17話 : 総帥オシュテン

 バオム国は現在、土地が痩せた影響で食料問題や水資源などの問題に悩まされていた。

 そこで、魔王軍と戦うことで、エアデ王国からお金を得ている。

 単純な主従関係だけでなく、経済への完全な依存から、バオム国はエアデ王国に逆らえないでいた。

 しかし、国民からの不満は少なくない。

 国民の大多数がテロ組織に所属するようになり、中途半端に国民の話を聞くことで、貴族・王族も前線に出ることになった。貴族・王族も戦うとのことで指揮をする者がなかなかいないため、国王直々に指揮官をすることになる。

 現在、状況は不明で、国王らの行方も分からず、バオム国の主は一時的に三姫らで務めているが、国民はテロ組織に所属しているため形だけであった。


 エアデ王国からやって来たラメッタとクレーエンの力により、二大テロ組織の一つであるトゥーゲント連合と姫らは手を組むことができた。

 そんななか、もう一つの巨大組織であるオシュテン派から襲撃を受けるのだった。


「オシュテン派とバオム国、トゥーゲント連合の全面戦争ってことかな?」

「魔王軍と戦うことが最重要です。バオム国内で揉めている場合ではありません」

「だからね、ディーレ様をもらって、オシュテン派とも仲直りでいいでしょ? 国はベリッヒ様たちに任せて、のんびり過ごそう。魔王軍なんてそもそもエアデ王国に向かって進軍してるから、本来バオム国としては放っておいても大丈夫だと思うけど」

「それは推測ですよね」

「事実だとしたら? ディーレ様は国民を売るんだ。まともに国を治められない王族は必要ないんだけどね」

「それに関しては」

「何も言えないんだ。国民様とろくに話しもしてくれないと」

「まともな組織になれば私はいくらでも聞きます」

「ん? ディーレ様かわいいけど、結構雑魚じゃん。頭も戦闘力も。国がめちゃくちゃになってもなお、よく王族だって誇れるよね? 図太いのかな。歴史では一度失敗した政府は作り直さなきゃ。ね?」

「私はまともならと」


 ディーレは必死に涙を堪えていた。

 オシュテンは楽しそうに続ける。


「いつまで大きなお城に住んで従者抱えてるの? 無能な王なら魔王軍の時間稼ぎをしてくれた方がね、お父さんみたいに」

「あなたはッ!」

「みんな国を思って、でも自衛しなきゃって思って組織に所属してる。なのに僕が悪いんだ、ねえ」

「私のことは好きにしてもいいです。せめてまともになると誓ってください」

「間違った人間が正しいかの判断ってできるものなの? 僕は分からないなあ。ねえ、ディーレ。お飾りの姫が。いつまでも手加減してくれると思ったら大間違いだよね」

「なら、私を殺しますか」

「甘い。僕ならベリッヒとチルカを殺す。君は独りになって、生かされるんだ。オシュテン派を舐めない方がいいよ? ね?」

「憎い」

「国民は無能な王が嫌いなのさ」


 オシュテンの後ろには数十人規模の部下が構えている。

 その集団から一人、オシュテンに近づいた。


「オシュテン様」

「なになに?」


 オシュテンは耳に手を添えて話を聞く。

 部下の話は周りには聞こえないほど小さい。


「分かった。ディーレを今日持って帰ろう。もちろん、要求は飲まない。ただ周りの人間を痛めつければいい。僕が憎いか? ディーレ、何もできない君が悔しそうにしてるの、結構好きなんだ」

