第15話 衝撃の告白
壮馬君と偽装カップルになって十日ほど経った頃、下校時に昇降口へ行くと靴が無くなっており、収束したと思っていた嫌がらせが再燃する事態となった。
「この期に及んで、まだこんなことするなんて、犯人はよほど西口のことが好きみたいね」
一緒にいた有紀が呆れたように言う。
「そうね。バレたら、壮馬君から嫌われるのが分かってて、こんなことするんだから、犯人は覚悟を決めてるようね」
「そうなったらもう怖いものなしだから、今後もっと大胆なことをしてくるかもしれないわね。あんた、警戒した方がいいわよ」
「うん。あと、このことは壮馬君には内緒にしといて。心配かけたくないからさ」
「なんかそれ、本物の彼女みたいなセリフね。もしかして、あんたたち偽装カップルから脱却したの?」
「ううん。今も偽装のままよ。けど、偽装だろうが本物だろうが、壮馬君への思いは変わらないわ」
「おー、おー。言ってくれるじゃん。あんまり
「惚気てないって! あと、冗談でも、そんなこと言わないで」
有紀の軽口に、思わずきつく返してしまった。
その時、わたしは嫌がらせという言葉に過敏になっていることを自覚した。
その後も教科書をゴミ箱に捨てられたり、トイレの個室に入ってる時に上から水を掛けられたりすることが続き、わたしは精神的に追い詰められていった。
「こんなに続くんなら、一度先生に相談した方がいいんじゃない?」
有紀はわたしのことを心配してくれ、そう勧めてくれた。
「そんなことすると、犯人捜しにまで発展してしまうでしょ? わたし、あまり事を荒立てたくないのよ」
「そんな悠長なこと言ってる場合じゃないでしょ。このままじゃ、あんた病気になっちゃうわよ」
「大丈夫よ。わたし、こう見えてけっこう図太いから」
わたしは満面の笑みを見せたつもりだけど、うまく笑えている自信はない。
「じゃあせめて、西口だけには言ったら?」
「前も言ったけど、彼には心配かけたくないの。大丈夫。これは、わたし一人の力で解決してみせるから」
このくらいの壁を乗り越えられないようでは、いつまで経っても壮馬君と本物のカップルになんてなれないから。
日曜日の昼間、父が営業から帰ってきたタイミングで、わたしは木本さんと一緒に休憩室へ移動した。有紀にはああ言ったものの、具体的な解決策が見つからないわたしは、藁にも
「結局、俺の言った通りになりましたか。やはり女の嫉妬は怖いですね」
「はい。今それをひしひしと感じています」
「けど、俺より彼氏に相談した方がいいんじゃないですか? 俺はその状況を見てないから、うかつなことは言えないし」
「彼を頼らず、自分一人の力でなんとかしたいんです」
「でも、現にこうして、俺に相談してるじゃないですか? それって、もう自分だけでは解決できないと思ったからなんでしょ?」
「…………」
返す言葉が見つからず俯いていると、木本さんは更に話を続ける。
「たとえ偽装カップルでも、こういう時は彼氏を頼った方がいいんじゃないですか?
もしかしたら、それがきっかけで、二人の絆が深まるかもしれないし」
木本さんの言葉が胸に響く。わたしは壮馬君に心配かけたくないの一辺倒で、そんな発想はまったくなかった。
「分かりました。じゃあ、明日にでも言ってみます」
「是非そうしてください。この問題が解決した暁には、二人はきっと本物のカップルになってますよ」
無邪気な笑顔を見せる木本さんに、わたしはドキッとさせられる。彼には、壮馬君とはまた違う魅力があり、多分そのことに本人は気付いていないから厄介だ。
昼休み、わたしはいつものように壮馬君と弁当を食べながら、昨日木本さんからアドバイスされた通り、今まで数々の嫌がらせを受けたことを打ち明けた。
「なるほどな。最近なんか様子がおかしいと思ったら、そういうことだったのか」
「うん。本当は言うつもりはなかったんだけど、もうどうしていいか分からなくて……」
「で、犯人に心当たりはないのか?」
「うん。女子なのは間違いないんだけど」
「そうか。じゃあ、うまくいくかどうか分からないけど、やってみよう。秋元、ちょっと一緒に来てくれるか」
壮馬君は立ち上がると、突然教壇に向かって歩き出した。
わたしは訳がわからないまま、とりあえず彼の後を付いていく。
「おーい! みんな、今から俺の言うことを聞いてくれ」
教壇に立ちながら壮馬君が呼び掛けると、それまで騒がしかった教室内が一気に静まり返った。
「この中に秋元に嫌がらせをしてる奴がいるみたいだけど、今までのことは目をつぶるから、今後一切そういうことをするのはやめてくれ。もし、どうしてもやめたくないのなら、俺にしてくれ。俺になら、どんな嫌がらせをしても構わないからさ。大事なことだから、もう一度言うぞ。もう、秋元に嫌がらせをするのはやめろ。俺の大切な彼女をこれ以上苦しめたら、許さないからな」
言い終わると、壮馬君は張り詰めた空気の中、さっさと自分の席に戻った。
一人残されたわたしは、さっきの壮馬君の言葉が衝撃すぎて、そこから動けずにいた。
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