52話 : 気づき
ラメッタとクレーエンは馬車でエアデ王国へ帰る。クレーエンもラメッタも馬の扱いが上手かった。
帰りは二人だった。
従者も傭兵もバオムにいる。
傭兵に関しては、これから貿易が盛んになり商人や旅人の行き来が増えて仕事があるかもしれないと残るらしい。
たぶんラメッタが残した食事などが気に入ったのだろう。
エアデ王国から帰還の命令もないそうだ。
「あっさりとして平気な感じで帰るんだな。なんか、チルカ姫もベリッヒ姫も泣いてた」
「また会えばよいと言ったのはクレーエンじゃろ? 不老不死になって一緒にいてやるからって。信じておるぞ」
「今さら騙すつもりはないよ。けど、もう少し名残惜しい感じでもって」
「寂しいのか?」
「ああ」
馬車を止めて。
干した肉を齧りながら、果実水を飲む。
ラメッタはクレーエンの背中にもたれた。
「不死は不気味じゃろ、だからなかなか言えなかった。今はどう思っておる?」
「おかげでプローベを倒せた。良かった。それに、俺は不老不死になってやるんだ、怖いとか不気味とか感じてない」
「会ったときに言っていてもか?」
「試しに首を斬るかもな」
「ひいっ!」
ラメッタはクレーエンから離れる。クレーエンがおかしくて笑うと、ラメッタも釣られて笑う。
「バオムの人と傭兵とクレーエン、そしてあのガキしかわしの不死は知らぬ」
「ん? ガキ?」
「ガキというかくそじじいじゃ!」
「誰だ?」
「わしの犯行現場を見てたやつじゃ。わし、見たよって」
「分かった」
なぜ世界樹の呪いが不老だと分かるか? それは何年経っても成長しないからだ。
なら、不死は?
死ぬ場面があっても生還したのだろう。
クレーエンが聞いていいのか迷っていると、ラメッタは笑顔のまま続けた。
「なかなか昔じゃがわしとガキは森で遭難しての。魔獣に襲われて、それで庇ってわしの体は真っ二つ! めちゃ痛かったわ。でもすぐ再生して不死って分かって」
「仲良かったのか?」
「家が近いからの。そのときは魔道具の師匠に助けてもらった。わしが住んでいるのは当時の師匠の家じゃ。雨の研究も師匠から引き継いでおる」
「そっか」
「あのガキ、今は孫もいるらしい。今でもクソガキじゃ。それに、わしの不老不死を自慢したかったとか、すごさを教えたかったとか。証人として出てきたのも処刑でわしの不死を周りに見せるためじゃろうな、あれ痛いから」
「ラメッタを一人にしたくなかったのか」
「死刑だけは嫌じゃろ、せめてもっと格好いいのが良い」
「罪人としてより英雄として不老不死がばれるのがいいよな、そりゃ」
「だからいつまで経ってもクソガキじゃ」
馬を動かして、エアデ王国に着いた。
すぐに王に迎え入れられる。
「世界樹の罪を許すつもりはないが、四天王の討伐はよくやった。クレーエンに地位を与える」
淡々と告げられて。
ラメッタとクレーエンは騎士団の元へ向かうことになった。
「ラメッタ、どう思う?」
「褒められるんじゃないか?」
「楽観的な」
「おぬしはたぶん、厄介じゃない。厄介なのはエアデ王国そのもの。きっとおぬしは、」
練習場に着く。
そこには騎士が集まっていて。
クレーエンを見つけると寄ってきた。
「クレーエン! よくやった」
魔王軍四天王の討伐。
その偉業を達成した青年に称賛と、
「そっか。勘違いか」
愛を。
クレーエンは騎士に頭を撫でられる。
騎士団長はクレーエンを見ると涙を流した。
クレーエンは頑固で強者の認識しかなかった団長の背を伸ばした涙の姿に胸がきゅっとなる。
「クレーエン、正式に騎士団への入団を許可された。捨て子ではない、これからは正式に仲間だ」
「なんだよ、それ。最高じゃねえか」
捨て子は騎士になれない。
それだけのことだった。
クレーエンは愛されていた、でも愛を示すためには困難があった。
魔王軍四天王を倒した。
「ということで、ラメッタ。よくやった」
「ふふ、そうじゃろ!」
騎士団長に言われて、ラメッタは胸を張る。
「ということで死刑執行は延期、牢へ連れていく」
「はあ? 嫌じゃ、嫌じゃ。死刑は嫌じゃ!」
ラメッタは喚く。
地面に体を着けてジタバタと手足を動かす。その様子は陸に揚げられた魚のようだ。
「嫌じゃ! 死刑になるのも、クレーエンと離れるのも」
「らしいぞ、クレーエン。手懐けたな」
「いや」
「変わったな」
「そうかも」
ラメッタはスッと立ち上がると騎士団長に迫る。
「わし、クレーエンに変えられたもん!」
「分かった。クレーエン、せっかく正式に騎士団に入団することになったが。引き続きラメッタの監視をしろ」
「ああ。こいつ、何をするか分からないからな」
「ディーレ姫、クレーエン、すぐ自己犠牲精神で死にに行くやつに言われたくないわ! おぬしが死んだら誰がわしを監視するんじゃ?」
「生きてるからいいだろ」
「次はないぞ! この!」
騎士団長は自分の持ち場に戻る。
そして、呟く。
「クレーエン、そこが居場所だ」
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