KAMUI~剣聖の後始末~

トガクシ シノブ

プロローグ

「フフフ、フハッハッハッハッハッ~ッ!!!我が軍の四天王を退け、よくぞ我が元にたどり着いたな勇者たちよ…褒めてやろう……どうだ、我が軍に入らないか?キサマたちなら喜んで我が軍に迎え入れよう…」


魔王デスオウマは、余裕の笑みを浮かべながら勇者たちを魔王軍に勧誘した。


魔王デスオウマ

「皆殺しの魔王」と呼ばれ恐れられる魔界最強の男で、歴代魔王最強の実力とその残忍さにより、人間たちからだけでなく魔族からも恐れられている。しかし実は臆病な面もあり、自分の命を脅かす存在の勇者をずっと恐れている。

その感情がピークに達したある日、勇者の血族を根絶やしにすることを計画し、それを実行に移した。その結果、この地上から勇者の血は完全に消え去った…かに見えた。それから数年後「彼の命を脅かす存在」この世から完全に消し去ったはずの勇者とその仲間たちが、彼の野望を阻止するため立ち上がり、今こうして彼の前に現れたのである。


「…魔王デスオウマっ!オレたちがそんな誘いに乗ると思っているのか?今こそ勇者としての使命を果たす時…ッ!父さんや母さん、そして一族の恨みを晴らす時…ッ!!…さぁみんな、…準備はいいかい?」


勇者アストラン・J・クルセイダーが仲間たちにそう言うと、仲間たちは各々自分たちの思いを語った。


アストラン・J・クルセイダー

伝説の勇者の家系「J・クルセイダー」出身の勇者で、強力な勇者のみが扱える剣術を自在に扱える最強の男。

優しいだけでなく正義感も強く、その器の大きさはまさに勇者と呼ぶにふさわしい。

赤子の頃、魔王デスオウマの手により自分を除く一族を根絶やしにされてしまう。しかしその際に母の手で川に流されることで、なんとか事なきを得た。その後、流れ付いた場所で泣いていたところを偶然通りかかった大賢者メギウス・スウ・クイーンに拾われ、彼の娘であるリリーナと一緒に育てられた。

ある日神託により自分が魔王デスオウマを滅ぼすことが出来る伝説の勇者と知り、リリーナと友人のマルスと共に、魔王倒す冒険の旅へと出発した。そして数多くの出会いや別れや困難を乗り越え、こうして今、魔王デスオウマと対峙する!


「うん!アタシはいつでも大丈夫よアストラン!みんなで魔王をやっつけましょ!!」


魔法使いリリーナ・スウ・クイーンは、彼に笑顔でそう答えた。


リリーナ・スウ・クイーン

魔法使いの名家「スウ・クイーン」出身の女性で、数多くの強力な攻撃魔法を扱える頼れる存在。

明るく優しい性格の持ち主で、パーティのムードメーカー的な女性である。

幼き頃から勇者アストランとは実の兄妹のように育ち、物心付いた頃には彼に好意を持っていた。

アストランが神託により伝説の勇者と判明した際も、自ら進んで彼の危険な旅に同行すると名乗りを上げ現在に至る。


「よっしゃ!今こそボクの鍛え上げたこの力と技で、この世に平和を取り戻してみせるぞ!!」


格闘家マルス・ハッターは、自分自身を奮い立たせ魔王と対峙する。


マルス・ハッター

アストランとリリーナの幼なじみで、村の格闘道場師範のガンツの息子。

厳しい父の稽古により凄まじい戦闘力を有しており、素手の戦闘力ならばアストランを凌ぐ実力者。

一見すると能天気かつ楽観主義者な面が目立つが、その心の奥底では常にアツい正義の炎を燃やしている。

アストランとリリーナ、そしてその後出会った仲間たちとの冒険を通し、極限にまで研ぎ澄まされた彼の「武」は、強者揃いの魔王軍を粉砕し続けた。


「……マルスさん、ひとりで突っ走るのはNGですよ。相手はあの最強の魔王デスオウマ、我々の力をひとつにしない限り、万にひとつ勝ち目はありません…」


剣聖カムイ・カンナギは冷静になるよう、弟子のマルスを諭した。


カムイ・カンナギ

剣術の名家「神薙」出身の剣士で、この世で最強の剣聖の男。

正義感がとても強く剣術だけでなく体術にも優れ、その強さに惚れたマルスからは、弟子入りを懇願された。最初は乗り気でなかったが、彼の熱意と才能を見込んで弟子入りを認めた。

