第6話
私はロイマンと共に冒険者ギルドへと足を踏み入れた。その瞬間、私達に多数の視線が集まるのを感じた。こちらを値踏みするような、警戒するような、そんな視線だ。しかしすぐに興味がなくなったのか、集まっていた視線は一瞬で霧散していった。
「もうかなり集まってるな。それに顔を見れば、どいつもこいつも歴戦の冒険者達だ」
「そうですね。見覚えのある顔ばかりです。まぁ相手からすれば私のことは知らないでしょうけど」
「そう卑下するな。確かに純粋な実力で言えば劣るかもしれんが、戦場での戦いとなれば話は別さ」
冒険者ギルドには既に多くの冒険者が集まっていた。ざっと見て三十人といったところか。おそらくその誰もが偉業を残し名を馳せた冒険者であり、それに比べて無名である私は少し場違いな気がする。
だけど、そんなことを言っていても仕方がない。私はもう作戦に参加することを決めたのだ。こんなところでビビッてなんかいられない。
「あそこが空いているな。座るか」
「そうしましょう。ここに立っていても邪魔ですからね」
扉の前に立っていても通行の妨げになってしまうので、私とロイマンは適当に空いていた椅子へと座った。それからロイマンは周囲を見渡し、感嘆したかのような表情で口を開く。
「それにしても、改めて凄い面子だな。全員が紛れもない強者だが、別格が数人いる」
「別格?」
「あぁ。まずはあそこを見ろ」
ロイマンが示した方向を見ると、数人の冒険者が談笑していた。魔法使いのローブに身を包む杖を持った紫髪の女エルフ、腰に剣を携えた剣士と思われる黒髪の男ヒューマン、そして大柄な戦士らしき獣人の男だ。もちろん全員の顔に見覚えはあるが、詳しくはよく知らない。確か、新聞に載っていたような・・・。
「あれは冒険者パーティ『絶対負けないもん』だな。魔王軍四天王『炎豪のベアリー』の討伐に加え『悪夢の迷宮』の攻略など、勇者に匹敵するほどの功績を残している凄腕冒険者パーティだ」
「あぁ、そうでしたね。思い出しました。確か彼らが四天王を討伐したという内容の新聞を見たことがあります」
「人類で初めて魔王軍四天王を討伐したのが『絶対負けないもん』だからな。あのときは新聞だけでなく、様々な方法で情報が拡散されていた。さて、次はあそこを見てみろ」
「あれは・・・。ダークエルフの姉妹、冒険者パーティ『恋々謳歌』、でしたっけ」
ダークエルフの姉妹で構成された冒険者パーティ『恋々謳歌』。たった二人、それもどちらも双剣使いという偏った編成でありながら様々な偉業を成し遂げたとかなんとか・・・。
「そうだ。彼女らはたった二人の冒険者パーティ『恋々謳歌』。『魔糾神殿』の攻略で名を上げてから、『吸血王エルネセス』の暗殺、違法宗教団体『邪蛇教団』の壊滅と次々と成果を上げた実力派だ。性格に難があるらしいが、それ以上の力が彼女らにはある」
「はえー、なんか凄そうですね」
「なんかじゃなくて実際に凄いんだが・・・まぁいい。そして最後に、あそこに立っているドワーフを見てみろ」
「・・・ロイマン。流石に私もあの人については詳しく知っていますよ。最古のドワーフ、『不老のドウェイン』。千年前に『不変の呪い』をかけられ、肉体の変化が失われた男、ですよね」
『不老のドウェイン』。千年前に邪神から『不変の呪い』をかけられたドワーフだ。寿命が二百年ほどのドワーフという種族にも関わらず、その呪いによってすでに千百年程度生きているとされている。
これだけ聞くと不老になれていいじゃないかと思うかもしれないが、『不変の呪い』の嫌なところは別にある。
「『不変の呪い』。肉体の変化を停止する呪い。ここで重要なのはその『肉体の変化』に含まれる範囲だ」
「確か、その範囲には身体能力や戦闘技能も含まれるのでしたよね」
「あぁ。つまり、彼は千年前から全く実力が変わっていないんだ。弱くもなっていないし、強くもなっていない。強烈な強さを求めた彼にとっては、なによりも辛い呪いだろうな」
邪神はドウェインが最も嫌がる呪いを的確に選択し、彼に呪いをかけたようだ。強さを求める武人にとって、もう一切強くなれないというのはあまりに辛いことだ。きっと彼は絶望したのだろう。だけど、それでもドウェインはこうして戦場に立っている。なんて強い精神力なのだろうか。
「さて、そろそろ集合時刻だが・・・っと、来たな」
まるでロイマンの言葉に合わせたかのようなタイミングで冒険者ギルドの扉が開き、数人の男女が入ってきた。彼らは―――。
「―――勇者一行のご登場だ」
とある女冒険者は覚悟を決めすぎている 雨衣饅頭 @amaimanju
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