14話 : 悪い子です!
パーティを終えた翌日、ラメッタは疲れでほぼ寝ていた。
夕食の時間にぎりぎり目を覚まして食事をすると、眠気がないため本を読むことにした。
城の書庫へ行く。それから歴史に関する本を自身に割り当てられた部屋に持っていく。
「ラメッタ様?」
「お、ディーレ」
ラメッタの部屋とディーレの部屋はすぐ隣である。
二人は同じ部屋の予定だったが、ラメッタが本を読むためと寝る前に魔道具や魔法薬の研究をできるようにするために分けたのだ。
姫が寝るときに明るくしてしまえば睡眠の妨げになる。
光源は魔道具を介した光魔法であるため、火事の問題がないだけでなく悪い気も追い出してくれるらしいのだが。流石に姫の部屋で実験をするのは危険すぎるとのことで。
ディーレはラメッタと一緒がいいと主張したものの、従者と執事の願いによって別々の部屋に決めたのだった。
部屋に入る直前で、ちょうど部屋を出ようとしたディーレに出会った。
「良い子は寝る時間じゃぞ?」
「なら私は大丈夫です。こう見えても悪い子なので。今日は眠れる自信がないんですよ?」
無理に作った笑顔をラメッタに見せる。
「不安か。ならうちに来るか? 今日は実験しておらんから大丈夫じゃろ」
「そうですね。今日は悪い子ちゃんモードなので」
「たまには良い。そうだ、フルーツパイ食べるか?」
「夜遅くにですか!」
ディーレは嬉しそうに飛び跳ねる。
「おいで。今日は悪いことしよう。代わりに話すのじゃ」
「手加減よろしくお願いします」
ラメッタはディーレの手を引いて。
部屋の中に連れ込むのだった。
ディーレは部屋に入ると感嘆の声を上げた。
ラメッタの魔道具を使っているため、照明が従来の魔法や他の人が作った魔道具のものよりもはるかに明るい。
ジュースを飲むためのポッドがある。
工具や綿棒のようなもの、いろんな色の液体など魔道具作りに欠かせないものもディーレには新鮮だったらしい。
「待っていろ」
ラメッタは等身大の箱から皿に盛ったそれを取り出した。
焦げた生地の渋さと満遍なく加えた砂糖の甘み、果物のすっきりとした爽やかな酸味が漂ってくる。
「これ!」
「フルーツパイなのじゃ。それと紅茶」
「美味しそう。キラキラしています」
「そうじゃろ、そうじゃろ。紅茶に砂糖はどれくらい入れるかの?」
「入れなくて大丈夫です。そのままを味わいたいですし、砂糖で誤魔化さなくても美味しいものだって分かります」
ラメッタは渋い顔をする。
ディーレは三姫の長女でクレーエンより年上といっても、七十八才のラメッタからすれば子供である。その彼女が砂糖を入れないのは予想外であった。
ただ砂糖必須なのがラメッタである。
「わしは入れるけど」
角砂糖の入った瓶を持ってきて、ディーレから見えないように角砂糖をいくつか摘まんで紅茶に入れる。
「私も最近まで苦いなって思ってました。でもいろいろあったから、意外と苦くないって思って。今では砂糖は入れずにそのままを味わおうって」
「現状をしっかり捉えるのも、王の資質じゃな。……じゃなくて。砂糖入れなくても美味いん?」
「ラメッタ様の紅茶、気に入ってます。あ、パイも食べていいですか」
「もちろん」
「甘くて美味しいです」
「ほら。ディーレの笑顔を見ていると、年相応の……」
「紅茶に合いますね」
「?」
「ラメッタ様どうしました? 美味しくて夢中になってしまいました。聞き逃してしまったのでもう一度お願いできますか?」
「ん? わし、何も言っておらんぞ」
大人なディーレであった。
ラメッタは砂糖たっぷりの紅茶と甘いフルーツパイを味わいながら。
「私が嫁げば今度こそバオムは、なんて思いますが」
「そうなればもう一方のテロ組織が国を治めるも同然じゃな」
「そうです。ベリッヒやチルカに代わりに嫁いでもらうこともできませんし」
「そうか。勢力を考えれば既に負けるとは思えないが」
「無事かは別問題ですし、テロ組織とはいえ私の守るべき国民です。本当に嫁いで国が安定するならそれでもいいんですよ」
「声が震えておるな。言ったじゃろ、わしがいれば大丈夫。ディーレ姫、本当にしたいのは違うじゃろ」
「お父様や他の王族貴族を見つけてあげたいです、もし無事ではないとしても。そして国をまとめて、魔王軍を食い止める」
「そうか。おぬしとわしは友達。全力で助けよう」
「ありがとうございます。フルーツパイ、もっと食べていいですか?」
ラメッタは無言で皿を差し出す。
ディーレは晴れた笑顔で頬張る。
「夜じゃぞ? 太るぞ」
「ラメッタ様、今日だけですよ。悪い子なのも」
「なら仕方ない」
「そうですよ!」
二人は笑い合う。
「決めました。私、今日はラメッタ様と寝ます」
「わし怒られない?」
「知りません。執事や従者に怒られるかもです」
「そんなあ」
「今日だけの悪い子なので。駄目ですか?」
「怒られたくないだけで嫌とは言っておらん」
「ラメッタ様っていい匂いですよね」
「なんじゃそれ」
「森の妖精って感じがします」
「実質森の妖精といっても過言ではないからのッ!」
ラメッタがベッドに仰向けで寝ると、ディーレも布団に入って仰向けになる。
「バオムに来てくださるのがラメッタ様で良かった」
「そうじゃろ? わし、優秀じゃからの」
不安そうにしていた少女は。
ラメッタの温もりを感じると穏やかに眠りにつく。
ラメッタはディーレが眠るまで横目に見ると。
微笑んで布団をぎょっと手で握り瞼を閉じた。
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