パーティ内でも圧倒的な強さを誇り、仲間たちを数多くの困難から救ってきた。また時には優しく、時には厳しく、パーティメンバーの成長にも多大な影響をもたらしており、まさにパーティになくてはならない存在である。


「大丈夫ですわよ皆さま方~!ワタクシたちには神々のご加護がありますもの!必ずこの世界に再び光を取り戻せると信じて、さぁ共に参りましょう!!我らの道に…光、あれ~ですわ~~~っ!!!」


光の聖女アナスタシア・ユー・クリミナムは、頼もしくも力強いこの言葉で仲間たちの士気を高める。


アナスタシア・ユー・クリミナム

光の女神の化身である心優しくも少し腹黒い聖女。

「魔を祓いこの世に光をもたらす使命」のもと、人間の姿で生まれて来た女神であるが「女神らしからぬぶっ飛んだ発言や行動」により、周囲の人間を振り回してしまうことも多々ある。

強烈な魔を払う力「女神の奇跡」を操り、魔王軍との苛烈な戦いに多大な貢献をしてきた。

また「未来(あす)を見る力」も持っているが、この力で見る未来は、確定的なモノではなく、いくらでも覆すことが可能であるとのこと。


「フッフッフッ…魔王デスオウマよ、最強のワタシたちの相手をする事になったことが、どうやらキミの運の尽きのようだね…いいサンプルも取れそうだ~…ひひひ」


死霊術士ルドミラ・ミラ・ミランダは、魔王を相手に臆することなくそう言うと、不気味な笑みを浮かべた。


ルドミラ・ミラ・ミランダ

世界で最も有名で高名な死霊使いであり、あらゆる禁忌の術を使いこなすだけでなく、怪しくて危険な実験も平気で行うマッドサイエンティストの女性。

勇者パーティに加わった理由も、多くのデータが取れそうだからとのこと…。

みんなと出会った頃は美しい大人の女性の見た目だったが、自分の惚れた男性のカムイが「美少女好き」だと誤解し、現在は彼の性癖に刺さる(と思われる)容姿の少女の姿をしている。(見た目はいつでも自由に変えられるとのこと。)


「……みんな…、本当に心強い限りだよ!…さぁ行こう!!…勝利を…信じてぇッ!!!」


魔王デスオウマとの死闘は長時間にも及んだ。

みんなが心をひとつにして強大な魔王を相手に、全力で立ち向かった。

魔王の激しい攻撃により傷つきながらも、勇者たちは攻撃の手を緩めることなく、何度も、何度も立ち上がった。そして…


「な、なぜだ?か弱き存在であるはずの人間相手に、なぜ魔族の王たる我が、…ここまで苦戦すると言うのか……」


「はぁはぁはぁ…みんなッ!魔王が弱っている!今がチャンスだぁッ!総攻撃で一気に畳み掛けよう!!」


「はぁはぁ~……うんっ、アストラン!やってやりましょう!大丈夫、アタシたちなら…ぜっっったいに勝てるわぁ!!」


「みなぎって来たぁぁぁあああッ!アストラン!ボクたちの力で、ボクたちの手で…、今こそ平和を掴み取ろう!!」


「アストランさん、…我が友よ!今が駆け抜ける時!…魔王、キサマは強かった…だがどうやら相手が悪かったようだな……正義の名のもとに、キサマを討つ!成敗ィッ!!」


「はいアストランさま!悪い魔王に今こそ引導を渡して差し上げましょうですわ~~~!お覚悟ぉ~!!」


「らじゃ~アストラン隊長~!さぁ~魔王ちゃん、ジ・エンドのお時間よぉ~、コレをマトモにくらって果たして無事で済む…ワケないわよね~きっと♪キヒヒヒ」


勇者のたちによる渾身の攻撃が魔王に炸裂した!!


