第3話

「―――作戦とは、勇者を含めた少数精鋭による一点突破。それによる魔王軍四天王『遠雷のバーデンテ』の討伐だ」


 訪れる沈黙。酒場を支配する驚愕、そして―――拒絶。


「おいおい、遂にロイマンの頭がいかれちまったようだな。まぁ一か月も戦っていれば仕方がねぇか。誰かあいつの頭にポーションかけてやってくれよ」

「ガイン、俺は冗談を言っているわけじゃない」


 ロイマンとガインの視線が交錯する。


「・・・ってことはあれか?俺たちの命はそんな馬鹿げた作戦に委ねられたってことか?」

「そういうことだ」

「ふざけんじゃねぇ!!何のために一か月耐えてきたと思ってるんだ!!参謀本部は余程の馬鹿揃いらしいな!」


 ガインが激昂する。彼は頭に血が上りやすい性格ではあるが、今回ばかりは仕方がないだろう。一か月戦い続けた末に敗北寸前、最後に決行する作戦が少数精鋭の一点突破だ。正直現実的な作戦ではない。成功率はかなり低いだろう。

 ガイン以外にも多くの冒険者達が不満げな表情を浮かべている。そんな中、ルイラーが口を開いた。


「一旦落ち着け、ガイン」

「はっ、この状況で落ち着いてられっかよ。参謀本部は俺達に大人しく死ねと、そう言ってるんだぜ」

「それは違う。参謀本部は頭の固い連中ばかりだが、決して馬鹿じゃない。それにこんな馬鹿げた作戦、あの勇者が許すわけがない。ロイマン、この作戦には何か『希望』があるんだろう?」

「・・・それは本当か、ロイマン」

「あぁ。ルイラーの言う通りだ。この作戦には『希望』がある」


 ロイマンがルイラーとガインの問いに頷いた。どうやらこの作戦には何か勝利に繋がる『希望』があるようだ。その『希望』とはいったい何なのか。ロイマン小隊の全員がロイマンの次の発言に注目する。そして、ロイマンは作戦の詳細について話し始めた。


「勇者を含めた少数精鋭による一点突破。この作戦に変わりはない。しかし、目的は『遠雷のバーデンテ』の討伐だけではない」

「何か別の目的があるってことか。もちろん、その別の目的とやらを聞いてもいいんだよな」

「・・・この『ヘールベール戦線』において、俺達人類共同戦線が押されている理由が何か分かるか?」


 突然のロイマンの問い。それに対して即座に答えることができたのはルイラーのみだった。


「異常なまでのモンスターの統率力。これが俺達が追い詰められている原因なのは間違いないな」

「そうだ。第三魔王軍との戦いにおいて、それこそが最大の難点だ」


 言われてみれば確かにそうだ。モンスターがまるで人間のように隊列をなし、互いに殺し合うことなく人間のみを襲う。その異常なまでの統率力に私達は押されていたんだ。

 しかし、今この話をするということはもしかして、その統率力をどうにかできるということなのだろうか。私と同じことを思っていたのか、ガインが同様のことをロイマンに質問した。


「つまりなんだ。その難点を解決することが別の目的ってことか?」

「その通りだ。勇者パーティの魔法使い、賢者カーミラによって『遠雷のバーデンテ』がある魔道具を使ってモンスターを統率していることが判明した。つまり、今回の作戦の目的は『遠雷のバーデンテ』の討伐およびその魔道具の破壊だ」

「なるほど。それによりモンスターの統率力を低下させ、戦力を削ぐということか」

「魔道具を破壊すればモンスター同士での殺し合いが発生し、隊列も崩れるだろう。まぁその分何が起こるか分からないというデメリットも存在するが、少なくとも戦力を削ぐことはできる。参謀本部の狙いはそれだ」

「・・・確かに、僅かな『希望』はあるな」


 酒場にいるロイマン小隊の冒険者全員がその『希望』を感じたのか、全員の瞳に僅かな光が宿った気がした。それを確かめるかのように一度酒場全体を見渡したロイマンは、再度口を開いた。


「さて、本題はここからだ。この作戦を実行するにあたって、勇者パーティと共に作戦に参加する者を有志で集うこととなった。この作戦の極めて高いと予想される死亡率に対する特別な措置と言えるだろう。そこで問おう。この小隊から作戦への参加を願う者はいるか?」


 ロイマンのその問いに対する答えは―――。


 ―――静寂。


 極めて高い死亡率という言葉を聞いて、誰もが口を閉ざすこととなったのだ。


「そうか。では、この小隊からは「ロイマン」・・・ミーシャ?」


 私はロイマンの言葉を遮りながら立ち上がった。酒場にいる全員の視線が私に集まるのを感じたが、そんなことは全く気にならなかった。むしろ、珍しいロイマンの驚いた顔が印象的であった。

 ロイマンと目が合う。そして、私は口を開いた。


「―――私が、ミーシャ・ローテルが作戦に参加します」

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