13話 : 宴じゃあ!

 バオム国の王族が住む城は三階建てである。


 今日は最上階である三階のほとんどのスペースを占めているパーティ用の部屋で、バオム国の王族と二大テロ組織の一つだったトゥーゲント連合が手を組むということでパーティをすることになった。


 といっても、王族側は執事一人、護衛兼従者が十人、三姫(長女ディーレ、次女ベリッヒ、末っ子チルカ)、エデア王国からやって来た傭兵二人と魔剣士クレーエン、魔道具職人ラメッタで全員だ。


 これは、貴族王族のほとんどが魔王軍との前線に送り出されているためだ。


 一方、トゥーゲント連合は、長であるシュヴァルツ、ラメッタ誘拐の主犯であったブラオン、筋肉で血管が浮き出ている大男のヴァイス、痩せ型のグリューンが集まっていて、連合の幹部は全員参加だ。


「宴じゃ。わしら正式に仲間じゃからの!」


 乾杯の合図を送るためラメッタはグラスを掲げる。

 グラスの中の赤みのあるブラウンはラメッタが普段飲んでいる紅茶である。


 なお、時間としては七十八年生きているラメッタだが身体の年齢は十三才で止まっているため子供舌で、砂糖を大量に入れなければ飲めない。

 誘拐されていた当初は砂糖が希少だったが。


 ラメッタは魔道具と魔法薬で栽培することで、三日ほどで大量の砂糖を手に入れていた。


「慌てて砂糖を用意してまで飲むものか?」

「この紅茶は美味いから」

「砂糖の味しかしないだろ」

「今回、角砂糖はたったの四つ!」


 クレーエンは相変わらずボサボサの髪である。

 持っているグラスに入っているのは小さな木の実を砂糖水と混ぜたジュースである。


 トゥーゲント連合、三姫も同じジュースを選んでいた。

 

「急に減らしたな。……待て。からくりがあるはずだ」

「簡単な話じゃ。大人なお姉さんからすれば紅茶がお似合いすぎるからの」

「見た目ガキで何を言う? それにしてはドーム型の建物増設して、砂糖の原料栽培してたじゃないか」

「ぎく」


 ラメッタの肩が不自然に震えた。

 そして、眉がぴくりと動く。


「ん? 何か隠しているな。もしかして、角砂糖が前ラメッタの家で見たものより大きいのか?」

「まだまだじゃな」


 長いテーブルが五列ほど並んでいる。

 その上には豪華な食事が準備されていた。

 ラメッタは大きめのポッドの近くにある瓶を手に取って、中にある立方体を手のひらに乗せる。


「ほれ。同じじゃろ? ってクレーエン!」


 クレーエンはにやりと口角を上げると、舌を出してラメッタの手のひらの角砂糖を舐めるようにして口の中へ含んだ。

 ラメッタは舐められた手をじっと見て固まる。

 顔を真っ赤にして。


「甘すぎる。普段よりも甘いのか。一粒にたくさん原料を含んだわけか。答えろ」


 ラメッタは動かない。

 クレーエンは揺すった。


「答えろじゃないわい。この変態が、幼気なわしにい!」


 ラメッタは駆けていった。

 城のうち、ラメッタに与えられた部屋まで走る。

 そこに小さなポッドがあった。

 水を出して手に掛ける。

 床を布で引き取る。

 再びパーティ会場に戻った。


「どうした、ラメッタ」

「クレーエン、おぬし。わしのかわいいお手手をぺろぺろするな! むう」


 ラメッタは頬を膨らませて睨む。

 頭に血が上って真っ赤になっていた。


「ラメッタ、乙女みたいなこと言うな。七十八なのか十三のガキかは分からんが」

「貴様あり得ない。女の子は何才になっても乙女なのじゃ。女心も分からないクソガキには何を言っても無駄かのう?」


 得意げな表情でクレーエンを挑発する。

 クレーエンは目を反らして興味なさそうにラメッタから離れる。

 骨付き肉を取ると齧った。


「面白くないの。まあ良い」


 ラメッタは瑞々しい葉物野菜のサラダに、酸味のある果実と植物から採った油をベースに作ったドレッシングを掛けた。


 サラダもドレッシングもラメッタが原料から栽培して作ったものである。

 噛むとシャキシャキと音を立てる。


「ラメッタ様」

「おお、ブラオン。どうした?」

「宴、ラメッタ様の乾杯を待たずに始めてしまった」

「ふ」


 ラメッタはブラオンの背中を叩く。


「おぬしがわしを攫ってこうなったんじゃろ?」

「でも」

「弱々しいの」

「ふん。本当よ、テロ組織のくせに弱気すぎるわ。わたくしがびびってたのが馬鹿みたい」


 ベリッヒがやって来た。

 赤と薄紅色のドレスを着ている。


「ふーむ。びびっていたから引き籠もりじゃったのか。情けない」

「何を言うんですか? まさかわたくしが!」

「じゃって、ブラオン。やっちまえ」

「分かりました。ベリッヒ姫、では」


 ブラオンは大きく手を振り上げた。

 ベリッヒは軽くしゃがんで手を顔の前に出す。

 ブラオンは振り上げた手を勢いよく。


「や、やめてください。……って」


 ブラオンの手がベリッヒの背中を撫でる。


「俺たちが迷惑かけたな」

「そ、そんな。格好いい、格好いい、格好いい」


 ベリッヒが壊れた。

 目がハートになっている。

 頬を手に当ててしゃがんだまま立ち上がる様子がない。


「駄目よ、わたくし。わたくしは姫の身、この国のために捧げなくては。その通りよ、ベリッヒ」

「姫、体調悪いのか?」

「どっかのクレーエンと違って話が分かる者じゃな。ベリッヒ姫を抱えて安全なところへ行くべきじゃ!」

「そうなのか。分かった」


 ブラオンがベリッヒを軽々と抱えたときだった。

 冷たい視線が刺さる。


「何をしてるの? ってベリッヒ、湯気が」


 ディーレは抱えられたベリッヒの額に手を置く。

 自身の額の温かさと比べると、顔を真っ青にした。


「わしは魔法薬も得意としており病気を治すこともあります。したがってそういうのは詳しいと自負しておりますが、ベリッヒ姫は病みたいで」

「そうなんですか! ベリッヒがなかなか部屋から出ないと思っていましたが」


 ベリッヒが部屋にいるのはテロ組織に怯えているためであるが、ラメッタは黙っておくことにした。また、ベリッヒは生娘であるためブラオンが接触することで熱を持ってしまっているだけである。


「ラメッタ様」


 執事が言う。


「どうしたのじゃ?」

「ベリッヒ様をからかいよって。貴様ああああ、キエエエエエエエエ!」


 執事はカッと目を見開いて、血眼でラメッタを見る。

 唾が飛ぶような大声で叫ぶ。


 ラメッタは驚きのあまり気絶した。

 なお、パーティは続行した。

 その間ラメッタは壁の隅にもたれるように倒されていた。

 



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る