43話 : ラメッタ側の話
ラメッタは息を切らしながら走っていた。
クレーエンは四天王幹部『均衡亡きファグロ』と戦っている、大丈夫だろうか?
いや、きっと勝ってくれるはずだ。
ラメッタが作った魔剣もある、バシュルスの戦いからさらに強化した。
それよりもバシュルスを探さなくてはならない。
あの魔族の呪いである空間消去は理解しなければ即死攻撃になる。
「どこにいるんじゃ、あの魔族」
そのとき爆音がした。
黒い煙が空に上がる。
真っ赤な空に不穏な黒が浮かぶ。
「戦っておる。あれがバシュルス?」
空間消去という最強の攻撃を持つ相手がわざわざ魔法の打ち合いのような轟音を立てて戦うだろうか?
ラメッタは音の発生源に辿り着く。
複数の魔族とトゥーゲント連合が戦っていた。
長であるシュヴァルツやバオム入国時に誘拐してきたブラオンも戦っている。
クレーエンほどの特注ではないが、ラメッタが使った魔剣を使っている。
ラメッタが世界樹に魔法薬をかけたために魔法がほとんど使えない状況になったのだが、トゥーゲント連合の人々は当然知らない。
ラメッタが現れると巻き込まないか心配しながら、ラメッタが作った魔剣の良さを見せようとラメッタを見てから攻撃している。
その度にラメッタは胸を痛ませた。
「ラメッタ様、こちら戦況は好転中ですが。クレーエン様がどうかしましたか?」
城を出たときクレーエンとラメッタは一緒にいた。
シュヴァルツは今ラメッタしかいないことが気がかりらしい。
ラメッタは察して微笑む。
騙すのは酷だが不安にさせるくらいなら嘘をついた方が良いのだ。
「クレーエンは、こっちは一人で良いから強い魔族を探して加勢しろとのことじゃ」
「そうですか。ならオシュテン様です」
「オシュテンは何をしている?」
「『所定亡きバシュルス』を名乗る魔族と戦っています。俺たちでは歯が立たないので」
「あの馬鹿。どこにいるか分かるか?」
「はい。ですがまだ魔族がいて行けません。危険です」
「わしは行くぞ」
「分かりました。ブラオン、ヴァイスはラメッタ様をお守りしてオシュテンのところまで届けろ。グリューンは顔色が悪い、もう少し戦ったら城で休めッ!」
頬の痩せた男グリューンは、弓を引いて魔族を攻撃していた。
目の下にはクマもできている。
ラメッタは心配になったが。
「グリューンは通常運転だ。あれでも動けるうちの幹部。ラメッタ様は気にせずに前へ」
「あ、ああ」
いくら長であるシュヴァルツに言われてもグリューンが元気そうに見えない。
足はフラフラしてるし、弓矢は敵に当たってるけど、手も足も震えているし、敵の魔法攻撃は避けられているけど、ともかく外見が危ういように見えてしまうのだ。
「あう」
筋肉ムキムキで肩幅も広い人物はヴァイスである。
意外にも声は小さく聞こえない。
「行きましょう、ラメッタ様」
「頼むぞ、本当に。ブラオンにかかっておるから」
実際にトゥーゲント連合の幹部と行動することになって心配になる、ラメッタだった。
しかし強さは文句なしのようだ。
ブラオンが魔剣で魔族を斬り、ヴァイスが近づく相手を自慢の怪力で投げ飛ばす。
グリューンはシュヴァルツとともに次々と道を開ける。
「強いな」
「ラメッタ様、俺たち幹部だって戦えます。シュヴァルツ様、オシュテン様、クレーエン様が異常に強いですが」
「そうじゃな。失礼した」
ラメッタは駆ける。
ヴァイスがラメッタに迫る魔族を撃ち、ブラオンが前にいる魔族を倒す。
そうしてようやく広い道へ出た。
稲妻が見える。
「ブラオン、ヴァイス下がれ。ここからはわしとオシュテンで戦う。こちらに魔族が来ないように頼む」
「あう」
「分かりました」
ブラオンとヴァイスはラメッタに頭を下げると道を引き返す。
ラメッタを見つけた黒髪ショートカット、真っ白な瞳の少女は日傘を上げて微笑む。
ゾッとした。
がオシュテンはせっかく大魔族と戦っているので鼓舞した方が良いと考える。
「オシュテン、わしが来た」
「愛しのラメッタちゃんだね、嬉しいよ。こいつだよね、話してたのって」
「あら、かわいいが増えた。改めて、『所定亡きバシュルス』だよ」
バシュルスを見てラメッタは固まる。
それもそのはず尾を生やして一つ角を持つ魔族と、筋肉質の女が重ならない。
今の姿が本来のもので、前に会ったのはなり替わり状態だったのだ。
「オシュテン、その通りじゃ」
「通りで強いわけだ。クレーエン兄さんの言う通りだね、僕はずっと防戦一方だよ。ところで、クレーエン兄さんはどこよ」
「『均衡亡きファグロ』やらと戦っている」
バシュルスはラメッタの言葉を聞いて高笑いをする。
人差し指を伸ばして、手を唇に付けて。
「あははは。ファグロ様と勝負になっていると? あの方は我が軍で四天王様の次に強いから。本当に愚かで面白い」
「そうかの? クレーエンは絶対に勝つ。わしが見てきた七十八年で一番強いからの」
「ガキが意味不明なこと言ってるね!」
バシュルスは一瞬消える。
そして、オシュテンが蹴られた。
オシュテンは傘の先から翼を出して勢いを殺す。
「悪いね、ラメッタちゃん。僕は苦戦している」
「まだ勝てると? 面白い」
オシュテンの傘から赤い光が糸のように伸びていた。
大蛇の加護が既に最終形態になっているらしい。
天から降る第一形態については、空間消去によって簡単に防がれたのだろう。
「ラメッタちゃんの話を聞いて、クレーエン兄さんが来ないことだけは分かった。僕がバシュルスは倒さなきゃ」
「わしが来た。オシュテン、わしと二人で倒そう。あいつを倒す方法をわしが見つける」
「僕はラメッタちゃんも庇いながらか。それでも余るくらい役立ってくれるわけ?」
「もちろん」
「その意気込み嬉しいね。僕と二人で撃とう、僕だってバオムを好き勝手された恨みがあるんだ」
日傘をバシュルスに向けた。
白い瞳が魔族を睨む。
ピアスが擦れ合って音を鳴らした。
微風が吹く。
オシュテンは背中に熱い汗を流した。
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