「オシュテン」

「どうしたの? 真剣そうな顔で」

「誰にも手を出さないで。付いていくから」

「お? それはめでたい。なら、」


 オシュテンは咄嗟に下がった。

 大剣が目の前を薙いだ。


「勝手に進めるなよ、オシュテンかなんだか分からないが。俺はクレーエン、この国のルールが強さなら俺がルールだと思うんだが?」

「厄介だね、強く見える」

「強いからな」

「面白いね、対人戦は苦手かい?」


 オシュテンは日傘を閉じた。

 ピアスが赤く光る。


「大得意か得意なら、得意だ。だが問題はない」

「元気だね、羨ましいよ。こっちは夜ほど元気に動けないからさ」


 オシュテンはつま先を着けながら下がる。

 クレーエンが剣を振ると風で砂埃が舞う。


「全力じゃないのがちょと不便だ」


 稲妻が走った。

 オシュテンのピアスから、一閃が届く。

 クレーエンは剣から炎を出して払った。


「クレーエン様。オシュテン、クレーエン様はエアデ王国からの増援です。傷つけたらどうなるか」

「そう? 一体どうなるんだろうな。楽しみだ」


 稲妻が二本になる。

 互いに交わりながら軌道を変えて。


「ですから!」

「国を治められないから王国から増援。テロ組織っていっても元は国民なのにひどいね」


 オシュテンはピアスからの稲妻でクレーエンを翻弄する。

 クレーエンが跳んで地面から両足を離した隙に、オシュテンは日傘を広げる。


「俺がお前のための増援? 違うな。魔王軍のため、そしてお前よりも厄介な人間の子守りだ。お前では相手として不足」

「ふーん。よし、こうしよう」

「?」


 オシュテンの日傘の中心に小さな翼が生える。

 するとオシュテンは大きく後退した。

 部下に寄って指示を出す。


「逃げるのか?」

「まさか。仲間思いだからね、離れてもらうことにした」

「はは、部下の前で哀れな敗北はできないだろうな」


 戦いの中でクレーエンは違和感を感じ取っていた。

 ピアスも日傘も魔道具で間違いないだろう。

 しかし、高性能な魔道具だ。

 少なくともラメッタが作った魔剣とやり合えている。

 そんな魔道具が存在するのか?


「クレーエン、やつはおぬしと違う。全力ではないが魔法が使えるのじゃ!」


 ラメッタの声。


 クレーエンは稲妻を避けながら、オシュテンから距離を取る。

 オシュテンは日傘を閉じて鼻歌を歌う。

 瞬間、天からゆっくりと無数の赤い線が伸びる。


「僕の違和感はそういうことだったのか。魔法を失ったわけか。僕だってなぜか弱体化していた。ふうん、詳しいことは分からないや。でも、いっか」


 赤い線がラメッタに触れると、ラメッタに巻きついて拘束した。

 ディーレも拘束される。

 クレーエンは必死に避けるが、赤い線が太くなっていくと避けようがない。

 剣を当てても赤い線はどうにもならない。

 ついにクレーエンに絡まった。

 拘束されると力が抜ける。

 

 一方、日傘に触れた赤い線は成長しない。


「僕の加護だよ。危険を察知するとみんな拘束してしまう。そして抵抗できないように力が入らないようにしてしまう。この傘がないと僕でさえ捕まってしまうんだ。不便だよね」


 オシュテンはクレーエンに近づく。

 少し離れると、砂を摘まんでクレーエンの顔に掛けた。


「砂って目に入るとすごく痛いよね。そうは思わない」

「知るか」

「動けないくせに生意気だね」


 今度はディーレに近づく。


「楽しい?」


 ディーレは無言だった。

 自分のせいだ、俯きながらそう思う。

 

「あとは気にしてなかったけどもう一人いたのか。君は誰だ?」


 ラメッタの前で言う。


「魔道具職人のラメッタ。拘束弱めてほしいんじゃが」

「できない。僕の力ではないからね」

「呪いじゃな」

「加護だよ。まあ、きっと捉え方の違いだろうけどね。時間で拘束は解けるからね。で、ディーレ様、みんなやられちゃったよ、どーするの? 俯いたって仕方ないと思うけど」


 オシュテンは再びディーレの元へ。

 黙るディーレを見て、オシュテンはディーレの髪を掴んだ。


「この国は力がルール。そうしたのは、無能な王族だから仕方ないよね。ディーレ様」


 オシュテンは傘の中にディーレを入れた。

 赤い線が切れて解放される。


「ディーレ様、僕のもとにおいで」

「なら、クレーエン様たちは」

「いいよ、殺さないでいてあげる。どうせ雑魚だし」


 オシュテンはディーレの腕を強く掴んだ。

 ディーレは痛みに顔をしかめる。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る