第1話~マルス・ハッター~

「カムイ先生ぇ~っ!!わざわざボクに会いに、こんな山奥に来てくれるなんて感激ですよ~」


「アナタも相変わらずですね…、こんな人里離れた場所で暮らしているだなんて」


「さぁさぁ、どうぞ家に上がってください!対したおもてなしは出来ませんが…」


「よろしいのですか?ではお言葉に甘えて……」


カムイがマルスの家に上がると、真っ先にかつての仲間たちとの写真が目についた。


「…懐かしいですね……あの時のことが」


「はい…ボクも今でも昨日のことように覚えてますよ…あのみんなで駆け抜けた正義の日々を!!」


「『正義の日々』…か、今のワタシに正義を名乗る資格はありませんがね」 


「カムイ先生…?どうしたんですか?あんなアツい正義に燃えていたアナタが、そんな悲しいことを言わないでくださいよ!」


カムイはなぜかしばらく沈黙したが、すぐに陽気な態度に切り替えてマルスに語りかける。


「………まぁ~そんなことはどうでもいいじゃないですか~!今日は再会を祝してパーっとやりましょう!!」


そう言うとカムイは酒と大量の食べ物を袋から取り出した。


「わぁ~っ!また先生と酒をいっしょに飲めるなんてボク感激ですよ!!」


「では乾杯といきましょうか」


そう言うとカムイは酒をコップに注ぎマルスに手渡した。


「じゅあ先生、ボクからもどうぞ」


マルスも酒をコップに注ぐとカムイに手渡した。


「…フフ、それではふたりの再会を祝してカンパーイ!!!」


それからふたりは昔話に花が咲いた。

魔王軍との激しい戦い、旅先で起こったさまざまな出来事、苦楽を共にしたかけがえのない仲間たちとの大冒険、それらは『輝かしい思い出』として今もふたりの心に刻まれていたのである…。


「あはははは!ボクはやはり『神秘の泉の森』で、ユニコーンから角を貰うために男三人で奮闘したことが、今でも忘れられない思い出の一つかな~♪あれ…?なんでボクたち女装したんでしたっけ?」


「……あの時は女性メンバー全員と大喧嘩してそれが原因でしたね…本来ならすんなりと穏便に角は貰えるはずだったのですが…ユニコーンにはちょっと可愛そうなことをしました」


「思い出したぁ!確かスゴく他愛のないことで喧嘩して、リリーナとルドミラさんとアナスタシアさんの三人が、一時的にパーティから離脱してしまったんですよね…」


「……女性に対しての配慮にかけた行動が目立ちましたからね~アストランさんとアナタは…」


「だって『薬草を摘むにいきたい』や『毒消し草を摘みにいきたい』なんて急に言い出すもんだからさ~、心配になってアストランとふたりで、こっそりと三人の後をつけただけなのに……本当に理不尽ですよね」


「まったくこの世界の常識ですよ~!『薬草を摘みにいく』は小さい方、『毒消し草を摘みにいく』は大きい方、『薬草と毒消し草を摘みにいく』はその両方、ふたり揃って本当に非常識過ぎてましたね~。ワタシは直ぐに察してその場を離れたというのに…」


「あはは、あの出来事が切っ掛けで以後、アストランとボクもかなり女の子たちに配慮した冒険を心がけたモノですよ……」


「しかしそのせいで結局、正攻法の手段が通らなくなってしまい『苦肉の策』として女装をする…が!あっさり見破られて凶暴化したユニコーンを相手に三人で大苦戦。最終的にワタシとアストランさんが、力付くでユニコーンを取り押さえて、身動きが取れなくなった彼からアナタが『無理矢理力ずくで角を引っこ抜く』という外道極まりないことをする羽目になったと…」


