転換期の不安

Hayoti

転換期の不安

 視界いっぱいに広がる空。

 青い。

 雲が流れていく。

 ああ。

 マズい。

 とんでもなく暇である。


 ちょっと前の僕なら、草むらで寝転がっている今も、暇を持て余していなかった。妄想したり、アイデア出ししたり。人の三大欲求を容易に趣味へ移行できていた。

 僕は覚えている。

 今のように、通り過ぎていく雲を見て、前は脳内に、次の一文が過ぎっていた。


   雲が疼く


 日本語としてはおかしいけど、視覚も響きもきれいだ。加えて心の中で唱えたときの美的感覚と、声に出したときの違和感。人間の頭って、本当に都合よくできているんだなぁ、って思い知らされたっけ。

 でも、今の僕には思いつけない。

 ほかにも、なんだっけ、ほら。


   桜が錆びる


 こっちにはちゃんと意味がある。

 春に咲く桜の下を、僕は歩く。目の前を桜の花びらが通り過ぎていく。僕は傷一つない花びらを持って帰りたくて、上から足元へ出荷されていく新鮮な花びらを捕まえようとする。そして大抵、僕が桜に弄ばれて、一つも捕まえられずに水路へ落っこちそうになる。それでもほしいから、足元に落ちている花びらの中で、きれいなものを探す。上の桜、中の花びらとは裏腹に、腐るように茶色くなっているモノ。人に踏まれて醜くなっているモノ。


 ───青い。

 雲がハge……流れていく。

 あぁ。

 ダメだ。

 僕自身も「暇」になってきている。


 僕には趣味がないわけではない。

 夢なんて、もうとっくに持っている。

 ほんの少し前まで、勉強そっちのけで夢中になっていたもの。

 朝に弱い僕が、それをしようと思った瞬間、目が覚めていたもの。

 家族や友達には恥ずかしくて言えないけど、将来は夢をかなえて大物になるんだって、ご先祖様と神様と約束したもの。

 僕の人生の一部になるはずだったもの。

 なのに。

 今の僕の、それに対する高揚が薄らぎつつある。


 あれ、なんか違うな。

 つまらんというか、無色透明何味ですかみたいな。

 今の僕の、そ───

 のののの、うるさいな。

 今の。

 今。

 今の、

 イマノツルg……

 違う。

 今、僕のそれに。

 ?

 意味が変わっちゃうな。

 今、僕の、それに対する……

 点(、)が多くなるが許してくれ。どこぞの協会さん。

 今、僕の、それに対する高揚が。

 ここなんだよ。

 薄い。

 なんかこう……入れたい。

 高揚の蝋燭が消えつつある。

 違う。

 マイナスなイメージじゃなくてさ。

 自然現象───老化みたいな。

 あれ、あんまり変わんない?

 脳内だと公園のふわふわドームが平坦になっていく感じ。

 押しつぶされるとか、圧力を感じるわけじゃないんだよな。

 んー……いい語句ないかなぁ……

 削られる、は硬いな。

 ……風化……風化だ!(?)

 今、僕の、それに対する高揚の山が、風化しつつある。


 あーすっきりしたーー。

 ……あれ、案外戻ってるんじゃない?

 いつも手書きで書いてたけど、パソコンは有能だな。

 書きたいことがスラスラ出てくる。

 人生の転換期には、好きだったものに興味がなくなるっていうけど、七割正解で残りは……どぉだろ。ハハッ。

 よっこいしょ。

 さて、母さんたちは元気にしているかな。

 まだホームシックになってないって、自慢しなきゃ。

 部活もバイトも、早くしたいなぁ。

 ああ、授業開始日が待ち遠しい。

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転換期の不安 Hayoti @HaruYoruTiru1

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