第2話

 城塞都市『エイルアーン』。堅牢な城壁による高い安全性が売りであったこの都市だが、今や見る影もない。第三魔王軍との戦闘の余波により城壁は所々崩れ去り、都市内の建物も幾つか倒壊してしまっている。

 また、すでに住民の姿はなく、未だに都市内にいるのは冒険者や軍人、サポートに名乗り出た有志のみである。

 このように半ば人類共同戦線の基地と化してしまった『エイルアーン』の酒場にて、私は今休息をとっている。酒場と言っても酒は出ないし碌な食事も出ない。ただ栄養食を頬張りながら横になれる場所だ。


「いったいいつまで続くんだろうな、この戦い」


 私の隣で槍の整備をしていたルイラーが疲れた表情でそう呟いた。彼も一か月続く『ヘールベール戦線』での戦いに飽き飽きしているのだろう。疲労も溜まっているようだ。

 彼のその呟きに対して栄養食を食べていた戦士、ガインが揶揄うように返答した。


「おいおいルイラー、そんな弱気なこと言ってんじゃねぇ。俺を見習え、俺を。この勇敢な戦士ガインをな」

「何が勇敢だ。お前も同じようなことを言っていただろう」

「はっ、記憶にねぇな」

「ミーシャ、お前も聞いていただろう。ガインがなんて言っていたか思い出させてやれ」


 突然話を振ってきたルイラー。せっかくなので私はルイラーのそのフリに全力で応えてみることにした。


「分かりました。えーっと確か・・・『くそっ!もう一か月だぞ!!いつまで戦い続ければいいんだっ!!もう助けておくれよ、ママ~!!』、でしたっけ」

「その通りだ。まったく、その年になっても母に泣きつくなど・・・ガイン、お前はいい加減親離れをしたらどうだ」

「いやそんなこと言ってねぇわ。少なくともママだけは言ってねぇ」


 そんなくだらなくも愛おしいやり取りをしていると、酒場の扉が開き、真剣な表情を浮かべたロイマンが入ってきた。彼のその表情から小隊に向けて何か知らせがあるのではと察した私達は、自然と雑談を中断しロイマンに注目した。

 いや、私達だけではない。この酒場にいる人間全員がロイマンに視線を向け注目していた。なぜならこの酒場はロイマン小隊の休憩場であり、酒場内にいる人間はすべてロイマン小隊に所属する冒険者だからだ。

 そして、案の定ロイマンは小隊に向けて話を始めるのであった。


「皆、話を聞いてほしい。重要な話だ」


 ロイマンのその言葉に私は身を引き締める。いったいどのような話が始まるのか。不安と期待が入り混じり、酒場には緊張感が漂う。


「現在、人類共同戦線は第三魔王軍に押されている状況だ。おそらくこのままでは一週間ほどで我々は敗北し、全滅するだろう」


 ―――やっぱりそうか。


 そのような感想が私の脳内に浮かんだ。薄々気付いていたんだ。人類共同戦線は第三魔王軍に押されていて、このままでは全滅するだろうと、私は薄々気付いていた。

 いや、私だけじゃない。おそらくロイマン小隊に所属する全員が勘付いていたことだろう。だが、こうもはっきり言われると流石に衝撃を受けたのか、多くの冒険者が顔を歪め、何とも言えない表情を浮かべていた。

 しかし、その沈んだ空気とは反対に、ロイマンは力強い声で話を続ける。


「だが、そんなことを許すわけにはいかない。敗北を易々受け入れるわけにはいかない。そのため、ある作戦が決行されることになった」

「作戦だと?」


 ガインがロイマンの言葉を復唱するかのように呟いた。その呟きには『この状況を覆せる作戦が本当に存在するのか?』という意味が込められている。そのように私は感じた。

 他の冒険者達も半信半疑でロイマンを見つめている。そして、その視線に答えるかのようにロイマンは口を開いた。


「―――作戦とは、勇者を含めた少数精鋭による一点突破。それによる魔王軍四天王『遠雷のバーデンテ』の討伐だ」

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