「いや~本当に勇者パーティがするようなことじゃないですよね~!あの後、神秘の泉の女神さまがブチギレてましたからね~!!あはははははは!!!!!」


「笑い事じゃないですよ~まったく…あの後、同じ女神のアナスタシアさんが説得してくれなかったら、ずっと呪われたままでしたよワタシたち~」


〈トントン!トントン!〉


突然家の扉をノックする音が響き渡る。


「ん…?おや、ワタシ以外にもこんな山奥の家に来客ですか…?」


「あ~~~多分『あの子』が来たのかぁ!待ってて今行くから~!」


そう言うとマルスは玄関の方へと向かった。


「ふむ……『あの子』とは?」


しばらくするとマルスは小柄な可愛らしい少女を連れてやって来た。


「え~~~悪いよマルス~、その…、対した用事でもないからさ、あたしやっぱり帰った方が……」


「大丈夫大丈夫!それにキミのことも先生に紹介したいしね!!」


「…おや、素敵なお嬢さんじゃないですか。失礼ですがお名前は…?」


「あ、あ、あの、は、はじめましてですぅ!あたしはブッキー、麓の村で武器屋を営んでおりますブッキー・ウルナブキと申します!!カ、カムイ先生のことはマルスからよく聞いております!なんでも『尊敬出来る人生の大先生』だとか、あと『今の自分があるのも全部カムイ先生のお陰だ』とも言っておりました!!」


「わぁわぁわぁ~!!!!!ブッキー、確かにぜんぶボクが言ったことだけどさ~!もう、恥ずかしいな……」 


「だってだって~…あなたの憧れのカムイ先生を前にしたらさ、何かあたしまでスッゴく緊張しちゃってさ~その、つい……あうあう~」


「いや~そんな風に言われてしまうと何だか照れちゃいますねぇ~!…ところでおふたりの関係は?」


「えっ…あたしと彼は……」


「ブッキーは、ボクにいつも良くしてくれるスッゴく優しい子なんですよ先生!だから『大親友』です!!」


「………えっと、つまり『ご友人』ということですか?」


「はい!そうです!これからもずっと親しい友人として交流していけたらと思っております!ねぇ~ブッキー♪」


「……………うん、そうだねマルス…」


「ふむ、なるほど……」 


それからブッキーを加えての飲み会が始まった。

ブッキーの口からは、マルスへの好意ともとれる発言が然り気無く何度も出たが、彼はまったくそれに気づくことなくカムイとの思い出話ばかりしていた。

そんなに彼女のことを察したカムイは、ブッキーについての話題を色々とマルスにふるが、酒が入っていたためだろうか、ほとんどスルーされてしまった。そして…


「カムイせんせ~、ボクは本当にアナタのことを~むにゃむにゃ…」


「もう~…マルス、そんなところで寝たら風邪引くわよ…しょうがないんだから」


「ははははは、彼は身体が丈夫なんで早々風邪なんて引きませんよ!ところで……アナタ、マルスさんのこと好きでしょう?」


「!?ふぇっ、あ、あ、あわわわわわわわ…あたしは別にマ、マルスのことなんて……」


彼女は必死に否定はするものの明らかに動揺していた。


「隠さなくてもいいですよ、バレバレですから…」


「…はい、あたしずっと彼のこと、マルスのことが大好きなんですぅ…でもマルスは全然あたしのことを見てくれないし、あたしの女性としての魅力が皆無だからかな…はぁ」


そう言うとブッキーは深くため息をつく。


「『女性としての魅力が皆無』…ですか。ワタシにはアナタはとても魅力的な女性に見えますがね……」


「えっ!?先生本当ですか!!」


「はい、アナタはとても素敵なレディですよ!もっと自信を持ってください。…まぁ強いて言うならば相手が『彼』だったことが、一番問題だったみたいですね…」


「ええっ!?ど、どういうことですか?」


「そのままの意味ですよ、彼は本当に『そういうことに』に昔から疎いんですよ。少し厳しいことを言いますと、今のままでは100パーセントその恋は成就しないでしょうね…」


「ううう、そんなぁ~」


カムイのこの言葉を聞いてブッキーは、まるでこの世の終わりのような顔をする。


「……彼はこのまま最強の英雄になることを求め続けた結果、生涯独身で人生を終えることになるでしょうね」


「……彼が幸せならあたしはそれでも構いません。悲恋で終わってもいい…、それでもあたしは……マルスのことを生涯愛し続けますから!!!!!」


「……なぜそんなに彼のことを?」


「…マルスがこの山に来る前は、この辺りは危険なモンスターで溢れかえっておりました。でも彼が来てからは、そんなモンスターの数もめっきり減りました…マルスが全部やっつけてくれたんです…そのお陰で村でモンスターの犠牲になる人もいなくなりました…」


(まぁ最初は人助けするつもりはなかっただろうな…。あくまで修行の一環でやったことが、たまたま結果としてモンスターの脅威に苦しむ村の人たちを救うことになった…と、ふむ)


