第4話
「―――私が、ミーシャ・ローテルが作戦に参加します」
私がそう宣言すると、予想通り周りからは否定の言葉が返ってきた。
「ちょ、ちょっと待てよミーシャ。冗談だろ。まさか本気で作戦に参加しようとしてるわけじゃねぇよな」
「ミーシャ、悪いことは言わない。作戦に参加することだけはやめておけ。参加したから勇気があるというわけでも、参加しなかったから臆病だというわけでもない。適材適所というやつだ。俺達程度の冒険者は参加するべきではない」
「ルイラーの言う通りだぜ。ロイマン、あんたも分かるだろう?ミーシャは作戦に参加させるべきじゃねぇ」
「うぅむ。確かにお前たちの言うことも間違っていないが・・・」
ガイン、ルイラーともに私が作戦に参加することに対して否定的なようだった。確かに彼らの言う通りかもしれない。
私は冒険者として高い実力を有していると自負しているが、それでも勇者や魔王軍四天王といった強者には届かない存在だ。もし作戦に参加した場合、死んでしまう確率の方が高いだろう。だけど、それでも―――。
「―――ロイマン。私は『軍人』ではありません。私は・・・私は『冒険者』だ」
その言葉を口にした瞬間、心が燃えた。今までの疲労が嘘のように全身に力が漲った。そうだ。私は『冒険者』だ。『冒険者』なのだ。だからこそ私は、たとえ無謀なことでも挑戦をする。冒険をする。それが私、それがミーシャ・ローテルだ。
そのまま力強くロイマンを見つめ続けると、彼は呆れるように笑みを浮かべた。
「ミーシャ。お前の覚悟は伝わった。作戦への参加を許可しよう」
「ありがとうございます」
「嘘だろロイマン、お前本気で言ってんのか!?俺は仲間を見捨てる男の部下になった覚えはねぇぞ!!」
ガインは今にも殴り掛かりそうな雰囲気を放ちながら、物凄い勢いでロイマンに詰め寄った。仲間思いな性格である彼は私が危険な作戦に参加することを許せないようだ。
しかし、激昂するガインを目の前にして、ロイマンは冷静に返答する。
「俺は本気だ、ガイン。ミーシャには作戦に参加する資格がある。お前だって彼女の実力は知っているはずだ」
「・・・確かにミーシャは強い。だが、正直に言って勇者や魔王軍四天王に匹敵するような特別な力はねぇ。おそらく、いや、ほぼ確実に死ぬぞ」
ガインのその言葉にロイマンは僅かな笑みをこぼす。
「あぁ?なに笑ってんだロイマン」
「いや・・・まだお前も若いなと思ってな」
「・・・どういう意味だ」
ロイマンの発言の意図が分からなかったのか、ガインは訝しむような表情でロイマンに問う。
「作戦に参加すれば十中八九ミーシャは死ぬ。お前はそう思っているらしいが、俺の考えは違う」
「なに?」
「お前はこう言っていたな。ミーシャに勇者や魔王軍四天王に匹敵するような特別な力はないと」
「事実だろ。ミーシャに特別な力はねぇ」
「だから若いと言ったんだガイン」
ロイマンはまるで「まだまだだな」と言わんばかりに軽く首を横に振った。
「ミーシャには勇者や四天王に匹敵する特別な力がある。俺はそう確信している」
「・・・いったいなんだってんだ。その特別な力とやらは」
私が持つ特別な力とやらに全く見当がつかない、そんな表情を浮かべるガイン。正直に言うと、私もガインと同じような表情を浮かべていた。特別な力?そんなものに心当たりはない。しかし、ロイマンが適当なことを言うわけもない。
一体私が持つ特別な力とは何なのだろうか。その答え合わせをするように、ロイマンが口を開く。
「―――『覚悟』さ」
「『覚悟』、だと?」
覚悟。それが私の特別な力?
「そうだ。『覚悟』だ。ミーシャには人並外れた『覚悟』がある。勇者に匹敵するほどの『覚悟』がある。そんな彼女ならば、きっと作戦に参加しても生きて帰ることができるだろう」
「待て待て待て。『覚悟』なら俺にも、いや、この場にいる全員にあるだろ。だから俺達は『ヘールベール戦線』で戦うことができてるんだ」
「いや、お前達の『覚悟』とミーシャの『覚悟』はまるで別物だ。お前達の『覚悟』は『命を懸けて戦う覚悟』。一方、ミーシャの『覚悟』は『冒険をする覚悟』だ。まるで違う」
ロイマンの言葉に対して頭を捻るガイン。どうやら彼にはロイマンの発言を理解することが難しいようだ。まぁ、私もあんまり理解できていないが。
一方、私達と比べて頭の回るルイラーはロイマンの話を頭の中で上手く嚙み砕いたのか、ロイマンに質問をする。
「分からないなロイマン。『覚悟』の種類が異なることは理解したが、一体それがどう影響する」
「そうだな・・・。前提としてこれは俺の経験則だが、『命を懸けて戦う覚悟』を抱く者が瀕死の状態に陥った時、心のどこかで死を許容してしまう。命を懸けているのだからこういうこともあるのだと、そう心のどこかで思ってしまうんだ。そして、その僅かな許容は死に直結する。だが、『冒険をする覚悟』を抱く者は違う。目的のためには死など一切許容しない」
「ゆえに、ミーシャは生き残る可能性が高いということか・・・」
「俺個人はそう考えている」
目的のためには死など一切許容しない、『冒険をする覚悟』、か・・・。師匠、どうやら私は、少しは成長できているようです。
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