第12話 悪いことは重なる

 最近、なぜかわたしの周りに不穏な空気が流れている。おとといは上履きに画びょうが入ってたし、昨日は体操服を隠されていた。

 今日は今日で、移動教室に行っている間に教科書やノートを破られていた。

 訳が分からず、昼休みに有紀に相談すると、彼女は眉根を寄せながら聞いてくる。

「なんか心当たりないの?」

「うん。こんな嫌がらせを受ける覚えは、まったくないよ」

「本当に? 自分で気付いてないだけで、女子たちから反感を買うようなことを、誰かに言ったんじゃないの?」

 まだ犯人は女子と決まったわけではないのに、有紀はそう決めつけている。

 まあ、わたしもそう思ってるんだけど。

「何も言ってないよ。第一わたし、有紀以外の子とはあまりしゃべらないし」

「じゃあ、答えは一つしかないわね。あんた、最近西口となんかあったんでしょ?」

「えっ! ……なんで分かったの?」

「女子たちから嫌がらせを受けるとしたら、それしかないでしょ。で、何があったの?」

「別に大したことじゃないよ。この前、図書室で二人きりで話しただけだから」

「それだけで、十分だって」

「でも、あの時わたしたち二人しかいなかったから、誰も知らないはず……あっ! そういえば、わたしたちが話してる時に、隣のクラスの子が入ってきたわ。もしかしたら、その子がうちのクラスの誰かに言ったのかも」

「もしかしたらじゃなくて、その子が言いふらしたのよ。まあ、済んだことをあれこれ言っても仕方ないから何も言わないけど、今後嫌がらせを受けないために、どうするかを考えないといけないわね」

 有紀はそう言うと、目をつむって何やら考え始めた。


「ひらめいた!」

 程なくして目を開けた有紀は、目をキラキラさせながらしゃべり始める。

「いっそのこと、西口と付き合っちゃえばいいのよ。そしたら、女子たちもあんたに手が出せなくなるから。だって、そんなことしたら、西口にすぐバレるからね」

「そんな簡単に言わないでよ。西口君と付き合うことが、どれだけハードルが高いか、ちゃんと分かってる?」

「もちろんよ。でも、これはあんただけじゃなくて、西口にとっても悪い話じゃないはずよ。あんたと付き合うことで、もう他の女子たちから言い寄られなくなるんだからさ」

「それはそうだけど、もし西口君と付き合うことになったら、わたしは毎日陰口を叩かれるじゃない」

「陰口くらい、いいじゃん。直接何かされるよりは、よっぽどマシでしょ?」

「わたしは有紀ほどメンタルが強くないから、そんなの耐えられないよ」

「じゃあ、どうするのよ。他に何かいい方法でもある?」 

「そんなに簡単に見つかるくらいなら、こんなに悩まないよ」 

「だったら、この方法で押し通すしかないでしょ。今夜私が告白の文言を考えてあげるから、楽しみにしてて」

 有紀はいたずらっぽく笑いながら自分の席に戻っていく。

 わたしはそんな彼女を、複雑な気持ちで見送っていた。


 帰宅後、スマホで何気なくSNSをチェックしていると、カップル棚に関する書き込みがあるのを見つけた。

『前にカップル棚がきっかけで、男の人と会ったことがあるんですけど、その人、年齢の欄に二十五歳と書いていたのに、実際は三十五歳でした。せっかく趣味が合うと思って期待してたのに、嘘をつかれて一気に冷めました。その人だけが悪いわけではなく、年齢を確認しなかった書店の方にも問題があると思います』

(ああ。やっぱり、こういう問題が起こったわ。だからあれほど、年齢確認はした方がいいと言ったのに)

 カップル棚を考案した時、わたしは年齢確認をする予定だったんだけど、父が『お客さんを信用したい』と言ったため、結局今のような形になった。この書き込みが拡散されれば、店にとっては大きな痛手だ。そうなる前に、何か手を打たないと。

 わたしはとりあえず謝罪の文を書き込み、これからは年齢確認することを文の後に続けた。

「お父さん、こんな書き込みがあったから、今度から年齢確認することにしたからね」

 父が店から帰宅すると、わたしはさっきスマホに保存した、女性からの書き込みのスクリーンショットを見せた。

「ふーん。で、書き込みは他にもあるのか?」

「ううん。今のところ、これしかないけど、このまま放っておけば、また出てくるかもしれないでしょ?」

「だったら、無理に変えなくても、今のままでいいんじゃないか? 今更変えても、客が混乱するだけだからな」

「何、暢気なこと言ってるのよ! こういう悪い噂は早く断ち切らないとダメなの。それには制度を変えるしかないのよ」 

「まあ、そう熱くなるなよ。もう少し様子を見て、こういう書き込みが続くようだったら、またその時考えればいいじゃないか」

「あっ、そう! じゃあ、もうどうなっても知らないからね!」

 まるで危機感のない父に、わたしは怒りを通り越して、情けない気持ちでいっぱいだった。







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