「それにマルスは、あたしの命の恩人でもあるんです!あたしが森でモンスターに襲われて殺されそうなっていたところを、偶然通りかかった彼が助けてくれたんです!!……マルスは、あたしの『英雄』なんですぅ!!!!!」


「英雄、ですか……」


(マルス、キミは英雄になることにずっと憧れていたが、少なくとも彼女の中では、もうキミはもう立派な英雄のようだね)


「……あたし、マルスに助けられた時、…心の底から彼のことが大好きになりました…ッ!パンツだって『びしょびしょ』になっちゃいましたぁ!実は今日だって、彼に抱かれるつもりで来てましたぁ!スッゴいエッチなパンツだって穿いて来てますぅ!見てくださいよぉ!!ホラぁあああアアアアッ!!!!!!」


そう叫ぶとブッキーはスカートを大きく捲し上げた。

彼女は『ほぼ下着としての機能を放棄したような』ものすごくドギツイデザインのパンツを穿いていた…。


「はぁはぁはぁはぁ~……やだぁ、あたし……興奮して濡れて来ちゃったよぉ~…♡」


「……おっふぅ…いや、わざわざ見せてくれなくて結構ですよ…と言うかちょっと怖いですよ、ホラーですよまったく…」


(さっきまでのいい話が、だいぶ台無しになったな……しかしこれは『チャンス』なのかも知れない…弟子の幸せな未来のため、ここは『一肌脱ぐ』とするか…)


「…アナタの彼を思う気持ちはどうやら『ホンモノ』のようですね。ここで一つ、ワタシから提案があります!『彼のハートを鷲掴みにする必殺の方法』がありますが…試してみませんか?」


「…!?ほ、本当ですか?彼の鈍感ハートを打ち砕く必殺技があるんですかぁあああ!!カムイ先生、是非ご教授お願いいたしますぅううううう!!!!!!!」


「いや、ハートは打ち砕いちゃダメだと思うのですがね…本当に面白い子だなぁ、……実はワタシの里には、女性剣士のみに伝わる『性の秘伝の極技』がいくつかあります。これらは、男性剣士よりも身体能力的に劣る女性剣士たちが、窮地に陥った際などに用いる『切り札』とも呼べる技なのです!そして…ワタシはどういうワケか、これをすべてマスターしております!!なんなら『里のどの女性たちよりも上手』だと自負しております!!!!!」


「え、ええええええええええッ!?本当にどういうワケなんですかぁあああああ!!!」


カムイの驚愕カミングアウトに激しく動揺するブッキー。


「まぁ~里に伝わるすべての剣術と体術をマスターしてからやることがなかったので、知り合いのノリのいい女性剣士から内緒で教えてもらったんですよ…まさかこれが役に立つ日が来ようとは…」


「あうあう…あ、あたし恥ずかしいです!そんなエッチな技の会得だなんて……」


(…あんな大胆な行動をしておいて急に何を…)


「……いや、彼に抱かれるつもりで今日来ていたんでしょう?アナタの覚悟は『その程度のモノ』だったのですか?彼と幸せになりたいのでしょう?どうなんですか?よく考えなくともわかるはずですよ……」


彼のこの優しい言葉に彼女の覚悟は決まった!


「………あたしは、彼と結婚して赤ちゃんいっぱい生んで幸せに暮らしたいですぅ!!」


「グレイトゥ!なら早速レクチャー致します!ワタシが本気を出せば、例え相手がモンスターであったとしても、すべての技をマスターさせることだって夕飯前のおやつ前です!!」


「た、頼りになりますぅううカムイ先生ぇええええええ!!!!!!」


こうしてカムイによる里に伝わる秘伝の性の極技の指導が始まった!

ブッキーはとても物覚えがよく僅か数時間でこれらの極技をすべてマスターしてしまった!!