「終わらせる!オレたちの手でえッ!!はぁぁあああ!アストラン・アンリミテッドブレイク!!!」


「アタシの全力…、いっっっけぇぇぇぇぇ~!アークインパルス・スターノヴァ・イグニショーーーーーンっ!!!!!」


「究極奥義・戦神誅魔破砕(せんしんちゅうまはさい)けぇぇぇん!うおぉおお砕けろよぉおおおおオオオオオオオオ!!!」


「大いなる神々よ…どうか我らに輝ける希望の光を!最上級の聖なる祝福を…!シャイニングホープ・ゴッドブレッシングですわ~~~ッ!!」


「バ・イ・バ・イッ!…深淵の闇よ、わが名によりすべてを飲み込め!アビスゲ~ト~~~バ~~~スト~~~キャノ~~~ンっ!!シューーートぉ~!!!」


「我はカムイ・カンナギ、魔を切り裂く正義の刃なり!神薙流奥義…、夢想幻影(むそうげんえい)ッ!!」


〈ドゴーーーン!!!!!〉


「ヌオオオオッ!バ、バカな…。この魔王であるこの我が、最強魔王であるはずのこの我が~…こんな、…こんなか弱き人間どもの手によって滅びると言うのか…勇者、恐ろしい………これが本当の勇者のち、か…、ウ…グ、グゥオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!!!!!」


壮絶な断末魔と共に魔王デスオウマは消滅した…。


「やった!オレたちは…オレたちは遂に勝ったんだあ……ッ!…父さん、母さん…ううう、オレは…、オレはぁあああッ!!!!!……みんな、みんな…本当に、…本当にありがとう!!」


アストランは込み上げてくる感情を爆発させながら、目から大粒の涙を流し仲間たちに感謝の気持ちをぶつけた。


「ア、アストラ~ン!おめでとう~!やったね!アタシたち…、アタシたち遂に魔王をやっつけたんだよぉ~っ!ふわぁ~~~ん!あーん!うぇええ~ん!!」


リリーナはアストランの元に駆け寄ると、彼を抱きしめながらいっしょに号泣する。

アストランも力強く彼女を抱きしめた。


「おやおやーふたりいっしょに仲良く抱き合いながら号泣だなんて…おアツいですな~!ヒューヒュー!よっ!ナイスカップル!!」


周りを気にすることなくお互い抱き合いながら泣くふたりの姿を見て、マルスは冗談めかしながらからかってみせた。


「…ッ!ぐうぅ……リリーナ…………。…アストランさん、本当に今までお疲れ様でした。ご両親の、そして一族の無念を晴らせて本当によかったですね……本当に」


カムイはアストランのことを祝福した。


「これでこの世界に再び光が戻りますわよ~!ワタクシたちの大勝利ですわ!!ブイブイブイ!ビクトリーですわ~~~!!!」


アナスタシアは声高々に完全絶対勝利宣言をした。


「フヒヒ、良いデータが取れた~♪…さて、はじまりがあれば当然おわりもある。ワタシにとってキミたちとの旅はとってもハードだったけど、同時にとっても有意義で素晴らしいモノだったよ~。いや大変名残惜しいのだがね、ワタシはこれで失礼させてもらうよ~……な、なぁカムイ、よ、よかったらぁ!その、いっしょに来ない……かい?ワタシと~。む、無理強いはしないぞぉ~!ただどうせ『異性に縁のない独り身同士』なんだしー、仲良くだなー、そのー、…お互いもっともっと~~~っ!あにょね~、お、おとにゃのカンケーをでしゅねー、カ、カラダのお付き合……い~ッ!きゃあ~~~っ!!!!!」


