『■■』

「今から検査を初めます。よろしいですか?」


 戦艦へ戻ると私とジュナは、軽い治療を受けてからMRIに似た機械に寝かされた。

 これで因子が体にどれだけ侵食したか確認できるらしい。医療用自動人形オートマタいわく「任務中、お二人から検出された因子エネルギー反応が、非常に高かったので念の為」ということ。


「大丈夫。いつでも始めてくれ」

「承知いたしました」


 電子音が鳴って、私の体が横たわっているベッドが巨大な箱の中へ移動してゆく。

 箱の中は真っ暗だ。何も見えない。

 どうせ何もみえないので、検査が終わるまで、目を閉じることにしよう。



*



「やっほー、こんにちはー!」


 頭上から男性の声が響く。

 目を開けると、黒髪のロングヘアーが揺れるが私の顔を除きこんできた。どうやらこの女性に膝枕されているらしい。


「え……誰?」


 女性(?)は茶化すような口調で、返答する。


「ちょっとー、そんなドン引きしたような顔しないでよぅ。ボクはただ、検査機を通して君に話しかけているだけだぞぉー」


「いや、意味わからないんだけど。貴方誰? ここはどこ?」


「ここはボクが作った電子空間だよ。君が今検査をするために入っている機械を通したて、この景色を見せているのさ。ボクの正式名称はちょっと長いよなぁ……だから、今は、こう名乗っておこう。全知の神とね。ボクは何でも知っているお兄さんさぁ。褒めてくれたまえ。称えてくれたまえ。そして、気軽に全知の神と呼んでくれたまえ」


「気軽に呼べる名前じゃないじゃん!」


 胡散臭い。話し方がなんかウザイ。

 そして、話が無駄に長い。

 少なくとも、私が転生してから会った人物の中で一番第一印象が最悪の存在だ。


 というか、性別はどっちなんだよ。


「全知の神が、なんの用?」


「ボクの目的は二つ。一つ目は、君に礼と詫びを言いに来たのさ」


「礼と詫び……?」


「そうそう。ほら、帝国の一部幹部が君を始末しようとしたでしょ。本当に済まない。あれは演算calculation外の出来事だった。つまりボクの落ち度だ。深く詫びよう。君が帝都に戻ったら相応の償いをするつもりだ」


「……貴方は誰?」


「その質問はさっき答えたよね?」


「そうじゃなくて……貴方の身分、役割は何?」


 こいつは帝都に戻れば私に相応の償いをすると言った。すなわち、幹部よりも上の立場に君臨する存在だ。さらに、彼女(?)の様子から私を手放したくないように見える。


 女(?)は笑う。

 笑うだけで、何も答えてくれなかった。


 その目は、何もかも見透かしているようで、まるで森羅万象を観察して箱庭のようにみなしているようで……怖くて、怖くて、怖くて、怖くて――それでもなぜか懐かしい。


「二つ目は、君に一つお願いをしたい」


「謝罪の直後に頼み事か?」


「あははっ、ふてぶてしいにも程があるよね。でも、ごめんね、今は時間がないんだ。それで、二つ目のお願いなんだけどね。一度父親と向き合って話をして欲しいんだ」


「父親って……最高司令官の方?」


「そう。他人の家族に口出しするべきでは無いと分かっているけどざ、これでもボクとアイツは幼なじみなの。しかも君達二人ったら何から何まですれ違ってばっかりで、見ていてじれったいたら……」


「断る」


「おや……?」


「絶対に断る。絶対に嫌だ」


「これは困ったね。本当に困った。どうしてそこまで拒否するんだい?」


「平気な顔して非人道的な実験をしてきた時点で、人間として嫌いだし……なにより、父親だと思えない。だって何もしてもらってないから」


「あーあ、やっぱり、こうなっちゃうか。あのね、アステルちゃん。君が今日まで無事に生きてこられたのはアイツが裏で色々手を回していたからだよ」


「それは成功作の私に死なれたら困るからだろう?」


「それもあるね、否定しない。でも一番の理由は君が愛娘だからだよ。君はさっき『何もしてもらってない』と言ったよね? 生まれてきた時から縛られた人生を歩んできたアイツにとっては『何もしない』ことが最大の愛情だったのだと思う」


 目を閉じる。

 腹と胸の奥から、ふつふつと熱が湧いてきて、怒りに似た感情で、体が熱くなる。このままでは抹消神経まで焼き切れてしまいそうだ。


「ずいぶんと自分勝手な人だね」


「えーと、修正しよう『基本は口を出さないで自由にやらせるけど、必要になったら手を出す』それがアイツのスタンスだよ」


「どっちみち、同じじゃないか」


 体を起こす。

 薄着身悪い瞳にずっと見つめられていると、頭がおかしくなりそうになる。


「アステル。詳しい話は、また後にしよう。今は疲れているだろう? 疲れている時は休息が必要だ。それが、精神的な疲れであれ、肉体的であれ、休憩とは生命体が生きる上で、必須事項だからね」


「また会えるのか?」


「もちろんだもの。また近いうちに会いにくるさ。今は落ち着いて、考えをまとめて。また会った時に好きなだけ質問してくれ」


「分かった。次会った時は一から十まで質問させてもらうから」


「おっとー、お手柔らかにしてくれよ。ボクは、ほぼ全知だけど、全能でも万能でもないからねぇー」


「はいはい」


 体を起こし振り返ろうとする。

 しかし、彼女の姿を視界が捉えるより先に、視界が再び暗転した。



*



「検査は終了いたしました。因子の浸食度は上昇しておりますが、健康面に問題はないかと」


「分かった。もう検査室から出ていってもいいか?」


「構いませんが、安静にして下さい」


 検査機から降りて、出口へむかう。傍で機会やデータを確認している自動人形オートマタは、私の姿などまるで見えないように、もくもくと作業していた。






 




 

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【6500pv感謝】星々の裁定者〜SF世界に転生したけど、宇宙船とかよく分からないので魔法で殴ろうと思います 白鳥ましろ @sugarann

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