16話 : フルーツ栽培
ラメッタがいるとこ、喧噪あり。
トゥーゲント連合で管理しているドーム型の施設へ、三人(ラメッタ、クレーエン、ディーレ)はやって来た。
連合の人々はラメッタを見ると嬉しそうに駆け寄る。
瑞々しい赤色のフルーツをラメッタに渡していた。
ラメッタはフルーツを齧る。
緩んだ頬を手で支えるようにして。
「もう、おぬしら優秀じゃなあ。美味い美味い、これじゃよ、これ。できる人は違う、これなら大量に栽培してもいい」
「あの、ラメッタ様に褒められるなんて、僕、頑張って良かったです。食料や水資源の問題も大幅に解決しましたし、どんどん豊かになっていて。今楽しいです」
「成果が目に見えて増えるとな。簡易的な魔法井戸も完成したし、良くなってきたの」
魔法井戸とは、水を貯める装置で、一種の転送装置のようなものだ。
水が豊富にあるところから魔道具を介して輸送する。
水を気体にした後、分子同士を直線状に並べて魔力に閉じ込める。
ラメッタが開発した特殊な技術を採用しているが、一番の欠点は、所詮輸送技術であることだ。水を無から作り出しているわけではない。水はエアデ王国から引いてきているのに過ぎない。ただし、物理的な管が必要ないため、短期間で作ることができたのは利点である。
「ラメッタ様、これも」
「ええの。美味い!」
「ラメッタ様」
「よしよし、良くやった」
「ラメッタ様、すみません」
「これはの、温度をもう少し下げた方が良くての。湿度も下げて。これはいろいろ特殊な条件で栽培っぽいから、魔道具を改良した方が良さそうじゃな。報告、大感謝じゃ」
「ラメッタ様」
「ラメッタ様、どうですか?」
「自分でここまで進めたのか、今度褒美をやる。でも目の下にクマができておるから休むべきじゃな」
「でも」
「無理は良くない」
「自分の手でいろいろできていくのが楽しくて」
「そうじゃろ?」
「ラメッタ様」「ラメッタ様」「ラメッタ様」
ラメッタはトゥーゲント連合の人たちに持ち上げられ、何度も天井に投げられていた。
「ラメッタ様、万歳」「ラメッタ様、万歳」「ラメッタ様、万歳」
「もう、モテモテですね。私のラメッタ様なのに、妬いてしまいます」
ディーレは悔しそうに拳を握る。
クレーエンは苛立って背中の大剣に手を添えると。
殺気を感じたラメッタが額に汗をかいて。
「そこまでじゃ。わし用事があって来たのじゃから」
ようやく下ろしてもらった。
「お菓子の開発や、新たなフルーツの開発、現状把握のためにもらいたい。収穫は三人でやるから仕事に戻ってくれたらいいが」
「はい、私の出番です」
ディーレは軍手を引っ張って指の奥まで入れる。
「クレーエン、切るのは得意じゃろ?」
「そうだが?」
しかし、収穫のとき。
ラメッタは涙目になって叫んでいた。
クレーエンは鋏を小刻みに震わせながら、実と茎の境目で切っていく。
「あ、また茎を切って。また実が成る予定だったんじゃぞ! この殺し屋」
「フルーツだが? 細かい作業苦手なんだよ」
「わしのが、みんなの努力が。食べ物は大事にしなきゃじゃぞ」
「急におばあちゃんが言いそうなことを。七十八才を感じる」
「そうじゃから。それよりもちゃんとよく見るのじゃ」
「ほい。できてるだろ?」
「そうじゃな」
「あ」
「あ、ああああああ。また茎を切っておる、この悪魔!」
クレーエンは不器用だった。
鋏で茎を切ってしまい、茎が折れるものもあれば完全に切断されているものもある。
一方で、ディーレは。
「ラメッタ様、むふふ。ラメッタ様、むふふ。ラメッタ様、むふふ」
テンポよく収穫しながらルンルンであった。
収穫を終える。
ディーレとクレーエンは達成感を感じて輝く汗を布で拭う。
ラメッタはひどく疲れた様子で、フルーツ搾りたてのジュースを飲んでいた。
木製の長椅子で仰向けになって。
「クレーエンは駄目じゃ、はい」
先ほどの悪夢を反芻していた。
そして。
籠いっぱいのフルーツを持って建物を出る。
「クレーエン、もう一か所あるが何もしなくていいぞ」
「分かってる。悪かったって思ってる」
「ラメッタ様、絶叫してましたが大丈夫でしたか?」
「クレーエンが茎ごと切っていたからの。頼れるにはディーレ姫だけじゃ」
「はい、頑張ります」
「健気じゃな、ディーレ姫は」
「クレーエン様、あまり気落ちしないださい。人には得意不得意がありますから」
「分かってる」
「クレーエン、拗ねたの? ほら、ディーレ姫の言うように人には得意不得意があっての」
クレーエンは俯いて歩いていた。
もうすぐ次の施設に着く。
「クレーエン、元気を」
ラメッタが言いかけたときだった。
クレーエンは口角を上げて剣を抜き、ラメッタに迫る。
ラメッタは驚く間もなく目を瞑った。
ディーレは咄嗟にラメッタの名前を呼んで手を伸ばす。
ラメッタの顔のすぐ横をクレーエンの刃が過ぎた。
「おい、クレ……」
ラメッタがクレーエンに注意でもしてやろうと声に出すと、クレーエンは魔剣に刻まれた風の魔法で加速してラメッタの背後に消えた。
「クレーエン、いくら拗ねたからって剣は」
ラメッタは振り返って。
クレーエンの剣の先に、それを受ける剣があることに気づく。
「ラメッタ、ディーレ。俺はこっちの方が得意だな」
クレーエンが力を込めると、受けていた男は吹き飛ばされる。
地面に着く。
男は手で砂を握る。
諦めたように俯いた。
「なんだ、この雑魚」
クレーエンが言う。
鈴の音が鳴る。音が近づいてきた。
「僕の部下が弱すぎてごめんなさいね」
「何者だ?」
「僕はそろそろトゥーゲント連合をどうにかしたいって思ったからわざわざ来ちゃった。名前は、」
「オシュテン。オシュテン派の総帥」
自己紹介の前にディーレが答える。
右耳に金色の短冊のような装飾のあるピアスを付けている。
真っ黒な髪、真っ白な瞳が特徴的だ。
日傘を差している。
身長は部下より一回り小さく、ラメッタよりは高いものの、ディーレと同じくらいだ。
「愛しのディーレ様。僕の相手は誰? ディーレ様? ベリッヒ様? チルカ様?」
「ラメッタ様、クレーエン様、逃げてください。オシュテンはトゥーゲント連合と同程度の規模の組織オシュテン派をまとめていて、バオムで最も関わってはならない人物です」
「そんな言い方はひどい。僕が組織をまとめてなかったらとっくに国家転覆だよ? そこのとこ、分かってる?」
オシュテンはディーレに寄って頬に触れる。
ディーレは睨みつけて、その手を振り払った。
「約束は? ねえ、三姫の一人をくれるって話は?」
「渡すとしたら私ですが、信用できません。もし本当にまともな組織になるのであれば、私はなんでもできます。でもあなたは」
「声が震えている。ディーレ様、怖いのに頑張るところも魅力的。僕のものになってよ、いや、なるしかないでしょ」
「ですから私は決して屈しません」
「そっか。なら、オシュテン派とバオム国、トゥーゲント連合の全面戦争ってことかな?」
オシュテンは笑う。
ディーレは誰が見ても分かるように震えていた。
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