カムイを呼び止め何やら意味深なことを言おうとしたルドミラだったが、突然顔を真っ赤にしたかと思うと、叫びながら猛スピードでその場から走り去ってしまった……。


「え、え~~~……ルドミラさん、ワタシに何か…?」


これには流石のカムイも思わず首を傾げる。


「……カムイさまは本当に女の心がわからない方ですわよねぇ~イケメンなのにそりゃ~モテないのも納得ですわ~」


何かを察したアナスタシアは呆れた様子でカムイをの方を見る。


「…カムイさん、前にも言いましたが幸せは案外身近に落ちているかも知れませんよ♪…もういい加減ルドミラさんの気持ちにもちゃんと気づいてあげてくださいね!さもないと温厚なアタシも、…そろそろ本気で怒っちゃいますよぉ~!コラ~!!」


リリーナもカムイに対して何やら意味深なことを言う。


「オレは、…リリーナ………何ですか~?アナスタシアさんにリリーナさん、ふたりして感じ悪いですね~!ワタシ、何か悪いことでもしましたか~?」


『別に~』


アナスタシアとリリーナは「やや冷ややかな視線」を彼におくると同時にそう答えた。


「?…まぁいいでしょう。それではワタシはそろそろ……」


「それではワタクシはそろそろ失礼させて頂きますわ~!それでは皆さま方、ご機嫌よぉ~!アストランさま、リリーナさま、どうか末長くお幸せに~ですわ~~~!おふたりに神の祝福があらんことを。それではおさらばですわ~~~!!!!!」


そう言い残すとアナスタシアは優雅に走り去って行った。


「さてと…じゃあワタシも…」


「さてと…じゃあボクも失礼するね…なぁアストラン、悪いんだけどさ『村にはしばらく帰らない』って、とーちゃんとかーちゃんに伝えてくれないかな?あっ…でもふたりの結婚式には必ず出席するからさ!!…こういうことはやっぱり自分の口で直接本人たちに言わないとダメかな?」


「そんなことはないと思うぞオレは。了解、…でもおじさんとおばさん、特におばさんはとても悲しむだろうな。でもオレは、大親友のマルスの夢を全力で応援するつもりさ!頑張れよ!!」


「…ありがとなアストラン。リリーナと絶対に幸せになれよ!じゃーな…」


そう言い残すとマルスもその場をゆっくりと去って行った。


「……ふぅ、ではワタシもこれで…」


「…あのカムイさん……」


その場を去ろうとしたカムイにアストランは、少し慌てた様子で声をかける。


「…何ですか?アストランさん、まだワタシに何か?」


「オレとリリーナの結婚式、必ず来てくださいね!カムイさんには絶対に来てほしいんです!!」


「…………………そうですね。約束は出来ませんが尽力しましょう。それでは…アストランさん、……リリーナさんと、…どうかお幸せに…」


そう言い残すとカムイは静かに去って行った。


カムイを見送ったアストランとリリーナは、その場で抱き合うとアツい口づけを交わした。そして故郷の村を目指し歩きはじめるのであった。


こうして勇者アストランたちにより、最強の魔王デスオウマは滅ぼされ、無事世界に平和が戻った。

勇者とその仲間たちは再会を約束し、パーティを解散したのであった……そしてそれから数年後…


オレはすべてを極めた。最強の剣術と体術を、そして仲間たちと共に魔王を倒し、世界に平和をもたらした。しかし今思えばこれがオレの…すべての「終わりの始まり」だったのかもしれない。「後始末」をしよう。オレというどうしようもない男の、…すべての後始末を……。


かつて「最強の剣聖」と呼ばれたひとりの男の最後の冒険が静かに始まった…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

KAMUI~剣聖の後始末~ トガクシ シノブ @kamuizan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る