4章 もう一つの組織

15話 : ガキとガキ

 ラメッタは僅かに覚醒すると、息遣いを感じる。

 目を開ける。

 ディーレが掛け布団を抱き締めて離さないでいた。

 やれやれ、と子を見る親のような穏やかな声で言う。


「よし、今日は早めに」


 ラメッタはベッドから出て支度を始める。

 水をポットからコップに注ぐ。

 

「うまいのお。今日はフルーツパーティじゃな。ドームまで行こう。じゃが、誘拐されたこともあって、やつに見つかると面倒じゃ。今のうち、今のうち」

「ラメッタ様?」

「ディーレ姫、起こしてしまったか」

「ラメッタ様、どこへ行くのですか?」

「トゥーゲント連合のとこ。フルーツもらいに」

「一人でですか? 護衛は」

「まあ大丈夫じゃろ。戻ってきたらフルーツパーティしよう。実はな、わしが考えた新種のフルーツもあるんじゃ」

「それは楽しみですが。危ないので」

「気をつける。任せるのじゃ」


 ラメッタは動きやすい服装に着替える。

 部屋を出たラメッタは楽しそうにスキップしていた。


「クレーエンに見つかる前に、フルーツもらってパーティパーティ。クレーエンに見つかる前に、フルーツもらってパーティパーティ。クレーエンに見つかる前に、フルーツもらってパーティパーティ」

「ラメッタ、どこ行くんだ?」


 ラメッタの背後から声が聞こえる。


「そうじゃな。トゥーゲント連合のとこに行ってフルーツもらう。新種のフルーツもあって楽しみじゃな。止めるなよ、あのガキに見つかるとうるさそうで。だからの、クレーエンに見つかる前に、」


 ラメッタの肩に力強い手が置かれる。

 歩けなくなってラメッタは立ち止まった。

 冷や汗が出る。

 後ろは見ないでおこう、ラメッタは決めた。


「で? ラメッタは誰に見つからないようにフルーツをトゥーゲント連合までもらいに行くんだって?」

「はて。なんの話じゃろ?」

「聞こえてなかったと思うか? おい、こっち見ろ。目を合わせろ」


 ラメッタはゆっくりと振り返る。

 クレーエンの髪は逆立っていた。

 ラメッタは笑った。


 そして。

 クレーエンに怒られた。


 目つきが怖かったため、ラメッタは正座をしたまま泣き出してしまった。

 呆れたクレーエンは、譲歩としてクレーエンが護衛につくことでフルーツをもらいに行くことを許可した。


「怖かったのじゃ、ぐすん」


 ラメッタはぺたんと足を床に着けて、溢れ出る涙を人差し指でひたすら拭っている。

 クレーエンは予想外の状況で気まずそうに立っていた。


「ラメッタ様、もうクレーエン様は何をしたんですか?」


 ディーレが寄ってきた。

ラメッタの喚き声が聞こえたのだろう。

 頬を膨らませてクレーエンを見る。


「俺はラメッタの監視も護衛も任されている。勝手なことをするなと注意しただけだ。大体一人でトゥーゲント連合のところへ行くとはどういうことだよ」

「ラメッタ様はか弱い女の子ですよ? ひどい、女の敵」

「そこまで言わなくても良くないか?」

「ほら、ラメッタ様がかわいそうです」

「そうだそうだ。わしがかわいそうなのじゃ、ばーかばーか、クレーエンのばーか」

「クソガキがッ!」

「また意地悪か? わしがかわいそうというか、かわいいというか傾国の美女というか」

「は?」


 クレーエンは頬をぴくりと動かして、眉に力を入れる。

 呆れたような、諦めたような、静かな怒りのような。


「いえ、なんでもないです」


 ラメッタは怯えた。


「なら私も行かせてください」

「ディーレ姫、ならってなんだ」

「勝手に、でなければトゥーゲント連合に行けますから。同盟というか、国民というか、私の目で彼らの活動を見たいです」


 ディーレは力強い目でクレーエンを見る。

 覚悟が決まっている、一国の姫なのだ。

 クレーエンはディーレの表情を見て僅かに口角を上げる。

 他の誰も気づいていないだろうが、覚悟を決めている人間の強さが好きなのだ。


「護衛は?」

「みなさん疲れてます。クレーエン様だけでは足りませんか?」

「お? クレーエンってば、最強の魔剣士じゃろ?」

「だからどうした?」

「なら護衛はクレーエンで十分。それに向こうにいるのは仲間のトゥーゲント連合の者じゃから」

「そうだが」

「決まりですね!」


 ディーレは急いで駆けていく。

 従者を捕まえて部屋へ。

 戻ってくると、短いズボンを着ていた。

 動きやすそうな服装にしたのだとか。

 頭には細かく編まれた帽子を被っている。

 手には真っ白な軍手。

 つまり。


「ディーレ姫、収穫する気満々だなッ」

「あら。ただお手伝いできるならした方が好感は持てるものですから」


 ディーレはわくわくして落ち着かないらしい。

 腰を揺らしてもじもじしている。


「よく分からないお姫様だな」

「ほれほれ、クレーエン。お姉さんが好きなんじゃろ?」

「母性の欠片もない。ありゃ、ガキだろ」

「むう? 本当に好きなのはお姉さんなのか? わしのようなロリロリした美少女が好きだけど調子乗らせるのが気に食わないからお姉さん好きって言ってるんじゃろ。わしに一目惚れしたからって、わしの髪を出会ってすぐ切らなくても良かったじゃろ。ショートカットが好きなのかもしれないけど、わしのピンクの髪にはやっぱりお団子ツインテールが一番じゃ!」


 とラメッタは言って。

 震えながら頭を抱える。


「わしの髪いいいい! うわあああああ! まだまだ受け入れられてないのに! うわあああああ!」

「叫ぶな」

「クレーエン、貴様は女の子の敵じゃ」

「そうですよ、クレーエン様」


 ディーレも加勢する。


「ディーレ姫、バオム国を自らの手で治めたいのなら、近くに置くやつと尊敬するやつは考えた方がいいだろ?」


 クレーエンの言葉に、ディーレは首を傾げる。


「ラメッタ様はこの国の英雄になるような、立派な方ですよ?」


 ディーレが言うと、クレーエンは目を手で覆った。

 末期かもしれない。


 こうして、ラメッタ、クレーエン、ディーレの三人で、トゥーゲント連合のもとに行くことになった。




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