鍋博士は私に言う。


「はい」

 私は9次元カプセルにそれを入れる。


 9次元カプセルはポカポカした空間を放出しながら9次元エネルギーはMAXになった。


「あー、異次元をついに制覇したぞ!」

 憧君は大喜び。


「もう、あいつらと闘わなくても良くなる!」

 私はバンザイする。


「それな!」

 政も大声を上げる。


「本当に疲れたよ」

 栞菜は安心感に満たされる。


「みんな、本当にありがとう!」

 眞鍋博士は笑顔を見せる。



 10分後、私たちは異次元研究室から出て缶ジュースを買って北館と中央館の渡り廊下から空を眺めると、綺麗なものが私たちの目の中に入る。


「何これ、めっちゃ綺麗!」

 栞菜は感心する。空には複数の銀河が見えるのだ。


「ここから銀河が見えるってことは、天からの贈り物かな」

 私は缶ジュースを開栓する。


「絶対そうやって。一生見られないところだったんだぜ」

 憧君は私の顔を見る。


「そうやな」

 政は缶ジュースを飲みながら夜空に浮かぶ銀河を眺める。



 実は、この地点で史上最大級の事件に巻き込まれていることを水莱たちは知らない。

 世界中の人々も知らない。神々様や仏様だって想像を絶するくらいだ。


 果たして、史上最大級の事件とは一体何なのだろうか?

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