(……バカな、オレ以上の逸材がいたとは……これが『愛の力』なのか………愛か、オレには無縁なモノだな)


「はぁはぁはぁ~、先生!今のあたしは、…どうでしょうかぁ!」


「フフ、アナタは師であるワタシをカンペキに越えましたよ!今のアナタは最強の『どスケベマスター』です!誇りなさい!そして…自信を持ちなさい!!自分自身に!!!」


「う、嬉しいですぅ~!!」


「さてと…、ここから『本番』ですよ…今マスターしたすべての極技を駆使して、彼と身も心も結ばれるのです!!!」


「ふぇええええええ!!!!!そ、そんない、今からですか~?…あうあう、こ、心の準備がぁ~……しかも先生の前でなんて…はぅぅぅ」


「ご安心を!邪魔者は外の物置小屋で一晩過ごすので……」


「えっ、と…ま、また今度じゃダメでしょうか?いつか必ずこの会得した技で、彼をメロメロに……」


「『いつか必ず』ですか…?いいですか、『いつか必ずやる』と言って先延ばしにした結果、結局やらずに人生を終える人が、この世界にはたくさんおります。…じゃあいつやるのか?今でしょおおおおッ!!!!!!」


「……!!…ヤります、今ヤりますぅ!!!あたし…、今から寝ている彼を無理矢理襲いますぅううう!!!!!」


「グ~レイトォオオ!ご武運をぉ!!」


そう言うとカムイは家をあとにし、物置小屋へと向かう。その後一晩中、男女の激しい喘ぎ声と大きな物音が、周囲に響き渡るのであった…。そして朝がやって来た。


「おはようございます!『ゆうべはお楽しみ』でしたね!!」


「あ、あ、先生……おはようございます。じ、実はボク、ブッキーと、その、あの、えっと……あうあう」


マルスは顔を真っ赤にしながらカムイにナニかを伝ようとしている。


「あっ!カムイ先生ぇ!!…あたし、あたしヤりましたぁ~!ヤり遂げましたぁああ!マルスと昨夜、文字通り身も心をひとつになりましたぁっ!しかも…マルス……『あたしと結婚の約束』までしてくれましたよぉおおおお!!!!!!」


「あっ…ボクが『オブラートに包んで』伝えようとしたことをそんな大胆に……と言うワケで先生、ボク結婚します…」


「……おめでとうございます!……どうかワタシの分も幸せになってくださいね」


「うふふ、あたし今から張り切って朝ごはん作るわね♪ダーリン♡もちろん先生の分も作りますので、どうか召し上がってください~」


「ではお言葉に甘えて…」


「あ、あの先生、実は大切なお話が……」


何やら神妙な面持ちでマルスはカムイに語りかけてきた。

マルスの顔はとても覚悟の決まった漢(おとこ)のそれであり、昨日までの幼い顔つきとはまるで違って見えた。


「……わかりました。いいでしょう、それでは『最後の稽古』をつけるとしますかね……」


カムイとマルスは外に出ると激しく何度も打ち合った。

マルスの実力は以前とは比べ物ならないレベルで上がっており、カムイはただただ驚愕した。


「はぁはぁはぁ、先生ぇ!ボク…強くなりましたか…?」


「ええ、もうワタシが教えることは、何一つありませんよ…本当によくここまで強くなったモノですね!アナタならきっと『最強の英雄』になれますよ!!」


「……!!はい!先生!……先生、最後に『ボクの編み出した究極の奥義』を、見て頂けませんか?」


「『究極の奥義』ですか、…素晴らしいですね!ならばその奥義を是非とも、このワタシに直接繰り出してみてください!!ワタシがアナタのその集大成とも呼べる奥義、全力で受け止めて差し上げましょう!!!!!」


「……はい!先生ぇええええええ!!!!!!」


マルスは静かに目を閉じると全身に力を込める、すると彼の身体から発生した闘気により、周囲に物が激しく振動し始めた。


「先生に捧げます!ボクの究極の奥義をォ!はぁぁああああアアアアアアアッ!!究極の拳『神威』ッ!!!!!」


〈ズドォオオオオオオン!!〉


カムイに強烈な拳撃が炸裂した!!

その凄まじい奥義の威力に驚愕すると同時に、彼の目からアツいモノが…『涙』がいっぱい溢れ出た……。


「……見事です…本当に、本当に強くなりましたね、……マルス・ハッター、ワタシの最愛の弟子、……ありがとう…そして…さようなら……」


その後カムイは、マルスとブッキーと別れると次なる目的地である聖都『セイントマギア』へと向かった。


「……残念でしたね。マルス、…『キミの今の実力ではオレを殺すことは出来ない』…やはり『彼』に頼むしかないみたいだな…その前に悔いが残らないようにしないといけない……さてアナスタシア、キミは今、何をしているのかな…?」(つづく)


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KAMUI~剣聖の後始末~ トガクシ シノブ @kamuizan

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