第5話

 私が作戦に参加することに対して先程まで反対していたルイラーはロイマンの説明に納得したようだった。また、ガインは未だに不満げな顔をしているものの、これ以上反対の声を上げることはなかった。

 それを確認したロイマンは私に声をかける。


「ミーシャ、作戦の参加者の集合場所に案内する。付いて来てくれ」

「了解です」


 私がロイマンの言葉に頷くと、彼は私達が休憩していた酒場から出て行った。作戦への参加を希望してから早速移動かと、少し緊張しながら私も歩き出す。そして酒場を出る直前、後ろから私に声がかかった。


「ミーシャ!」


 私がその声に反応し振り向くと、そこには真剣な表情を浮かべたガインが立っていた。


「どうしたんですか、ガイン」

「・・・ありきたりな言葉かもしんねぇけどよ、死ぬんじゃねぇぞ。生きて帰ってこい」


 ガインのその言葉に私は思わず笑ってしまった。


「ふふっ」

「おい、なに笑ってんだ。俺は真面目に言ってんだぞ」

「いや、本当にありきたりな言葉だなぁと思ってしまって」

「う、うるせぇ」


 私の指摘にガインは顔を赤くする。それにしても、『死ぬんじゃねぇぞ。生きて帰ってこい』か。本当にありきたりな言葉だ。

 でも、そうか。・・・嬉しいな。ガインは私のことを仲間として本気で心配してくれている。それがとても嬉しい。ただ、この嬉しさを直接彼に伝えるのは少し恥ずかしいな。そう思った私はガインと同じくありきたりな言葉で返答することにした。

 

「ガイン、そういうあなたも死なないでくださいね」

「・・・はっ、ありきたりな言葉だな」

「でも、そういうのが好きなんですよね?」

「よく分かってるじゃねぇか。ほら、さっさと行ってこい。外でロイマンが待ちくたびれてるぜ」

「あなたが止めたのに・・・。まぁいいです。では、行ってきます」

「おう」


 そうして私は酒場を出て行った。




「まったく、待ちくたびれたぞ」

「すいません」


 ロイマンは一言文句を言ってから歩き出した。彼を待たせていた自覚があった私は申し訳なく思いつつも後に付いて行く。

 そのまま彼の少し後ろを歩いていると、ふと彼が口を開いた。


「ミーシャ、先ほどの話だが・・・」

「先ほどの話?」

「『覚悟』の話だ」

「あぁ、確かロイマンは私の『覚悟』を認めてくれましたよね。でも、それがどうかしましたか?」


 先ほどロイマンは私の『覚悟』が作戦の参加に相応しいものであると認めてくれた。だが、それがいったいどうしたというのだろうか。


「お前の抱く『冒険をする覚悟』は勇者や歴代の英雄達が抱いていた『覚悟』と同じものだ。そして、おそらくその『覚悟』はお前が壁にぶち当たった時、お前が危機に陥った時、信じられないほどの力をくれるだろう」

「力を・・・」

「ただ、少しでもその『覚悟』が揺らいでしまえば、すぐに死が訪れるだろう。・・・いいか。『覚悟』は最後まで貫き通すんだ。それでこそ、『覚悟』を抱く意味がある」


 ベテラン冒険者であり、歴戦の猛者である彼のその言葉には重みがあった。おそらく今まで様々な猛者達をその目で見てきたのだろう。

 だが、言われずとも私は既に知っている。『覚悟』を貫き通せない人間は最後に大切なものを失ってしまうと、私はもう知っているんだ。


「分かっています。その『覚悟』を持つからには貫き通せと、師匠に教えられましたから」

「そうか。ならいいんだ。・・・っと、着いたぞ。ここが作戦の集合場所だ」

「ここって・・・」


 なんと集合場所は冒険者ギルドだった。まぁ冒険者ギルドと言っても今はまともに機能していないけど。それでもなんだが・・・帰ってきたって気分だ。


「懐かしい気分がするだろう。それじゃ、入るぞ」

「はい」


 私はロイマンと共に冒険者ギルドへと足を踏み入れた。

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